書店員がビジネスパーソンにオススメする一冊 『GIVE & TAKE ~「与える人」こそ成功する時代』

書店員がビジネスパーソン必読の一冊を紹介するこのコーナー。今回は、"与える"ことと"見返りを求める"ことが形づくる人間関係を分析、解説した『GIVE & TAKE ~「与える人」こそ成功する時代』を紹介する。
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書店員がビジネスパーソン必読の一冊を紹介するこのコーナー。今回は、"与える"ことと"見返りを求める"ことが形づくる人間関係を分析、解説した『GIVE & TAKE ~「与える人」こそ成功する時代』を紹介する。

本書は、"与える"と"見返りを求める"、つまり「ギブ&テイク」に関わる人間を、他者の利益を優先する「ギバー」、自己利益を優先する「テイカー」、利益と見返りを五分五分で考える「マッチャー」の3つのタイプに分類。その上で、「与える人こそ成功する時代」と副題にあるように、これまで過小評価されていた"与える人"がいかに今の時代に求められている存在であるのかを解説している。

今回は、本書の編集を担当した三笠書房の能井聡子さん、青山ブックセンターの作田祥介さんに本書の魅力について話を伺った。

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3つのタイプとは?

――著者であるアダム・グラント氏は、執筆時には、まだ29歳だったと知り驚きました。

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能井 聡子さん

株式会社 三笠書房

編集部チーフエディター

能井さん

グラント氏は、ペンシルベニア大学ウォートン校教授で、同大学史上最年少の終身教授です。フォーチュン誌で「世界でもっとも優秀な40歳以下の教授40人」に選ばれた勢いのあるかたです。組織心理学の分野で論文を数多く発表しているほかにも、頻繁にソーシャルネットワークへ投稿も行っています。そのような同氏が記した本書は、24カ国語に翻訳され「読んだ人の働きかたへの意識を変えた」とも言われている一冊です。

――「ギブ&テイク」はよく耳にする言葉でしたが、3つのタイプに分けているのがとてもユニークでした。

能井さん

「ギブ&テイク」にどのようなイメージを持っていますか。

人がそれぞれの場や状況に合わせて"与え"て"見返り"を得る。これが「ギブ&テイク」ですよね。世の中はこの「ギブ&テイク」で成り立っています。本書は、ギブとテイクを相手の利益を優先する「ギバー」、自分の利益を優先する「テイカー」、他者と自己の利益を五分五分にする「マッチャー」の3つのタイプに分けて、「ギブ&テイク」が形づくる人間関係の仕組みを解き明かした一冊です。

――昨今は、道徳的に"与える"ことの重要性を訴求する書籍が増えているように感じています。筆者が自ら"与えた"ことで"見返り"が得られた経験談に基づいて描かれており、漠然と「与えることが良い」とは感じられますが、具体的に「どうして与えることが良いのか」まで踏み込んでいないように感じていました。

本書は、「ギブ&テイク」に多数の実証を交えて、"与える"がいかに成功に結びつくのかが明確につかみ取れる一冊で、「自分はどのタイプなんだろう」と考えながら読み進められる一冊でしたね。

能井さん

私は「ギバー」の上司たちに恵まれ、育てていただきました。しかし、私はまだまだ上司たちのような「ギバー」になりきれず「マッチャー」だと思います。

世代でもタイプは変わってきますよね。例えば、高度成長期やバブル期などの競争社会では、必ず競争相手、つまりはライバルの存在が不可欠です。自己利益を追求する「テイカー」にならざるを得ない状態と言えるかもしれません。周りを出し抜かないと成功が掴めない環境の中では、「ギバー」はまるで聖者のように現実感のない存在のように見えてしまいます。

作田さん

高度成長期やバブル期は、競争を勝ち抜くために自己利益を追求する「テイカー」であってもよかったのかもしれません。しかし、現在は社会情勢がとても不確実で、先行きの見通しが立ちにくく、自分ではない他者が成功の鍵を握っている場合も往々にしてあると思います。そのため、さまざまな利害関係者と協力して仕事をしなければならない時代です。そこで自己利益ばかりを追求していると、周りの協力が得られません。他者を出し抜いて成功を収めようとする「テイカー」より、周りと協力して長期的な成功をつくり出していく「ギバー」のほうが、これからは大きな利益を享受できるのではないでしょうか。

過小評価されてきた「ギバー」

――本書を読んでいると、「ギバー」と「テイカー」に分かれるのは世代だけではないようにも感じました。

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能井さん

「ギバー」は相手をよく見て、話をよく聞き、才能を見つける能力に秀でています。

本書の中に「全米バスケットボール協会(NBA)」のスカウトマン、スチュ・インマンの話が出てきます。インマンはNBA史上最悪のドラフト指名に二度関わった一方、プロバスケットボール史上最高のスカウトマンの一人として認められていました。それはインマンが「ギバー」で、常にチームを最優先に考え、自身の失敗を素直に認めることができたためだと記してあります。また、彼は「ギバー」の特徴を持つ選手を集め、40年間優勝に恵まれなかったチームを優勝に導くことに貢献しています。

作田さん

本書を読んでいると、「ギバー」は個々人の才能を見極めて調整をするバランサー的な役回りをとることもできると感じられます。

本書では、チームやメンバーのことを第一に考える「ギバー」は、自分の失敗をすぐに認めることができ、リスクを最小限に留めることができると書かれていました。バスケットボールに限らず、企業など多数の人が絡む環境では「ギバー」は不可欠な存在だと思います。

――バブル期にも「ギバー」は存在していたのでしょうか。

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作田 祥介さん

青山ブックスクール

企画主任

作田さん

そう思います。

昔は、実力の抜きん出た「テイカー」のアイディアがそのまま答えになり、全体を率いることができたのかもしれません。しかし、人々の価値観が多様化し社会が複雑になった現在では、誰のアイディアが答えになるのかはわかりません。その場合、「ギバー」のように人をつなぐ役割の重要度が増していく、まさに本書はそれを伝えたいのだと感じました。


――「ギバー」の問題点として、p.262でモチベーションの維持が難しいと解説されていましたね。

作田さん

大学の奨学金の寄付を募るコールセンターのオペレーターの話ですね。

「ギバー」のモチベーション維持が難しいのは、他人に尽くすあまり、自分の幸せを犠牲にして燃え尽きる可能性を自ら高めるためです。p.262では、奨学金を受けたある大学生からの手紙で他者への貢献度がフィードバックされ、寄付を募る仕事の意義を見出した「ギバー」タイプのオペレーターが、「テイカー」タイプよりも大きな成果を上げるようになったエピソードが紹介されていました。 「ギバー」は自分たちの仕事が関係している存在に役に立っていると感じられれば、「テイカー」よりも大きな成果を出せる。「ギバー」の特性がよくわかりますね。

"成果"を判断する基準が得られる一冊

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能井さん

本書を監訳いただいた楠木建教授も「日本人にとっては当たり前の感覚」と仰っていました。「情けは人のためならず」の言葉どおり、日本人は漠然と"与える"ことが自らにも恩恵をもたらすと知っているんです。

しかし、作田さんがお話しされたように体系的には理解されておらず、「与えて燃え尽きるだけ」になってしまっていた人も多かったのではないでしょうか。


作田さん

「ギバー」は自発的に与えなくても大きな見返りをくれるため、「テイカー」にとっては好都合の存在。一方で「ギバー」にとっては、「テイカー」はとても厄介な存在です。 p.289の7章「気づかいが報われる人、人に利用されるだけの人」で、「テイカー」に食い物にされてしまった、あるフィナンシャルプランナーの話が出てきます。「ギバー」である彼は収益を上げても給料に反映されず、元同僚に頼まれて信頼関係を作った顧客たちを、数年後にそのまま奪われてしまっています。

そんな「ギバー」が「テイカー」と付き合う方法のひとつとして、時に損得を五分五分で考え、場合によっては「テイカー」にしっぺ返しをする「マッチャー」になるのが良い、というアドバイスをしています。

――「ギバー」は見返りを求めない、まるで聖者のような存在ではなく、実は大きな利益を生み出す「テイカー」であるのかもしれませんね。

能井さん

面白い見解です。p.137に「成功したギバーは、自分だけではなくグループ全員が得をするように、パイ(総額)を大きくする」と記してあります。「ギバー」は見返りを求めない無私の存在ではなく、常に「誰の役に立つのか」を意識して行動を起こす存在。それが最終的に自分にも大きな見返りになる、だからこそ、先ほどのNBAの話のように「天才を見つける」能力に長けているのではないでしょうか。

――日本には「情けは人のためならず」という言葉がありますが、まさにこれは「ギバー」の特性ですね。

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作田さん

p.367「テイカーをギバーに変えられるか」の章も大変興味深いですね。「テイカー」は見返りがあれば"与える"ことを厭わない。しかし、見返りを得てからは"与える"行為をしなくなってしまいます。一方「ギバー」は見返りのあるなしに関わらず、他者に利益を与えたり、惜しみなく協力したりします。

本質的に両者が異なる存在であることが本章でわかりました。


――最後に本書をどのようなかたに読んでいただきたいですか?

作田さん

プロジェクトマネージャーやリーダーなどチームを率いているかたや、マネジメント層や人事部など人を評価する立場にあるかたに是非読んでいただきたいです。一時、成果主義の概念が日本に入ってきましたが、成果のみの指標で評価するとこぼれ落ちそうな、他者に惜しみなく協力する「ギバー」タイプの人を評価するヒントを本書から得られるのではないでしょうか。

また、「ギバー」的資質が求められるボランティア活動や、企業でのCSR活動をされているかたには「燃え尽き症候群」に陥らないための方策が書いてあるので読んでいただきたいです。

能井さん

管理職のかたには読んでいただきたいですね。あとは教職のかた、バックオフィスで働いているかたにも是非。そして、「テイカー」が引っ張ってつくりあげてくれた成功モデルに、違和感を覚えているかたにも手に取っていただければ嬉しいです。「テイカー」と「ギバー」が混在する現代において、本書は双方の傾向や価値観を理解でき、いままで過小評価されてきた「ギバー」たちに「頑張ってみればいいじゃない!」と背中を押してくれる一冊なんです。