シリアでやりたい放題のプーチン大統領、西側諸国はどう対応する?

いま行動しなければ、シリアやウクライナで多くの人々が無駄に命を失い続けることになる。
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NEW YORK, NY - SEPTEMBER 28: Russian President Vladimir Putin (L) and U.S. President Barack Obama stand for the cameras before the start of a bilateral meeting at the United Nations headquarters on September 28, 2015 in New York City. Putin and Obama are in New York City to attend the 70th anniversary general assembly meetings. (Photo by Dmitry Azarov/Kommersant Photo via Getty Images)
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ロシアがシリアへの軍事介入を進める背景にはさまざまな思惑がある。最大の要因は、中東で戦略的利害を確保し、パワーに陰りの見えるアメリカに代わって世界秩序の主導権を握ることだろう。

軍事介入は必ずしも順調とはいえないが、西側諸国をジレンマに陥らせるという意味では成功している。西側諸国はシリアや多くの紛争地域での指導力を失いつつあり、中東やウクライナなどに率先して介入するロシアに後れを取っている。そのため、ロシアが要求する条件に妥協を強いられているのだ。本来西側諸国の方が(少なくともアメリカは)、財政面でも軍事面でもロシアに勝っているのだから、グローバルな指導力があるはずだ。しかし、グローバルに指導力を発揮するためには、西側諸国はこれまでより大きなリスクを引き受ける必要がある。

ロシアはなぜシリアに軍事介入したのだろうか? 簡単に言えば、それができたからだ。オバマ大統領をはじめとする西側諸国のリーダーたちは、ロシアと同盟関係を結んでいたシリアのアサド大統領に、長期にわたって退陣を求めてきた。しかし、彼らはアサド大統領を権力の座から引きずり下ろすために必要な手段を取ってこなかった。スンニ派の武装勢力に武器や訓練を提供し、アサド大統領やイスラム系過激派組織ヌスラ戦線と戦わせるという戦略は上手くいっていない。また、アサド勢力を抑えるよりも独立を優先して戦うクルド人兵士たちには、形ばかりの特殊部隊を送っただけで、それ以上の軍事援助を渋ってきた。

ロシアはこの状況を見て「アメリカもその同盟国もシリアで軍事力を行使しない」と冷静に判断した。そうして、シリアの湾岸都市タルトゥースにある自国の海軍基地や、アサド大統領の故郷ラタキアの軍事施設に戦車や対空砲、戦闘機などを配備した。こうした一連の行動は、西側諸国は対抗する気もないしその力もない、というロシアの見方を表している。

軍事的に好き放題できる現在の状況は、ロシアにとって様々な政治上の目的を達成するための好機だ。そのために、シリアと長期的・戦略的パートナー関係を保つことはロシアにとって重要だ。現大統領の父親ハーフィズ・アル・アサド大統領が1970年の軍事クーデターで権力の座に就いて以来、アサド政権はソビエト連邦やそれに続くロシアとの間で良好な関係を保ってきた。もしアサド政権が崩壊すれば、イラクでフセイン大統領が倒れ、リビアでカダフィ政権が転覆した時と同じように、シリアでロシアの影響力が失われる結果につながりかねない。

しかし、アサド大統領は重要な存在ではない。ロシア政府は、シリアで政権が変っても受け入れる準備があることを以前から表明している。またロシアは、西側諸国の支援を受けたシリア国民評議会は役に立たないと明言しながらも、評議会代表のモスクワ訪問をこれまでに何度も受け入れている。それにIS(イスラム国)に対抗する政治勢力の仲介役も引き受けている。ただしその場合は、アサド政権を交渉の場に加える要求はしている。

シリアに軍事介入したロシアを、その他の勢力は無視できなくなっている。サウジアラビアを始めとするペルシャ湾岸諸国 (アサド大統領の追放を求めてスンニ派のさまざまなグループを支援してきた国々) に加え、今やロシアのパートナーとも言えるイランは、これまでロシアを「口では大きなことを言っても、現実の軍事力は取るに足らない国」と見てきた。ところがタルトゥースやラタキアに軍事力を配備し、目的の達成のためには軍事介入も辞さないと示したロシアを無視できなくなっている。

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バグダッドでプーチン大統領の肖像画を仕上げるイラク人アーティスト。ロシアがシリアで空爆を開始し、さらにバグダッドに諜報員を派遣して以来、イラクではプーチン大統領の人気がウナギ昇りだ。(SABAH ARAR/AFP/Getty 写真提供)

イランはこれまで、ロシアと協力してアサド大統領を支援してきた。9月には、イラン、イラク、シリアとロシアの4カ国はISに対抗するための情報共有条約を結んだ。しかしそのイランも、アサド政権を犠牲にしてでもシリアで自国の権益を守りたいと公言し始めた。そういった状況下、アサド政権を支えるために軍事介入しているロシアは、シリア国内で陰の実力者としての立場を強めている。

また軍事介入は、西側諸国と対等する勢力としてのロシアの立場をも強固なものにしている。穏健なスンニ派兵士を訓練してアサド政権に対抗させるというアメリカの戦略を完全に終わらせ、西側諸国がシリア戦略を練る際、ロシアの存在を無視できないような状況を作ることができる。断固とした態度で軍事介入に臨むことで、シリア問題の方向性を決めるのはロシアで、西側諸国をはじめとする世界中の国々がこれに従うという構図が出来上がる。そして先手を打って有利な立場に立つことで、ロシアはシリア国内で勢力を広げ、地上部隊を送るなど行き過ぎた行動でさえも、周りが認めざるを得ないような状況を作るのだ。

ウクライナの状況を振り返れば良くわかるだろう。ロシアはウクライナ南東部地域を、帝政ロシア時代の地名「ノボロシア」と呼んで独立させようとした。それは、ロシアにとって予想以上の成果をもたらした。ロシアが軍事介入したことで、ウクライナ政府や西側諸国は、ロシアが作り出した危機に対応せざるを得なくなったのだ。ロシアがドンバス地方を占領した後、もはや西側諸国は状況を元に戻すことはできなかった。戦争が拡大する危険があるからだ。大量の武器をウクライナに送り込み、ロシアとゲリラ戦を繰り広げることで、1980年代のアフガニスタン戦争のような状況を招く可能性がある。

シリアでも状況はまったく同じだ。ロシアは地中海地域の拠点を守りつつ、西側諸国が支援する反アサド勢力を一掃しようとしている。軍事介入前の状態に戻すことはもはや不可能だ。多くの血が流されて、ようやくロシアは不毛な紛争にはまってしまったことに気付くのだろう。特に、アサド政権を支持するイスラム教アラウィー派の本拠地を越え、スンニ派が多数を占める地域でスンニ派の武装勢力を相手に戦うような事態になればなおさらだ。ロシアがこの地域で勢力を伸ばしているイスラム過激派に手を焼いていることを考えると(すでにサウジの聖職者たちはロシアに対するジハードを呼び掛けている)、今度悲惨な目に遭うのはロシアだろう。

しかし、たとえそうなったとしても西側諸国にとって利益があるとは到底言えない。他人の不幸は解決策にはならないのだ。アメリカと同盟国は、アサド政権の終焉であれウクライナの領土回復であれ、現実的な目標を打ち立て、それを裏付ける財政支出と兵力の確保をしない限り、いつまでたってもプーチン大統領の強硬な手段に振り回され続けるだろう。そしてその間、シリアやウクライナを始め多くの国の人々が無駄に命を失い続けるのだ。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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