公的年金や企業年金は老後生活を支える貴重な制度です。ただし、公的年金はマクロ経済スライドという仕組みのもとで、向こう数十年かけて実質的な給付水準が引き下げられる見込みです。
一方、企業年金は導入企業が低下傾向にあります。もちろん、公的年金は破たんすることはないと思いますし、終身にわたり年金が支給される制度ですから、公的年金を抜きに老後の資産設計を考えることはできません。
企業年金についても導入企業の拡大に向けた取り組みが進められており、将来的に企業年金を導入する企業が増える可能性もあります。
しかしながら、公的年金の実質的な給付水準が引き下げられるのであれば、それに代わる収入を確保する必要があります。
企業年金の恩恵を受けられなくなるリスクに備えるのであれば、尚更です。自助努力による資産形成の必要性は確実に高まっています。
この老後に備えた資産形成では、長期の積立てが重要です。
グラフは、運用利回りを3%として、月1万円の積立てを40年、2万円を20 年、4万円を10年続ける3通りのケースについて、運用収益を比較した結果です。
積立総額(投資元本)はいずれも480万円で同額ですが、月1万円の積み立てを40年続けるケースで運用収益が最も多くなっていることが分かります。
逆に、積立期間10年で、月1万円×40年と同額の資産額(投資元本+運用収益)を確保するには、毎月の積立額を増やすか、より高い運用利回りを追求しなければなりません。
積立額を増やすことができるのであれば、資産形成に大きな支障が生じることはないかもしれませんが、投資効率という点で長期の積立てに劣ることに変わりはありません。
一方、より高い運用利回りを狙うのは、投資期間が短いことを踏まえると、元本を割り込む危険性を高めることにもなり兼ねません。やはり、少しずつでも長く続けることが、老後の備えでは大切と言えます。
個人型確定拠出年金(個人型DC)は、この長期の積立てを支え、個人の老後の備えをサポートする制度として、拠出・運用・給付の各段階で税制が優遇される制度です。
運用収益が多額になる長期投資では、運用収益が非課税となるメリットを享受する上でも、積極的に活用すべき制度と言えます。
現在は、加入可能者が限られるため、必ずしも全ての人が加入できるわけではありません。しかしながら、加入可能者については、改正が見込まれています。
DCの改正法案が先の国会に提出されており、次期国会での成立が期待されています。法案が成立すれば、1~2年のうちに20歳以上60歳未満の全ての人が原則として加入できるようになります。
DCの制度改正は、老後生活に備えることの必要性や資産形成を真剣に考えるいい機会と言えます。
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(2015年11月30日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 企業年金調査室長