生活保護厳格化の省令案、パブリックコメントで異例の抜本修正

昨年(2013年)12月、特定秘密保護法成立の陰でほとんど報道されなかったが、制度史上最大の生活保護法の大「改正」もされたことをご存知だろうか?
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昨年(2013年)12月、特定秘密保護法成立の陰でほとんど報道されなかったが、制度史上最大の生活保護法の大「改正」もされたことをご存知だろうか?

「不正受給対策の強化」を前面に押し出しながら、特に狙われたのは次の2点だ。

第1は、本来口頭でもよいとされている生活保護の申請にあたって、原則として申請書や添付書類の提出を義務付けること。

生活保護の窓口では、職員が「住民票がないとダメ」「持ち家はダメ」「家賃が高いからダメ」「診断書を持ってこないとダメ」などと嘘をついて申請させずに追い返す、「水際作戦」と呼ばれる対応があとを絶たない。法「改正」は、こうした違法な水際作戦を合法化すると批判された。

第2は、扶養義務者の収入や資産についての調査権限を強化すること。

法律では、扶養義務者がいても生活保護の利用には影響がなく、現実に仕送りがされた場合にその分だけ保護費が減額されるに過ぎない。でも、扶養義務者に対して「仕送りできませんか?」という照会文書は行くので、それが嫌で生活保護の利用をためらっている人は少なくない。扶養調査の強化は、そうしたタメライをより一層強めると批判された。

2013年5月、国連の社会権規約委員会は、日本政府に対して、生活保護の申請手続を簡素化して利用しやすくすること、生活保護に対する偏見を取り除くための市民教育を行うことを勧告している。今回の法「改正」は、こうした勧告に完全に逆行する内容だ。

マスコミでは生活保護といえば「不正受給」に関する報道ばかりだが、実は、不正受給額は保護費全体から見れば0.5%に過ぎない。ごく一部の病理現象を強調して印象づけながら、全体の利用を抑制しようという姑息な魂胆。イギリスでは郵送でも生活保護の申請が認められるなど、国は福祉制度利用のハードルを下げる努力をするのが当然なのに、逆に使いにくくする改革をするなど、先進国として恥ずかしい限りだ。

生活保護を利用する人は、高齢、障がい、疾病、失業、孤立など、さまざまなハンディを抱えており、そもそもお金がないので声をあげる余力がない。昨今の「生活保護バッシング」の影響で、ますます肩身の狭い思いをしている。そういう弱い立場に置かれた人を守る制度を、寄ってたかって切り崩そうとするこの国は、本当に情けない限りだ。

こうした批判の高まりを受けて、政府は、第1の点については、「口頭申請が認められ、添付書類もできる範囲で提出すればよい、というこれまでの扱いに変更はない」とし、その趣旨の条文修正をした。また、第2の点については、扶養調査の強化は「極めて限定的な場合に限って行う」と答弁した。そして、いずれも今後制定する省令で、その旨、明確に規定すると言っていた。

ところが、今年(2014年)2月末にパブリックコメントの募集とともに公表された省令案は、こうした国会答弁を完全に反故にする驚くべき内容だった。第1の点は、法文修正前の申請書の提出を義務付ける表現に戻っており、第2の点は、原則と例外を逆転させて原則的に調査を強化する内容になっていたのである。

私が所属する生活保護問題対策全国会議は、直ちに省令案を批判する声明を発表し、多くの人がパブリックコメントを寄せるように呼びかけた。日弁連や大阪弁護士会、日本精神保健福祉士会、日本医療ソーシャルワーカー協会など多くの団体も次々と同様の声明を発表し、短期間の間に1166件の声が厚生労働省に寄せられた。

そして、その結果、4月18日、厚労省は、省令案を抜本的に修正した省令を交付したのである。第1の点は、問題の省令案は削除され、「保護の実施機関は、・・申請が速やかに行われるよう必要な援助を行わなければならない」という前向きな規定だけが残った。第2の点は、原則と例外を元に戻し、極めて例外的な場合にのみ調査等をする内容に戻った。「原案にも問題はなかったが、無用な心配、混乱を生じさせることのないように修正した」というのが厚労省のコメントだが、批判の声に押されて抜本修正したことは明らかだ。

私自身、政府が行うパブリックコメントの募集で、このような抜本修正がされた例は聞いたことがない。東京新聞(4月19日)によれば、総務省も「大幅修正のケースはない」とコメントしている。この間、嵐のようにバッシングされてきた生活保護制度だが、あきらめずに声をあげつづければ、国も無視することができないということで、画期的な「市民の声」の勝利だと思う。

これからもしばらくは、社会保障制度にとって厳しい動きが続くだろう。日本が、社会的経済的に弱い立場に置かれた人の権利を守る「普通の先進国」の仲間入りをするまで、あきらめずに声をあげ続けなければならない。