「激務」だったはずのリクルートで男性の育休が必須化 やってみたらどうなった?

【タエが行く!第1回 リクルートコミュニケーションズ清水淳社長編】「本当はどうなの?男性の家庭進出」
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働く男性がもっと積極的に育児に関わるため、男性にも育児休業を義務化しよう!

もしかして、Twitterで炎上しちゃうかも?ちょっとビクビクしながらイベントを開催したら、実はすでに実践している企業があることがわかった。しかも私(天野)がかつて働いていた会社(のグループ会社)じゃないの!

リクルートコミュニケーションズ(東京都中央区)は、2016年4月から男性従業員を対象に「子供が生まれた際の20日間を特別休暇に、そのうち5日間は取得を必須化する」制度を導入。男性従業員も子供が生まれたら全員が育休を取得しているのだそうだ。

「激務」だったはずのリクルート、いつの間にそうなってたんだろう?清水淳社長に話を聞いてみました!

(聞き手は"元リク"女子、かつては長時間労働に従事していた「みらい子育て全国ネットワーク」代表の天野妙さん、執筆・編集:ハフポスト日本版副編集長・泉谷由梨子)

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清水社長(左)にインタビューする天野さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

「The長時間労働!」が、こうなっていた。

天野:リクルートコミュニケーションズでは子供が生まれた男性全員に育休を必須にされたそうですね。会社はどう変わりましたか?

清水:リクルートって、どんなイメージを持たれています?

天野:はい、私もリクルートコスモス(現コスモスイニシア)出身ですから(笑)「The長時間労働!」みたいな会社でしたよね、昔は。

清水:バリバリの女性じゃないと無理、というイメージですよね。家事育児との両立なんて想像つかない、すごく激務の職場、そういう感じですか(笑)。でも今、全然そんなことないですから。本当に変わりましたよ、この5年で。

天野:たった5年で変わったんですか?

清水:例えば、従業員に「両立可能な会社かどうか」を聞いたアンケートがあるんです。リクルートコミュニケーションズでは5年前計測した際は「難しい」寄りだった数字が、「できる」寄りに変わりました。男性育休だけではないですが、この5年は従業員満足(ES)というテーマに向き合い、どうしたら従業員が仕事をしやすくなるか、会社に居続けたいと思うかということを真剣に考え、様々な制度を導入しました。でも、会社は成長しており、生産性で見ても上がってるんです。それが小さな成功体験として「なんか大丈夫そうだね」という感覚が共有できた。実感できる数字として出たんですよ。

元・育休男子だった清水社長

天野:清水社長も実は元・育休男子だったと伺っています。

清水:はい、15年前、1カ月間。今は15歳になった次女の生まれた時でした。当時はリクルートの求人系ビジネスの企画部門でマネジャーをしておりました。実は育休制度ではなくて、「リフレッシュ休暇」という、3年に1度取得可能な休暇制度の取得時期とちょうど重なっていたので、それを充てました。妻が出産で入院する間、長女の世話をするためにですね。

天野:ではもともとそういう休暇制度があって、取りやすかった?

清水:いえ、実はその休暇も、当時は取得する人はあまりいませんでしたね。いても、1週間とか。上司には、「ええー!」とは言われました。

天野:1カ月休む、しかも15年前、相当勇気がいる行為だったと思うのですが、育児をする男性の先駆け、ファーストペンギンになろうと思われた?

清水:全く、無自覚的にでした(笑)。でも良かったのは、長女がいまだにその頃のことを何となく覚えていて「寂しくなかった」と言ってくれたり、妻も出産直後の大変な時期に父母に来てもらったりするより「気を遣わなくてよかった」という話をしてくれたりしたことですかね。

天野:具体的にその「育休」の1カ月間は何をされていたんでしょうか?

清水:小学生の長女と2人でしたから、ごく普通に朝ごはんを支度して、洗濯、妻の見舞いに病院に行って、子供にオヤツを食べさせて、夕食の支度をして。記事になるような話はあまり何も無くて(笑)。でも子供と毎日ずっと顔を合わせているとコミュニケーションの濃さが全然違う。友達とケンカした、という話をじっくり聞いたりですとか、そういう良さはありましたね。

天野:休む人がそれほどいない中で、「出世に影響が!」とは思われなかった?

清水:ないです。

天野:出世にこだわりがなく、社長の地位まで来られたってことですか?えー、ちょっと疑っちゃいますねえ〜(笑)

清水:いえ、本当に、私は凡庸ですから...。

天野:多くの男性の皆さんは結構、その点を強く意識されているんですよ。「育休は取りたい、でも取れない」という方が。

清水:大げさに言うと「出世」にもつながることなんでしょうけれど、「周囲に申し訳ない」とか、「自分がいないと迷惑がかかる」と不安を持っているようですね。今でも例えば、新婚旅行の休暇を取得したいけれど「申し訳ない」「仕事が気がかり」「仕事が溜まるのが辛い」とマネジャーとの面談で打ち明ける社員もいるようです。責任感がある、ということなんでしょうけれど。

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清水社長
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

「育休男子」経験は、マネジメントで役立った?

天野:「育休」時代に、清水社長はご自分と家族の生活や幸せの価値観を見つめ直されたという風に感じました。今ビジネスでそれが役立っていることはありますか?

清水:〝リアリティが"違いましたね。こうした女性活躍推進や働き方変革をテーマにした経営判断に関わるときの。男性育休必須化を導入する際にも、経営陣に対して、僕自身が育休を取得して、どう感じたかを自分の言葉で伝えられた。これから人口減少する中で、どうしたら働きやすい会社になるか、この会社で働き続けたい従業員をどう増やすかが大事なんです。それを基軸に考えなければ、優秀な従業員を獲得することは、もうできなくなっています。ビジネスの戦略の中心に、従業員満足(ES)がなくてはならない。それをブレイクダウンしたものがダイバーシティや女性活躍推進、働き方の改革。仕事だけの生き方は、やっぱり自分自身でも魅力的には思えない。ライフの充実と仕事は人の両輪だと思います。

天野:男性育休の必須化を導入された時、社内に反発はあったのでしょうか?結構思い切った制度だと思うのですが。

清水:部長やマネジャーたちからは、少しはネガティブな声もありましたね。「それに対してキャリアは保障されるのか?」「自分がいない間の仕事はどうするんですか」みたいな意見も。それって、全部気にしすぎなんです(笑)少数でも不安に思う人がいるなら、その気持ちを払拭しポジティブに男性育休を使ってもらいたい。そのために、「育休を取ったら僕はこうなった」というような、男性従業員の体験談を集めて冊子にして配ったりしました。

天野:やっぱりご自身がすでに「育休」を体験済み、かつ仕事でも成功しているので、「気にしすぎだよね」というコメントも説得力がある。

清水:そうかもしれないですね。加えて、成果主義を実現できているということも大きいと思います。「必ず毎日会社に来ていることが責務ではない」というのがまず浸透しているので。男性育休という「非常識だったものを常識にする」ために一旦、全員が取得する状態にしようと思いました。会社の常識を変えないとダメだと。思い切ってやってみて、あとで問題があったらチューニングすればいいんです。

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清水社長にインタビューする天野妙さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

「非常識を常識にする」には「『普通』がどちらかを変える」こと

天野:「非常識を常識にするために、『普通』がどちらかを変えるのが必要」という発想だったのですね。

清水:実は労働時間でも同じなんですよ。育児や介護を抱えた社員が「後ろめたくない」組織にすることが非常に重要です。時短勤務などの制度があっても、他の社員皆が長時間労働している状態では、やっぱり後ろめたい。でも、労働時間の平均を減らして、皆がそこそこで帰る状態が普通になってくると、今度はそれが常識になる。会社の「普通」がどちらにあるのか、を変えることで、全体が変わっていけるんです。

天野:ワーキングマザーやその他の従業員の「後ろめたい」気持ちは、なかなか経営者の方に気づいてもらえない悩みの一つです。なぜそこをポイントにしたのですか。

清水:両立についてのアンケートで、「両立しづらい」という回答の理由に「自分の仕事を完遂できない申し訳なさ、後ろめたさがある」という意見がすごく多かったんですね。実際にはマネジャー陣は意外と、そんな風には思っていないんです。でも、当事者からすると、周りのちょっとした「えっもう帰るの?」みたいな言葉が、非常に気になると。

天野:確かにそうなんですよねえ。「あれ?もうそんな時間?」とか、何気ない言葉なんですけど。

清水:そのへんも「会社の普通がどちらか」にすごく影響を受けていると思うんですよ。それってスマホとガラケーも同じだったと思うんです。最初はスマホが珍しかったけれど...あるラインを超えると...。

天野:「えっまだガラケー使ってるの?」「まだ育休取ってないの?」ですね。

清水:そういうことが、イノベーションなんだろうなと思っているので。ものづくりとか、商品化だけがイノベーションではない。組織運営とか、風土を変えること、それがイノベーションの一つの考え方として必要だと思うんですよ。

天野:改革にはリスクがあるかもしれない。でも前に進むというのは、経営者の方々にはなかなか難しいところだと思います。なぜ行動できたのでしょうか?

清水:日本企業は計画をすごく大事にしますよね。計画を練りすぎて、間違った計画に突き進んでいることもよくある。その時に間違いを認めて、リプランニングしてやっていくほうが絶対に大事ですから。世の中の環境や価値観が、ガラッと変わっています。実行して、もし失敗したら、責任は私に当然あります。でも、直せばいい。この時代の経営の仕方としては、そっちのほうが合理的です。そういう風に強く思っていますね。

実際に同社で育休を取得した従業員のインタビューはこちら

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清水淳社長と天野妙さん
Yuriko Izutani / Huff`Post Japan

株式会社リクルートコミュニケーションズ

2016年4月1日から男性の育児休暇取得を必須化(1日単位での取得も可能)

  • 従来2日だった子供の出生時の特別有給休暇を最大20日に拡充、うち5日間の取得を必須化
  • 取得可能期間は子供が満1歳になる月の末日まで。
  • 対象は社員、専門社員、契約社員

清水淳(しみず・あつし)社長 

1989年4月、株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)入社。2013年4月、株式会社リクルートコミュニケーションズ代表取締役社長に就任し現在に至る。2018年7月より株式会社リクルート執行役員、株式会社リクルートテクノロジーズ代表取締役社長を兼務。

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