再エネは「安い」のか?

再エネを導入しても火力発電の固定費は回避できないので、再エネのコストと比較すべきは、火力発電の可変費だということだ。
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In this Wednesday, May 13, 2015 photo, some of the more than 37,000 solar panels gather sunlight at the Space Coast Next Generation Solar Center, in Merritt Island, Fla. Industry experts rank Florida third in the nation in rooftop solar energy potential but 13th in the amount of solar energy generated. Renewable energy experts and the solar industry say Florida lags behind because the state is one of only four that require solar energy to be sold exclusively by utilities. (AP Photo/John Raoux)
ASSOCIATED PRESS

最近、欧州での再エネ導入が進展している理由として、再エネは太陽や風といった自然の恵みであり、その限界費用はゼロだと強調することで、いかにも再エネが低コストであることを主張する議論が見られるようになった。

そうした議論によれば、原子力や火力は限界費用が高く、一方再エネは限界費用がゼロなので、前者は後者にどんどん駆逐されていくのが当然だということのようである。しかし、こうした論の最大の誤りは、再エネは例えば固定価格買い取り制度(FIT)のような政策措置で、その固定費の回収を市場外で保証されていることを忘れていることだ。このことは専門家にとっては常識なので、もしも論考にこの点を触れていないのであれば、それは再エネの優位性を強調したいがための故意の所業だと言わざるをえない。

限界コストの安い再エネになぜ政策補助が必要かと言えば、市場から得られる利益では、初期投資等の固定費が回収できないからだ。市場から得られる利益を図1で簡単に説明する。東京財団平沼光氏の論考「限界費用ゼロが引き起こすエネルギー・ゲームチェンジ」に掲載されていたグラフ(P3図表1)に需要曲線を追加した。

需要曲線がD1であると、市場価格はガス火力の限界費用であるP1になる。限界費用ゼロの再エネであれば、このP1がまるまる固定費回収の原資となる。

<図1>

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このP1で固定費が回収できないゆえに、FITでは、再エネに対して固定費を含めたコスト回収が可能な買い取り価格が予め保証される。コスト回収が保証されないのが一般的な市場競争の中で、再エネだけコスト回収が保証されるという市場外での政策措置の存在が、再エネの投資だけを増加させるのだ。歪んだ形とはいえ、一旦投資されてしまえば、固定費はサンクコスト(埋没費用)化するから、限界費用が安いものを優先的に活用するメリットオーダーでは、再エネが優位を持つのは道理である。

自動車は家電などの一般的な商品であれば、価格競争で敵を駆逐することが「成功」といえよう。しかし、電力の世界では様相が異なる。特に、自然任せの発電しかできない太陽光や風力のような再エネでは、自然が味方してくれない時(雨や無風など)は火力発電の力を借りなければならない。火力発電は、再エネにとって常に「敵」ではなく、補完的な役割を果たす「仲間」の時もあるのだ。ところが、再エネの限界費用がゼロだということで、喜んで「敵」である火力発電を市場から駆逐してしまうと、自らも市場で存立し得なくなってしまう。再エネだけでは、停電が避けられないからである。

電気の消費者は、停電になっては困るから、本来火力発電の存立(つまりは設備投資等の固定費のコスト回収)を可能とするよう、適正な負担をする必要がある。ところが、何らかの理由で(例えば政治的な圧力や市場の不完全性などによって)そこまで十分に小売価格が上昇しなければ、従来の電力会社の火力発電は採算が取れなくなり、廃止措置を取っていかざるをえなくなる。その結果、中長期的な供給力が不足して停電のリスクが増える懸念が生じる。これが、現在ドイツで起こっている状況だ。

結局、再エネが真に「経済的」と言えるためには、次の二つの試験を通る必要がある。

第一に、上述の通り、再エネを導入しても、再エネが発電しないときに必要な火力発電は廃棄できるわけではない。つまり、再エネを導入しても火力発電の固定費は回避できないので、再エネのコストと比較すべきは、火力発電の可変費だということだ。すなわち、自らの固定費込みの発電コストが火力発電の可変費より安くないと、再エネは経済的とは言えないのである。

第二に、再エネを大量に導入するのであれば、ガス火力だけでなく石炭火力との比較も必要である。図2は図1にもう一本需要曲線を加えたものである。需要曲線がD1であれば、再エネが発電することによってガス火力の可変費負担が回避されるので、再エネの発電コストがガス火力の可変費P1よりも安ければ経済的と評価できる。他方、需要曲線がD2のときは、再エネ発電により回避されるのは、ガス火力よりも限界コストの安い石炭火力の可変費P2であり、それより安くないと再エネは経済的とは言えない。

<図2>

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このP1またはP2が回避可能費用と呼ばれるものであるが、再エネの導入量が増えるにしたがい、回避可能費用はP1ではなくて、P2で決まる時間帯が増えてくることになる。回避可能費用とは、要するに再エネが発電する電気の価値である。回避可能費用が下がるとは、再エネが生み出す電気の価値が下がることに他ならない。つまり、再エネは、導入量が増えるに従って、発電する電気の価値が落ちていく。価値が落ちていくのであれば、それに呼応してコストを下げていかないと、経済的な電源とはいえなくなるわけだ。

上記の話を日本に適用してみる。先日政府が公表した「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(案)」によると、2014年の電源モデルでガス火力の可変費は12.1円/kWh、石炭火力は8.5円/kWhである(1)。この水準以下を目標としていただくことを再エネ関係者には望みたい。

上記のほかにも、再エネ電源の適地が偏在しているのであれば、送電系統を増強するコストを考慮する必要があるとか、発電時間が短時間で大きく変動することに備えて、周波数を安定させる対策のコストを考慮する必要である等も論点となる。

こうした考察を経ない「再エネは安い」という議論には重大な欠陥があるということだ。

1 同資料のP10参照。燃料費+CO2対策費を可変費と見なしている。