ロシアのプーチン大統領が12月6日、2018年3月に予定されている大統領選に立候補することを表明した。プーチン氏の支持率は80%を超えており、当選は確実な情勢だ。
モスクワから約400キロ東の工業都市ニジニノブゴロド。ロシアを代表する自動車メーカー「ゴーリキー自動車工場(ガズ)」であった集会で、集まった労働者を前にプーチン大統領はこう言った。「宣言するのに、ここほどふさわしい場所、理由はないだろう。私はロシア大統領選に立候補する」。会場からは大きな歓声が上がった。地元メディアが中継した動画には、そんな光景が映し出されていた。
プーチン大統領は今年に入ってから、事あるごとに大統領選への出馬についてメディアや有権者らから問われてきた。そのたび、「答えるのは時期尚早」などと沈黙を守ってきた。だが、プーチン氏自身の支持率が高いことや、有力な後継者が見当たらないことから、立候補することは当初から確実視されてきた。
2012年の前回選挙は大きな「逆風」にさらされた。大統領選前にあった下院選で、与党「統一ロシア」が勝利したが、選挙で不正があったとの批判が起き、各地でデモが相次いだ。
さらには、当時首相だったプーチン氏は、大統領に当選したあかつきには現職大統領のメドベージェフ氏を首相に指名すると宣言。ポストが入れ替わっただけで変わり映えのない政治とみなしたリベラルな有権者たちが猛反発、その怒りは大きなうねりとなり、大規模な「反プーチン集会」が続いた。
当選直後も、支持率は50~60%台と振るわなかったが、2014年3月に入ると、70~80%台で安定するようになる。きっかけは、ソチ冬季五輪の開催とクリミア半島の併合だ。
後になって国家ぐるみのドーピング問題が発覚したソチ五輪も、ウクライナから領土を奪う形になったクリミア併合も、国際的には大きな批判を浴びたが、いずれもロシア人にとっては大国ロシアを印象づける出来事だった。
その後もプーチン氏の政治手腕は、特に対外的な問題で力を見せつけていく。内戦状態だったシリア問題では、ロシアが事実上支持してきたアサド政権が化学兵器を使った疑いが浮上した際、それを理由に空爆に踏み切ろうとしたアメリカを巧みな交渉術で思いとどまらせることに成功した。
北朝鮮問題でも、北朝鮮の「後ろ盾」として見られてきた中国が力を発揮できない中、相対的にロシアの役割に関係国の期待が高まりつつある。
プーチン政権を脅かすような野党勢力も存在しない。大統領選には、国会に議席を持つ3つの野党、共産党、自由民主党、公正ロシアの各リーダーが今回も立候補するとみられるが、いずれも政権の政策を追認することが多い「第2与党」で、本当の意味での選挙戦にはならない。
ほかにもプーチン政権のもとで企業家たちの権利保護に取り組む実業家や、プーチン氏の政治家としての師匠にあたるアナトリー・サプチャーク氏の娘も出馬を予定しているが、いずれもプーチン氏との関係は近い。
プーチン氏の保守的な政治姿勢に反発するリベラル勢力からは、政治団体「ヤブロコ」のリーダーが出馬を狙うが、国会に議席を持っていないため、少なくとも10万人の賛同署名を集めなければ立候補できない規定に頭を痛める。
近年、プーチン政権の腐敗を暴露するなどして注目されているブロガーのアレクセイ・ナバーリヌィ氏も今年2月、横領事件で有罪判決が確定し、選挙に立候補できなくなっている。欧米側は、事件が政治的な意図ででっち上げられたものだと政権を批判している。
プーチン氏が再選されれば4期目で、2024年までの6年間、最高権力者の座にとどまることになる。2000年の初当選以来、通算20年の長期政権になる。
1990年代にソ連の崩壊とその後の社会、経済の混乱を経験した国民は安定と大国ロシアの復活を求めているが、多選による政権の腐敗やマンネリ化、後継者問題など課題は山積だ。
プーチン氏が個人的な人気にあぐらをかいた政治を続ければ、将来再びこの国が混乱する可能性は否定できない。