前回に引き続き、「サイボウズ式勉強会 マネジメント視点でPTAをけっこうラクにたのしくする!」(2014年6月13日)の、後半部分をお届けします。PTA会長を経験してきた2人の経営のプロ、川島高之さん(大手商社系の上場会社の社長)と川上慎市郎さん(グロービス経営大学院准教授)に、ITやビジネス手法を活かしてPTAをラクにたのしくする方法を教えていただきました。本記事は、トークセッション進行役の大塚玲子(『PTAをけっこうラクにたのしくする本』著者)がまとめております。
Facebook導入でちょっとした役員連絡がラクに
大塚:最近「PTAのIT化」に注目が集まっていますね。川上さんは、PTA役員の連絡にFacebookを導入されたそうですが、何かきっかけがあったんですか?
川上:PTAに入ってすぐ、プリント(お手紙)でしか保護者に連絡ができないことに疑問を感じたんですね。「ちょっとみんなの意見をききたい」とか、「少し追加情報を流したい」というときも、いちいちプリントを配らなきゃいけない。そのために校長先生と教頭先生の許可をとって時候の挨拶の文言を直して......という状況をどうにかしたいと思い、そのためにITを使うことにしました。
ITにもいろんなツールがありますが、ぼくがFacebookを選んだのは、ガラケー・スマートフォン・パソコンという3種類のデバイス全てで使いやすいと思ったから。いまの40代のお母さんは、ガラケーの方が多いので。
大塚:なるほど、そうでしたか。ちなみに、先日取材したPTO団長(PTA会長)の山本さんは、サイボウズLiveを使われていました。やっぱり、ガラケーで使っている保護者は多いとおっしゃっていました。
ちなみに川上さんのPTAでは、みなさんすぐFacebookを使えるようになりましたか?
川上:最初が大変でした。ふだんあまりネットを使わないお母さんたちは、「アカウント登録」がしづらいんです。「間違ったボタンを押して、自分の個人情報が世界中に発信されちゃったらどうしよう!」っていう恐怖心があるんですね。
だから、ぼくが横で「はい、じゃぁ次はそこの左上のボタンを押して、次の画面は『スキップ』というとこを押すと、個人情報が表示されないですよ」みたいに、ナビしてあげました。
大塚:やっぱり、ちょっとハードルがあるんですね。はじめはちょっと負荷をかける必要があるのかもしれませんね。一度移行してしまえば、そのあとはずっとラクになるわけですから。
決裁ルールとアンケートで会議時間が10分の1以下に
大塚:川島さんはPTAに「稟議システム」を導入したそうですが、どういう経緯だったんでしょうか?
川島:最初に副会長をやりながらみんなの様子を見ていたとき、「お金の使い方が定まってないから、会議に時間がかかるんだな」と気づいたんです。
たとえばうちのPTAだと、古紙回収の収益金が毎年何十万円か入って、自由に使えるんですが、いつもこの使いみちが決まらないんですよ。「これを買いたい」「あれを買いたい」って、もうずーっと、みんなで相談しているんです(笑)。
大塚:資源回収やバザーをやっているPTAでは、よくある問題みたいですね。
川島:そこで、会社でいう「稟議システム」を取り入れたんです。10万円以上のものは総会で、5万~10万円のものは運営委員会で、1万~5万円のものは役員会で承認をとる。金額をレイヤーに分けて、決裁のルールを決めたんです。 あとは、年度の初めと終わりに保護者アンケートをとって、買いたいものをあげてもらうというやり方も採用しました。
要は「決め方を決めた」ってことです。それで、かなり時間をセーブできるようになりました。
大塚:それは、みんなに喜ばれたでしょうね!
川島:意見が割れるときは、どちらにもメリット・デメリット両方があるのだから、話し合っていても、決められないんですよね。そういうときは、長が決めるか、決め方を決めてあげるといい。 そうすれば、かかる時間が10分の1以下で済むようになります。
先生と保護者が尊敬しあえる「ワークショップ大会」
大塚:川上さんは、一昨年から「ワークショップ大会」というイベントを始められたそうですが、
それはどんなものですか?
川上:保護者や地域の人が子どもたちに教える、体験授業のイベントです。去年は、プログラミング、写真、車椅子、認知症看護の体験など、全部で13種類の講座をやりました。どれも、保護者や地域の方に公募した企画です。
保護者や地域の人が講師をする体験授業「ワークショップ大会」の様子は、朝日新聞のサイトで詳しく紹介されている。
大塚:面白そうなものばかりですね。
川上:実は、このイベントの最大の狙いは、「保護者は先生に、先生は保護者に、リスペクトをもってもらう」というところでした。保護者は子どもたちに教える体験をすることで、教育の楽しさや苦労を知って、「先生たちってすごいな」と思うようになる。先生たちも、自分たちが知らないことを保護者が教える様子を見て、リスペクトを抱くようになる。
保護者と先生のあいだに不信感みたいなものが生まれやすいので、そこを変えたいと思ったんです。
大塚:それは、必要ですね。反応はいかがでしたか?
川上:観に来てくださった来賓の方が「参加している地域住民や保護者の方の顔が、きらきらしている。みんな『自分がこのイベントをつくった』と思っていて、『川上さんにやらされた』って感じがまったくないですね」と言ってくださったのが、すごく嬉しかったです。
僕は、組織のリーダーは、メンバー全員に「オレがこれをやった」とか「わたしのおかげで成功した」と思わせることが大事だと思っているんです。要は、その組織のみんなをヒーローにしてあげること。それができたので、自分でもこのイベントはよかったなと思っています。
大塚:そうですよね。PTA活動に限りませんが、なんでも「やらされ感」でやるとつまらなくなるので、全員が「自分が真ん中だ」と思ってやれると、いちばんいいなって思います。
PTAはやらなきゃ損! PTAの10個のメリット
大塚:わたしが川島さんのお話で一番印象に残ったのが、「とにかく楽しむ!」というお話だったんですが、これをちょっとご説明いただけますか?
川島:まず、会長がみんなに「PTAって楽しいじゃん!」って思わせる、そういう雰囲気をかもしだすことは、大事ですよね。
例えば、ぼくは入学式や卒業式のとき、原稿ナシでスピーチをするんです。ときどきヤバイことも言っちゃうけど、いいじゃんそれくらい、と。よくお母さんたちは、用意してきた原稿を一字一句間違えないように読み上げるけど、それをやめたらいいと思うんです。
間違えていいから、好きなことをしゃべったほうがいい。そう言って、気持ちをラクにしてもらいます。
それから「PTAは、期間限定の特権だ」ってことを、毎年度必ず、PTA会員のみんなに伝えるようにしてきました。これは、われわれファザーリング・ジャパン(※)がずっと言ってきたことでもあります。
※「子育ては期間限定の特権だ」は、川島さんが理事を務める「NPO法人ファザーリング・ジャパン」のキャッチフレーズ
もうひとつの大きなポイントが、「メリットに目を向ける」ということ。これは、ぼくが毎年必ず会員みんなに伝えていた、「PTAの10個のメリット」です。
川島さんが代表を務める「NPO法人コヂカラ・ニッポン」ブログに詳細が記載されている。
大塚:ポジティブですね!
川島:この10個のメリットをあげて、「PTAはやらなきゃ損だよ、特権だよ!」と知ってもらう。そうしたらあとは自動的に、みんな自分からイベントをやるようになるんですよ。
PTAの役員決めも、ふつうは3月ぎりぎりまで困っているんですが、うちはだいたい12月に決まっていました。しかも、役員の3分の1くらいが男性です。ときには、会長候補が3人も出て、調整が難航することもありました。(会場笑) それぐらい「やりたい感」を出させること。そこは、いちばん大切にしていたところですね。
大塚さん:いまの川島さんのお話、わたし自身もPTA活動をやりながら、いちばん実感するところです。メリットに目を向けると、ほんとうに、楽しめるんですね。お話を聞いたときは内心、「そうはいっても、ほんとは大変でしょ?」とか思っていたんですが、でもやってみたら、実際けっこう楽しめるんですね、多少大変でも。
仕組みを変えれば、働いている人も参加できる
川上:川島さんの「会長候補が3人も出た」というお話、ぼくもうらやましいです。うちはそこまでじゃないんですけど、Facebookでのコミュニケーションを取り入れたりしてきた結果、有職の方たちがたくさんかかわるようになって、それはよかったと思っています。今年度、役員10人のうち、半分は有職者になりました。
大塚:これまでPTAの中心を担っていた専業主婦の方たちだけじゃなく、働いているお父さんやお母さんの参加が増えてきたんですね。
川上:そうなんです。働いている人がPTAに関わることは、これからすごく大事だと思うんですよ。専業主婦って今後確実にマイノリティになっていくので、その人たちしかPTA活動に参加できない仕組みだと、彼女たちもすごくフラストレーションがたまっていく。「どうして私たちばっかりやらなきゃいけないの? 働いている人たちはサボってる」と思ってしまいます。
一方で、働いている人たちも、できるならしたいとは思っているんですよね。でも仕事があって、平日日中は無理ですという方も多い。そういう人たちがPTA活動に参加できないのは、すごく大きな問題というか、損だと思うんですよね。
大塚:ほんとうに、そう思います。これは、専業主婦にとっても、働いている人にとっても、みんなにとって不幸な状態です。
川上:だから、そこはITをうまくつかって、コミュニケーションの仕組みを変えていけば、働いている人もどんどん入ってこられるようになると思うんですよ。うちは実際そうなりました。
で、その最初の一石を投じるのは、やっぱり会長がいいと思うんです。だから、今日ここにいらしてくださったみなさんはぜひ、PTA会長に手をあげてくださいね。そうすると、たぶんPTAは変わっていくと思います。
50年でいちばん嬉しかった息子の卒業式
大塚:川島さんからも、みなさんへのメッセージをお願いします。
川島:まず、お母さんたちに。いまのPTAってやっぱりお母さんたちが大変だと思うんです。だからこれからはぜひ、男性をどんどん巻き込んでいってほしいと思います。ぼくもそうなんですけど、男はおだてて酒を飲ませればすぐ動くので、そこはぜひ(笑)。
お父さんたちに伝えたいのは、さっきも申し上げたとおり、PTAは子育てと同じで「期間限定の特権」なので、とにかく「やらないと損!」ってこと。それは理論じゃなくて、ぼくが、ずーっと痛感していることです。
大塚:やってみると、実感するんですね。
川島:じつは、ちょうど今週末に50歳の誕生日を迎えるんですが、ぼくがこの50年でいちばん嬉しかったことはなにかというと、昨年の3月、息子の中学の卒業式で、スピーチをできたことなんです。ぼくにとっては「PTAの卒業式」という感じでした。
ふだんだと思春期の息子は親父の話なんか聞いてくれねえけど、そのときはじっくりと聞いてくれたし、さらに嬉しかったのは、結婚以来何をやっても泣かなかったうちの母ちゃんが泣いたこと!(会場笑) やっぱり、自分が本気でがんばっている姿や、感動した姿を、子どもや母ちゃんの前で見せられる場面って、会社勤めのなかではないですよね。だからぜひ、みなさんもPTAで、そういう経験をしてほしいな、と思います。
大塚:おふたりとも、貴重なお話を聞かせていただきまして、どうもありがとうございました!
文:大塚玲子 撮影:谷川真紀子 編集:渡辺清美
(2014年7月30日のサイボウズ式「 PTAを専業主婦まかせにする時代ではない!?──できるビジネスパーソンが語る『PTA活動 10のメリット』」より転載)