小池百合子東京都知事が、11月25日の定例会見で、都幹部18人の減給の懲戒処分と、退職者に対しては給与自主返納の要請を行うことを発表した。
11月23日にアップしたブログ記事【「小池劇場」で演じられる「コンプライアンス都政」の危うさ】でも指摘したように、今回の処分の根拠とされた「第二次自己検証報告書」は、凡そ調査報告書の体をなさない杜撰な内容であるだけでなく、技術会議報告書の結論を、「敷地全体に盛り土をするのが都の整備方針とされた」という方向に歪曲している疑いもある。同報告書は、懲戒処分の根拠となるものとは到底言えない。
毎日新聞の記事【盛り土問題 世論意識、処分急ぐ 都知事、責任解明できず】でも適切に指摘されているように、今回の懲戒処分は、小池氏が拙速にこの問題の「幕引き」を図ったものと評さざるを得ない。
今回の懲戒処分には多くの無理がある。
「小池劇場」を演じることで、世論の大きな支持を得てきた小池氏だが、ここに来て、状況が徐々に変わりつつあることに気付いていないようだ。
私の【前回ブログ記事】は、同氏が世の中から圧倒的な支持を受けている中、多くの反対意見を覚悟の上で、豊洲市場問題への小池氏の対応を批判したものだったが、BLOGOSに転載された同記事は大きな支持を得、ブログのコメントやツイッターでの反応も多くが好意的だった。豊洲市場問題を、冷静に客観的に受け止め、小池氏の対応に疑問を持つ読者が増えていることが窺われた。
ツイッターで、「豊洲市場」を検索してみると、今回の小池知事の都幹部懲戒処分の発表に関して、批判的ツイートが多く並ぶ。「小池劇場」の観衆の雰囲気は、確実に変わりつつあるようだ。
そんな中、小池氏は、25日の記者会見での、都幹部懲戒処分に関する質問に対しても、明らかに不合理な回答でごまかしている。
前出の毎日新聞記事を書いたと思える記者からの質問で、「通常の懲戒処分は大体6カ月以上かかると言われる中で、処分の時期が早いのではないか」と質問され、小池氏は、
法曹界の方々を含めたご意見を聞き、今回の結論に至ったわけでございまして、決して、早すぎるから、という話ではないと思います。むしろ、市場関係者の方々からすれば、早すぎるということは全くないんじゃないだろうかと、全てが遅すぎると思われていると思います
と答えている。
「市場関係者からすると全てが遅すぎる」というが、市場関係者の多くは、小池知事が移転延期を発表して以降、混乱が続き、未だに先が見通せない豊洲への市場移転問題の早期決着を求めているのであり、都の幹部の懲戒処分が早いか遅いかなどには、誰も大きな関心を持ってはいない。
また、「法曹界の方々」からも意見を聞いたというのであるが、それは一体誰なのだろうか。処分の妥当性について弁護士見解を得ているというのであれば、その弁護士名を明らかにし、責任の所在を明確にすべきであろう。
そもそも懲戒処分の根拠とされている「事実」自体に問題があるという点を別にしても、懲戒処分の妥当性という面から考えると、今回の「5分の1減給6カ月」というのは、明らかに重すぎる。刑事事件の量刑で言えば、「法定速度を20㎞オーバーしたスピード違反」を、法定刑の上限である「懲役6カ月」に処するようなものだ。まともな弁護士であれば、「適切な処分だ」とは言わないであろう。
今回、小池氏は、都幹部への処分と併せて、「就任前の事案ではあるが、自らけじめをつけるという意味で、知事給与の5分の1を自主返上する」として給与自主返上の方針を明らかにしている。
それは、おそらく、知事給与を半額に削減する条例案の提出で、都議の給与が知事を大幅に上回り、都民から都議の給与引き下げを求める声が出る状況を作って都議会議員をゆさぶったのと同様の発想で、本来は責任のない現知事として給与自主返納を打ち出すことで、本来責任を問われるべき当時の知事の石原慎太郎氏にプレッシャーをかけることを意図したものかもしれない。
しかし、そもそも、都幹部に対する懲戒処分の前提事実自体に根本的な疑問があるのであり、それに関連して、都知事給与の自主返上を打ち出すことが、石原前知事に対してどれだけの効果があるのか疑問だ。
「小池劇場」の第1幕「豊洲市場・盛り土」を早期に幕引きして、第2幕への観衆の期待を高めようとしたのだろうが、ラストシーンで主演監督自身が唐突に舞台に登場せざるを得なかったところに、このストーリーの苦しさが透けて見える。
「小池劇場」も、行き詰りつつあるように感じざるを得ない。
(2016年11月26日「郷原信郎が斬る」より転載)