所沢市「第2子出産で保育園退園」問題-子育て真最中の産業カウンセラー的視点-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)

埼玉県所沢市で第1子を保育園に通わせている親が、第2子を出産し育児休業を取得した場合、第1子が0~2歳児の場合は原則として退園となる、という制度が導入されたという。ネット上では数多くの非難がなされている。
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後藤和也

埼玉県所沢市で、第1子を保育園に通わせている親が、第2子を出産し育児休業を取得した場合、第1子が0~2歳児の場合は原則として退園となる、という制度が導入されたという。ネット上では「少子化対策に逆行している」「女性活用を無視した時代錯誤の施策」と数多くの非難がなされている。働く母親にとって深刻な問題である。

■今回の制度の趣旨とは-所沢市役所HPから-

そもそも本制度はどのような趣旨で実施されたのだろうか。所沢市役所のHPを抜粋しながら検証してみたい。なお部分部分は中略していること、抜粋が長文となることについては、ご容赦願いたい。

育児休業中の保育の継続は、保護者の申出(育児休業中における保育実施の継続申立書の提出)により、国の通知(「育児休業に伴う入所の取扱いについて」)の事由に該当するか否かを各施設長が判断し、保育の必要が認められた場合に継続して在園とさせていただいておりました。

平成27年度の育児休業中における在園児の保育の継続利用について:育児休業中における在園児の保育の継続利用の可否の決定は、保護者からの申請に基づき、市が行います。育児休業中における在園児の保育の継続事由は以下のとおりです。

平成27年4月1日以降の出産により育児休業を取得する場合

(1)対象児童の年齢(クラス年齢) 3歳児・4歳児・5歳児につきましては継続が可能です。

(2)保護者の健康状態や子どもの発達上環境の変化が好ましくないと思われる場合

1.出生児の疾病(厚生労働省の小児慢性特定疾病の対象疾患)⇒医師からの診断書を提出(添付)してください。

2.出産した母親の疾病、障害⇒医師からの診断書を提出(添付)してください。

3.多児出産(双子以上)⇒母子手帳の写しを提出してください。

4.混合保育により入園し、継続保育が必要な場合⇒提出(添付)書類はありません。

5.在園児の家庭における保育環境等の状況から、引き続き保育所等を利用することが必要な場合⇒保護者との個別面接等により家庭における保育環境等をヒアリングさせていただき、保育の継続利用の可否を総合的に判断させていただきます。

※(2)の1~5のいずれかの事由に該当し、保育の継続利用が認められた場合には、0歳~2歳児(クラス年齢)の在園児も継続が可能です。

在園児の保育の継続利用が決定されるまでの流れ

前述した育児休業中における在園児の保育の継続事由(1)(2)に該当する場合のみ、申請を行います。

3.継続事由(2)の5に該当する場合は、保護者との個別面談(面接又は電話)により、家庭における保育環境等について状況を把握させていただきます。

育児休業取得により一時退園した児童と出生児が育児休業明けに入園を希望する場合の取扱いについて:育児休業取得により一時退園となる児童が再び入園申し込みを行った際は、利用調整における指数を加点するほか、施設・事業者の協力を得て、元の園に入園できるように対応していきます。

指数上の加算:

在園児が、育児休業の取得により一時退園(出産の翌々月末までの退園に限ります)となった場合、育児休業取得により一時退園した児童と出生児が育児休業明けに同時に入園を希望する際には、利用調整における指数に100点を加算します(一時退園した児童と出生児のそれぞれに加算します)。

この加算により、育児休業から復帰する場合は、上のお子様だけでなく、下のお子様についても優先的な利用調整が可能となります。なお、一時退園しなかった場合、この加算はありません。

育児休業中の保育の支援:

育児休業により一時退園した児童、保護者への支援として、一時預かり事業や地域子ども・子育て支援事業の充実を図り、安心して子育てできる環境づくりを進めます。

その他について:

以下の育児休業中における在園児の保育利用について(Q&A)につきましては、今後お問い合わせ内容等を反映して随時に更新していきます。

埼玉県所沢市役所HP(https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/kosodatekyouiku/hoikuen/h27nyuen/ikukyu.html)2015/6/19確認

■市側の配慮

上記によれば、確かに3歳未満児については、第2子(以降)の育児休業が開始すると同時に、「原則として」当該3歳未満児は退園となるようである。例外として「母親の疾病」等の特殊事情を除き「在園時の家庭における保育環境等の状況から、引き続き保育所等を利用することが必要な場合」は、市役所担当者と保護者との個別面接等により保育の継続が認められ得るようであるが、待機児童問題や保護者間の均衡等を考えれば敷居が高くなることは想像に難くない。

なお、報道やネット上の議論ではあまり触れられていないが、今回の「一時退園」をした児童が再び入園申し込みをした場合は、優先的に元の園に入園させるよう対応することや、第2子(以降)に関しても優先的に調整する旨が明記されている。加えて、一時預かり事業を充実させていくとのことである。

■市側の意図を考える

所沢市に居住していない筆者の知りえる情報は限られているが、背景には、日本全国で問題となっている「待機児童問題」を解消したい意図があるものと思われる。しかしながら、HPを見る限りでは実効性に疑問が残る。

そもそも今回の制度により、待機児童問題は解消の方向に向かうのだろうか。HPによれば、「一時退所となっても極力その枠は存知していく」運用がなされるかと思われる。一時退所で空いた枠に待機児童を割り当てれば、いざ復帰となった際に優先的な再入園ができなくなるのは明らかだ。

「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」による育児休業の期間は1年間(最長1年6月まで延長可)である。一般には、子の年齢が1歳前後での年度初めに復帰するケースが大半であろう。一時退所させたからといって1年余りしか枠が空かず、しかも再入園のためにその枠の確保が必要となれば、「退所者数が常に入園希望者数を上回る」または「相当数の保育園が新規増設される」状況が引き続かない限り、待機児童問題は改善しないだろう(もっと言えば、そのような状況が続くならばそもそも待機児童問題は生じない)。退所者数と入園希望者数の推移は知る由もないが、特に入園希望者数は水物であることから、十分なシミレーションは困難なのではなかろうか。

一時退所により浮いた人件費や人的資源を一時預かり事業等の別のサービスに投入し、新たな保育の場を創生する、という構想もあるのかもしれないが、HP上に具体の施策が示されてはいないようである。

■見えない意図?

となれば、「保育園に在籍するハードルを上げて、うまく入・退所児童数をコントロールしようとしているのではないか」「育児休業中は暇だろうから、ついでに第2子も自分で育てたらいいではないか」との思惑があるのでは、等と疑われてもやむを得ないことであろう。当事者の主張には、市側に対する不信感がにじみ出ている。事実、「第2子出産に伴い母親が育休を取得するような場合は、第1子は保育園でなく家にいたいはず」という趣旨の発言を市長自らが行ったとの報道もあり、当事者と市側の溝は深まるばかりだ。

例外的に継続保育が認められる要件として「出産した母親の疾病、障害」が挙げられているが、そもそも産後の母親の体調は一般に不安定である。女性ホルモンのバランスが乱れることや、慢性的な睡眠不足に陥ることは、どの母親にも起こっている現実である。それに加え、3歳未満児といえば、自律して我慢する、といったことができる年齢ではない。子供によってはまさにイヤイヤ期真っ最中であり、親の気を引くために想定外の行動をとることもしばしばである。そんな「モンスター」を2人も抱えて育児に奮闘することは、想像以上に困難を極めるのである。

■なぜここまで非難を浴びたのか

今回ここまで非難を浴びた要因としては、「制度の実施に当たり、事前に十分な合意形成がなされなかったこと」および「育児の当事者に寄り添う姿勢が感じられなかったこと」と言えよう。

今回の制度実施に当たり、市側は事前説明会等をどの程度実施したのであろうか。パブリックコメント等は募集しなかったのだろうか。報道を見る限りでは「突然とんでもない制度が実施された」感が満載であるように感じられる。少なくとも「女性活用」「少子化対策」について国を挙げて取り組もうとしている矢先であることを考えれば、丁寧すぎるほどの事前説明をかなり入念に行う必要があった(制度改正は公権力の行使であるため、市民全員の合意を得る必要までは当然ないが)。

また、あたかも「育児なんて暇なんだろ、働いてる人たちが子供を預かられなくて大変なんだぜ!育児休業中くらい子供2人の面倒を見ろや!」的な第1印象を与えてしまった市側の対応。きちんと「再入園枠の確保」や「一時預かり事業等受け皿の拡大」といった救済措置・新規施策を用意していたのにもかかわらず、「第2子ができたら保育園を強制退所」といったところに焦点が当たってしまっている。制度担当者や広報担当者、それこそ市長が当事者意識を持って話を持っていけば、初動の対応は違っていたのではないだろうか。

育児を行う当事者へ寄り添う姿勢や配慮にかけていたこと、そういった姿勢等があったとしても、当事者にはそれが伝わらなかったことが、今回の騒動の一因なのではないだろうか。働く母親にとっても、保育園に通う子供たち自身にとっても、本件は重要な問題である。たとえ1歳児や2歳児であっても意思のある一人の人間だ。身を置く環境が、制度上の理由でめまぐるしく変化するのも酷な話であろう。本件については司法の場面で争うような動きもあるが、まずは母親たちの声を傾聴してほしい。当事者間で真摯な話し合いの場が設けられることを切望してやまない。

【参考記事】

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(2015年6月22日「シェアーズカフェ・オンライン」より転載)