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「頭の中の開発」から始めれば、5倍のサービスを生み出せる。僕が米国で学んだプロダクトマネジメント術

齊藤満さんは、どんなに小さなスタートアップでも、開発に入る前に皆が共有できるドキュメントを書くことを勧める。Wordでもメールでも、何を使ってもいい。それはなぜか。
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現在楽天トラベルにてプロダクトマネジメントを統括する齊藤満さん。同社が、5年間エンジニアの数を変えずに、生み出すサービスを5倍近く増やせた理由とは?そして「PMは理想主義者であるべき」とはいったいどういうことなのだろうか。

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[プロフィール]齊藤 満

楽天(株)トラベルサービス開発・運用部 トラベルプロダクトマネジメント課 Senior Manager

1998年、マイクロソフト日本法人に入社。Internet ExplorerやOutlook Express、Windows Millenniumなどのローカライズを担当。その後、エバンジェリストとなった。2006年には米MicrosoftのWindows Divisionに移籍。2013年から楽天に所属し、楽天トラベル開発におけるプロダクトマネジメントを担う。

ドキュメント化するだけで、飛躍的に成果をあげられる

※2016年10月24日に開催された「Japan Product Manager Conference 2016」よりレポート記事をお届けします。

Microsoft JAPAN、AmericaにおけるPM経験を経て、3年前に帰国。現在楽天トラベルにてプロダクトマネジメントを統括する齊藤満さん。

普段はあまり表に出ないようにしているのですが…

照れくさそうに語り始めたその柔和な外見と親しみやすい口調に安心感を覚えたのも束の間、聴衆は、18年に及ぶ経験から紡ぎ出される思いに、一気に引き込まれることになる。

頭の中で開発。ドキュメントに残る試行錯誤

齊藤さんは、どんなに小さなスタートアップでも、開発に入る前に皆が共有できるドキュメントを書くことを勧める。Wordでもメールでも、何を使ったっていい。それはなぜか。

PMもテスターもデベロッパーも、ドキュメントを書くことで一旦、頭の中で開発しているんです。だから開発後の戻しを防ぐことができます。

なぜこのプロダクトを作るのかという前提に始まり、「やっぱり違った、やめとこう」などの試行錯誤をドキュメントで行い、共有することが、開発に入ったあとのスピードを格段に上げるという。

開発前の4つのドキュメント。導入時のものすごい反発。でも…

より具体的な手法として楽天トラベルの開発体制に導入されているフレームワーク”ウィッシュリスト”が紹介された。

そこには「イシュー」「シナリオ」「ゴール」「KPI」の4つが組み込まれている。その後、PRD、Dev Spec、Test Specが書かれる。ということは、お気づきの通り、開発に入る前に4つのドキュメントを書く必要がある。しかも齊藤さんは同社にジョインした当初、それぞれのステップにおける粒度をかなり小さく設定した。

当然、ものすごい反発がありました。皆がしっくりくるまで2年はかかったんじゃないかな。

しかし、成果はついてきた。この4年、開発者の数はほぼ同じにもかかわらず、単純計算で5倍の開発を行うことが可能になったのだ。

もともと楽天トラベルは、すごいエンジニア、事業部、マーケティングが揃っていたので、素養はあったんです。それをちょっとドキュメント化してあげるだけで、これだけの成果が出るといういい例になりました。それぞれのチームに輝いてもらうことができたんです。

齊藤さんはこう振り返る。ここからはもっと成長を加速すべく、開発者の増員や、開発プロセスの調整に取り組む予定という。

「PMがつくりたいものを持ってこい。できるできないはその次だ」

「覚えないでほしいことばなんですけど」と前置きしたうえで、英語で「なめんなよ」を紹介した齊藤さん。Microsoft Americaにいた頃にデベロッパーに言われたのだという。

デベロッパーを、カスタマーをなめるな

アメリカでWindowsの開発に携わっていた頃、100人ほどの聴衆を前にPRDのレビューを行っていたときのこと。各ステップを細かく書き、次々クリアしていく齊藤さんに、あるデベロッパーが言った。

「これで本当に世界の人が喜ぶのか」

「ある程度は喜ぶだろうし、今の俺たちに必要なのはこのぐらいだと思う」

そう答えたときに飛んできたのがこの「なめんなよ」の言葉だった。デベロッパーは続けた。

お前が勝手に妥協したもので誰が喜ぶんだ。最高のものを作って、もってきてくれ。

当時はこの姿勢に慣れるまで時間がかかったが、今となってはこのメンタリティが本当に大事だと思う、と齊藤さんは言う。いろんな制限があるのは当たり前。PMの役割は、まずきっちり理想像を描くこと。だって、俺たちは、なんだって作れるはず。ここで、WindowsNTのカーネルを作ったデベロッパー・リード、デイヴィッド・カトラーのことばを引用した。

「ソフトウェアを作っているのに、仮想の世界が作れないものは何もない。あるのは、資源の制約と時間の制約なんだ」。

純粋な理想をドキュメントに起こす。勝負はそこにある

PMは理想像を描くべきと前述したが、これを邪魔するのが、それまでの豊富な知識や経験だという。開発がしやすく工数が少ないものを意識しがちになるためだ。

しかし、理想像を描いた上で必要に応じて削っていく、という考え方ができないPMは、存在する必要がないと齊藤さんは言う。

それはアメリカで様々な価値観、人種のメンバーと仕事を共にし、彼らの大胆な勝負の仕方を目の当たりにしてきた影響が強いが、なぜ今、日本のPMが理想を高く持つ必要をここまで感じているのだろうか。スピーチは、齊藤さんが今回いちばん伝えたかったメッセージへとつなっていく。

世界を見よう。さもなければ一気に全部置き換えられてしまう

アメリカにいた頃、PMとしてとても悔しいことがあった。世の中にスマートフォンが普及し始めたとき、日本には既にもっとスマートなものがあったのに、すべて置き換えられた。パソコンも、SNSもそうだ。日本で生まれた素晴らしいものが、一気にすべて置き換えられた。それなのに、なぜか日本では普通に受け入れられている。その繰り返しだ。

世界をとるプロダクトをつくろう

IT分野について言えば、日本でどんなに強いプロダクトを持っていても、おそらく世界をとらなければ一気に乗り換えられる、と齊藤さんは考える。なぜならば、英語の製品のほうが開発者もユーザーも人口が多く、投資しやすいからだ。そうならないために、日本のPM 、デベロッパー、すべてのひとが最初から世界と闘うつもりでプロダクトをつくる必要がある。そこで必要になるのが前述の「高い理想」だ。

アメリカと日本と、そもそもバットの持ち方が全然違うんです。日本だと、ちょっと打っていこうかな、というところから入ることが多いんですが、アメリカでは満塁ホームランを狙っていく。後々妥協することはあるかもしれないけれど、最初のステップで高い理想をきちんと書くことがとても大事だな、と思います。遠慮することはないんです。

なんのユーザー影響もないなら、バグじゃない

「バグ」の定義はいったいなんだろうか。なかなか難しいが、ドキュメント化されておらず、ユーザーに何の影響もないのであればバグではない、と齊藤さんは考える。避けるべきなのは、バグが雪だるま式に膨らみ、リリースさえストップしてしまうこと。

日本では、全体像が見えないまま小さなバグを直すことに必死になることが多いな、と感じました。アメリカでは2万個から5万個バグがあっても出されているプロダクトも多い。スペックに書かれていないことは一切気にしないというメンタリティってのも、大事かなと思います。このバグに対する考え方の違いが現れる結果のひとつとして、データベースやOSなんかはまだ日本から出てこないのかな、と思ったりもします。

最初から世界を考えよう

世界に向けたプロダクトを作るにあたってのアメリカと日本のいちばんの違いは、その環境が抱く多様性だ。アメリカには、2時になったらお祈りに行く方や野菜しか食べられない方、肉は食べられないが鶏肉は食べられる方など、世界中からさまざまなひとが集まっている。そんな環境の中にいれば、はじめから常識のなかに「世界」が入ってくる。そんなところであえて「世界を見よう」と言う必要はないが、そうではない島国・日本にいる私たちは、意識して世界を考える必要がある。

そこで齊藤さんが提唱するのは、どんなフェーズの会社であっても、常に英語と日本語の両方をサポートできる開発をすること。英語のユーザーがいなくたっていい。2ヶ国語できれば、その後3つ、4つと増やしていくことが、1つから2つにするよりも簡単にできるという。

高い理想を掲げ、チームをエキサイトさせ、輝かせながら世界を意識したプロダクトをつくる。おそらく、どんな小さな組織であっても挑戦できることだろう。

日本で生まれ、世界で広く使われるプロダクトが、齊藤さんのスピーチをきっかけに生まれる日がくるのも近いかもしれない。

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