[ロンドン 22日 ロイター] - ロシアと中国は今週、ガスプロム
今回の契約で中国は大口の燃料供給源を確保できる一方、ウクライナ危機のために欧州の顧客を失う恐れがあるロシアにとっては新たな市場を切り開く形になる。
ガスプロムは天然ガスの売却価格を公表するのを拒否しているが、業界筋によると、1000立方メートル当たり350─380ドルとされる。これは欧州の大半のエネルギー企業が過去2年間に結んだ長期契約に基づき支払っている金額に近く、複数の業界筋はガスプロムとしては採算ぎりぎりの価格設定だという。
フィッチ・レーティングスは、この契約は「中国が天然ガスの長期購入契約に際して支払ってもよいと考える価格の新基準を設定するものだ」と指摘した。
ガスプロムはこれまで収入の80%程度を欧州から得ていた。その欧州で需要が停滞し利益が減りつつある中で、中国という広大な市場に参入する機会をつかんだことになる。
エネルギー分野の調査・コンサルティング会社ウッド・マッケンジーのスティーブン・オルーク氏は「欧州の天然ガス需要の伸びがどうなるかは不透明で、ウクライナ危機によって欧州はロシアのガス依存を減らすべきだとの声が高まっているため、ガスプロムは『新たな欧州』を必要としていて、中国に向かっている」と述べた。
ロシア政府が昨年、ガスプロムに天然ガス輸出の独占的権利を与えるのをやめたことも、同社に中国との契約確保を急がせた要因となり、結果として販売価格は中国側の希望に近い水準になった。
中国がロシアとの契約で合意した購入価格は、他のアジアからの液化天然ガス(LNG)の輸入コストを大きく下回っている。
天然ガス輸入の増加は、「公害との戦争」を宣言して大都市の有害なスモッグの原因となっている石炭への依存を減らそうとしている中国政府にとって追い風になる面もある。
<LNG需給に大きな影響>
天然ガスの世界最大の輸出国であるロシアと、最大の輸入国である中国が契約を取り交わしたことで実質的に新しい国際価格基準が誕生するので、その影響は両国のみにとどまらないだろう。
ティメラ・エナジーのデービッド・ストークス氏は「ロシアはこれほど大規模なパイプライン経由の供給契約を結んだことで、中国の買い手を求めているLNG生産者に挑戦状をたたきつけた。ロシアのパイプライン輸出価格は、LNGに対抗した設定になっているように思われ、中国のLNG需要を減退させる上で相当な影響を及ぼす見込みだ。世界的なLNGの需給バランスも、中国の動向がそこで最も中心的な役割を果たしている点からすれば、波及的に重大な影響を受けそうだ」と述べた。
<買い手市場>
今回の契約はLNG価格を引き下げ、新規開発の際にコスト圧縮を迫られたり、一部のプロジェクトを中止せざるを得なくなる可能性が大きいため、他のガス生産者にとっては厄介な事態になりかねない。
オーストラリアや北米、東アフリカ、地中海東部地域などのいくつかの新興の生産者は、早期にアジアでガスの販売を開始できると期待しているものの、ロシアが2018年ごろにアジア市場に参入してくることで一部の生産者は苦戦を強いられるかもしれない。
ソシエテ・ジェネラルのエネルギーアナリスト、ティエリー・ブロス氏は「中国は今や、LNG価格を押し下げる強力な武器を手にしている。LNG供給業者に対して中国は、ロシアのパイプライン供給価格未満に販売価格を下げなければ、ロシアから別口でまた契約をして君たちを締め出す、と言うことができる」とみている。
(Henning Gloystein記者)
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