PTAの強制加入や役員決めの問題、大津市教育委員会が作成した校長ら向けの「手引き」が参考になる

「PTAは必要な存在だからこそ、改革も求められる」と、担当者は訴える
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大津市教育委員会が校長ら向けに作成した「PTA運営の手引き」。PTAをめぐって各地で問題になっている項目が網羅されている
Kazuhiro Sekine

学校の入学式・新学期シーズンがやってきた。この時期、子どもの父母らがやきもきさせられるのがPTA問題だ。

入会を実質的に強制されたり、役員や委員の決め方でもめたりするなどの事例が後を絶たない。

そんな悩める親たちに役立ちそうな情報を、大津市教育委員会が提供している。「PTA運営の手引き」だ。

元々は、PTAメンバーでもある校長らが役員たちに適切な助言ができるようにと作成されたが、手引きには、各地でトラブルになっている加入や会費集めなどをめぐる問題点などが網羅されており、保護者らからも注目されている。

 異例の対応

PTAは各学校ごとにつくられる保護者と教職員による団体だが、学校とは別の組織であり、教育委員会が介入しないのが一般的だ。

ところがここ最近になって、PTAをめぐる苦情が市教委にも寄せられるようになったことや、主な活動の場が学校となっていることなどから、何らかの対応が必要だと判断。2018年10月に作成した。

校長ら向けとはいえ、PTAが抱える問題点について教育委員会が明確に指摘するのは異例だ。

手引きで扱っている主なPTA問題は次の通り。また、PTAの対応の適切さなどを「レベル2」(=理想的)、「レベル1」(=最低限遵守すべき)、「レベル0」(=改善が必要)、「レベル▲」(違法の可能性がある)の4段階に分けている。

【強制加入の問題】

PTAは任意の団体であり、その入退会は会員の意思で決められるべきだが、本人の意思を確認することなく、また、加入は任意であることを説明せず、子供の入学に合わせ自動的に保護者が会員になっている。

レベル2=明確な意思表示。PTA会長らが入会時に、各会員から入会届を取得している

レベル1=消極的な意思表示。入学・入園説明会などで、PTA会長がPTAの必要性と任意性について説明の上、「基本的に皆さんに加入していただきたい。何らかの理由があって加入できない場合は、いつでも反対の意思表示や脱会届などにより不加入の手続きをして下さい」と説明する

レベル0=会員が意思表示する機会がない。PTA加入の必要性と任意性についてPTA会長らが説明の上、「皆さん会員になっていただきます」と説明しただけでは本人の同意を得たとは言えない

レベル▲=任意性の説明なし。加入の任意性の説明をしていない

【役員の強制の問題】

役員のなり手がなく、強制的に役員を割り当てたり、出席していない会員に役員を割り当てたり、また、役員の免除理由として、病気や家庭の事情などの個人情報を公開し、審査するなど人権問題になりかねない事態も見受けられる。

レベル2=本人の意思に基づく役員選考。立候補制度などを活用するよう助言する

レベル1=選考方法、過程の見える化。事前に選考方法や選考過程を明らかにし、後から疑義が生じないよう助言する。一定の配慮が必要な会員に対しては、個人情報の保護を徹底する選考のあり方についてみんなで協議するよう助言する

レベル0=押し付け合い。「自分はやりたくない」「あの人にさせておいたらいい」

【PTA事業や事務の見直し】

会議や事業の準備などが夜遅くまで行われ、役員の負担は計り知れない。市への苦情も多く寄せられている。

やる気のある役員が多く集まると「昨年以上」の成果を求める傾向があり、事業がさらに膨らんでいく。

一方で、役員が毎年改選のため、前年の事業を実施するだけで精一杯となり、継続的な改革に着手できない。

レベル2=地域や民間の活力を活用。地域学校協働活動などが始まり、地域の力を学校や園の運営だけでなく、PTA活動にも協力いただけるような支援体制を整え、PTA役員に助言する

レベル1=会員の協力と事業の縮小。改善の視点として、特定の役員に負担がかからないよう、参加可能な会員が協力できる体制を整えるよう助言する。一方で、身の丈に合ったPTA活動について、事業規模の適正化に向け、役員などで協議するよう助言する

レベル0=前例踏襲。何の問題意識もなく、前例を踏襲する

【個人情報の問題】

学校や園が運営目的で取得、保有する個人情報を、本人の同意を得ずにPTAに提供している。

レベル2=PTAが直接会員から個人情報を取得する。PTAが入会時や進級時に、会員から直接個人情報を取得する。この場合、学校や園には個人情報保護条例上の義務や責任は生じない

レベル1=適正な手続きをへて提供。学校や園が保有する個人情報をPTAに提供することを会員側に伝え、どうしても同意しない場合は不同意の申し出をしてもらうよう説明する

レベル0=通告だけで提供。学校や園が保有する個人情報を「PTAに提供します」という説明だけでは、本人の同意を得たとは言えない

レベル▲=通告しない。学校や園が保有する個人情報をPTAに提供する説明すらしていない

【PTA会費を、学校や園が徴収金に合わせて引き落とす問題】

任意団体であるPTAの会費を、学校や園が徴収金に合わせて指定の銀行口座から引き落とすことは、PTAの事務を学校や園が肩代わりしていることになるため、代理人として付与される権限とその範囲を委任契約書で明確に規定する必要がある。

レベル2=会費はPTAが直接徴収。PTA会長らが会員から口座引き落としなど、独自の手段で会費を徴収する。前提として、入会時に会費の額や納入方法について事前に説明し、その上で同意を得たことを記載した入会届を提出してもらう

レベル1=会費を学校や園が徴収金に合わせて徴収。入会などにおいて、PTA会長らがしっかりと会費額やその徴収方法について説明し、同意を得た上で入会してもらう。同意できない場合には、不同意の申し出をしてもらうよう説明してもらう。その上で、PTA会長らの申し出により、委託契約(当然書面で)を締結し、同意を得た人の会費を徴収する

レベル0=本人の同意を得ずに徴収。本人の同意を得ることはPTAの事務であり、学校や園は確認できないが、委託契約の締結時には同意を得ている旨の確認を確実に行う

レベル▲=委託契約が未締結。任意団体であるPTAの事務を学校や園が肩代わりをすることから、委託契約は絶対に必要。契約のない学校や園は職務専念義務違反を問われる可能性もある

【会費使途不透明の問題】

集めた会費について、PTAが学校や園で必要な備品を寄付名目で購入したり、会食費や教職員の謝礼として使用したりする事例がある。

レベル2=必要な予算は市で確保。学校や園を運営する上で必要な物品は市の予算で措置する

レベル1=ルールに基づいた事務手続き。子どものよりよい教育環境を整えるため、学校や園が要求することなく、PTAから善意で卒業などの記念として寄付を頂く場合、学校や園側は寄付採納の処理を行う。PTAは会計規程をしっかりと作成し、使途の詳細を会員に説明する

レベル0=学校や園がPTAに依頼。学校や園が寄付という形をとりながら、備品の購入などをPTAにお願いしている

レベル▲=寄付などの手続きの不備。寄付採納の手続きをしていない。PTA会費で修繕工事をするなど所管所属に相談や報告をすることなく行なっている

【その他】

1)PTA未加入者の子どもへの教育的配慮

PTAは「Parent-Teacher Association(保護者と教職員による会)」の略であり、子どもとは無関係な組織。

PTA活動は、学校に通うすべての子どもたちの福利のため、保護者と教師が自発的に行う活動であり、PTA会員の子どもたちの福利のために行われる活動ではない。

入園・入学式や修了・卒業式などで、PTAから紅白まんじゅうや学用品が児童・生徒に贈呈されることがある。

これらの費用はPTA会費から出されるが、PTA会費は「学校や園に通うすべての子どもたち」のために使われるものであり、PTA会費を支払っていない保護者の子どもであっても証書入れの筒や胸につけるリボン、学用品を受け取れないということはない。

2)PTAの必要性の説明

最近のマスコミ報道では、「PTAは悪」といったイメージが先行しているように思う。

確かに時代に合わせた変化が求められるのは当然だが、本来は子どもたちの福利のために自発的に行われる活動であり、目的は間違っていない。

全面的に非難されるべきものではなく、やり方を変えればいい。

PTAの必要性や活動の有効性などをすべての会員に知らせることや、新たな役員獲得のため、PTA活動のメリットなどを打ち出すなどのPRが必要。

保護者らから問い合わせ相次ぐ

大津市教委生涯学習課の山村和義主幹によると、「手引き」に関する問い合わせが、各地のPTAや保護者、学校などから相次いでいるという。

作成のきっかけは、大津市でもPTAをめぐる問題が表面化したことにあるという。山村氏は言う。

「加入の任意性の問題のほか、『家庭の事情で断ったのに、役員を無理やり押し付けられた』とか、『忙しくないと言われたのに、夜遅くまで役員の仕事をさせられた』といった苦情が市にも寄せられました。折しも一部の保護者がPTAをよくしようと改革に乗り出しまして。それに合わせて、市教委もPTAに関する実態調査を始めたんです。それが2016年のことです。そうした動きが『手引き』作成へとつながっていきました」

市内の小学校と中学校を対象に実態調査(2016年2月)した結果、加入の任意性について十分に説明できていない状況が浮き彫りになった。

それを受けて、市教委は各学校の校長らに対し、PTAの加入や会費の徴収方法のあり方などを確認するよう働きかけてきた。

PTAの加入が任意であることを明確にすることで、会員数が減ってしまうのではという懸念も現場にはあるという。だが、山村氏は話す。

「PTAは子どもたちの教育環境を整えるためには必要な存在。保護者が気持ちよく、積極的に参加できるようにするためには、改革と問題の解決が求められる」

「手引き」についての問い合わせは大津市教委生涯学習課(077-528-2635)へ。