2001年にJ-REIT(不動産投資信託)市場が創設され、全ての投資家は現物不動産に投資しなくても不動産キャッシュフローを原資とする安定したインカム収入を享受できるようになりました。個人投資家にとっても、いつでも手軽に少額の資金から投資できるJ-REITは魅力ある金融商品の1つだと言えます。
しかし、残念ながら個人投資家におけるJ-REITの認知度は他の金融商品と比べて低く、またJ-REITを知っていても実際に投資経験のある人はそれほど多くないのが現状です。
不動産証券化協会が実施した個人投資家へのアンケート調査(図表1)によると、J-REITについて「名称だけ知っている」が35.8%、「名称も内容も知っている」が36.4%、合計で72.2%となり、J-REITの認知度が他の金融商品(株式、金・プラチナ、投資信託、外貨預金、公社債、商品先物、FX)より低い結果となりました。
また、各商品の認知者を対象に実際の投資経験の有無を聞いたところ、J-REITについて「現在保有している」が15.6%、「以前保有していた」が8.7%、合計で24.3%となり、「株式(83.8%)」や「投資信託(63.2%)」、「外貨預金(45.3%)」などと比べて低い水準にとどまっています。
ところで、前述のアンケート調査に含まれていませんが、ここ1~2年で個人投資家の間で認知度が急速に高まった金融商品として「仮想通貨」を挙げることができます。
新聞報道(*1)によると、仮想通貨の顧客数は延べ360万人に増加したとのことです。これに対して、現在のJ-REIT全体の投資主数は延べ約81万人、このうち個人投資家は約78万人(全体の96%)です。この数値はともに延べ人数であり両者を単純に比較することはできません。
また、J-REITの場合、個人投資家の多くは投資信託を経由して間接保有しています。しかし、J-REITの投資主数が仮想通貨を大幅に下回るという現実は、個人投資家に対するJ-REITの一層の普及活動が必要であること、そして投資家の開拓余地が依然として大きいことを示唆しています。
「毎月の生活費の足しにしたい」、「老後に備えて資産形成を図りたい」、個人投資家の投資への思いは様々ですが、J-REITはこれらのニーズを満たしてくれる金融商品です(図表2)。
リアルアセットに投資するJ-REITとそうではない仮想通貨は、商品特性が全く異なるため過度にライバル視しなくても良いと思いますが、個人投資家への普及活動に関しては、「仮想通貨なんぞに負けるな」の気概を持って取り組む必要がありそうです。
(*1) 「日本仮想通貨交換業協会によると、2017年度の仮想通貨取引量は約69兆円になり、16年度から約20倍に膨らんだ。顧客数は延べ360万人に増えており、業務拡大に伴うセキュリティ強化や資金洗浄対策が一段と重要になっている。」(日本経済新聞(夕刊)、2018年6月19日)
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(2018年6月29日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員