南沙での国共合作はありえるか?

南沙問題については中国と台湾が協調する可能性もある。南沙諸島支配で片方が困ったときには、もう片方は何らかの手助けをするといったものだ。
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中国の南シナ海進出は快調に進んでいる。ここ20年の海洋進出により、中国は独自の領土主張である九段線の全域を影響下に収めつつある。ニュースで話題となっているように、確保した岩礁を浚渫土で埋め立て、航空基地をつくろうとしており、完成すればその立場はさらに強固となる。

だが、ここへ来て中国は関係国の強力な抵抗に直面している。昨年の段階でも、石油採掘ではベトナムの抵抗により中国は撤退を迫られている。そして岩礁埋め立て問題では、米国による具体的な抗議もうけた。それにより後ろ盾を得たと考えたフィリピンほかの関係国も、南沙問題については中国に強硬になりつつある。南沙の領土問題に限っては中国包囲網が完成した感もある。

一見して、中国は、南シナ海問題で政治的に孤立したように見える。

だが、中国にも協力的な立場を示すプレイヤーがいる。それは台湾であり、あるいは将来的には南シナ海での海洋進出で共同歩調を取る可能性もあるだろう。

■ 利害が一致する中台

台湾は、南沙問題では中国に敵対していない。実際に南沙についての中国包囲網には入り込んでおらず、中国の行為について非難していない。

これは、中台がナショナリズムを共通しているためである。領土問題では中国と台湾は同じ中国人としてアイデンティティを持ちそれにしたがって振る舞う。このため、南沙問題では当然ながらは両者の利害は一致するのである。

実際に、台湾は中国による南シナ海支配に悪い顔はしたことはない。これは南シナ海での領土問題について、新中国が確保していようが台北政権が確保していようが、あまり問題はないためだ。

台湾からすれば「中国固有の領土を中国人が抑えている」だけの話であり、全く問題はないのである。独自の領土主張である九段戦も、元々は国府の十一段線を下敷きとしている。このため台湾に住む中国人の国民感情と相性も良い。

これは中国でも変わらない。中国は台湾による南沙支配について、文句を付けたことはない。台湾省は政権は違うが中国の一部である。住んでいるのも中国人である。「中国の島を中国人が占拠している」にすぎない。

中国からすれば、親の遺産の家屋にいつの間にか弟が住んでいるようなものだ。兄である中国からすれば、弟の台湾がなにをやっても対して問題視はしない。そこに他人であるフィリピン他が勝手に家を立て、住みだした程の大問題にはならないのである。

この中台の利害一致は、関係国による南沙支配への対応でも変わらない。中国人としてはフィリピン、ベトナム、マレーシアによって南沙が占拠されている事態は侵略であり、同じように許されないものと考える。

喩え話で続ければ先祖伝来の土地に勝手に家を建てられ、住みだしたような大問題である。中台にとってはともに不快であり、追い出す必要があるという点で一致する。

■ 国共合作の可能性

つまり南シナ海での領土問題では、中台の内面的なスタンスは完全一致するのである。

この点から、南沙問題については中国と台湾が協調する可能性もある。南沙諸島支配で片方が困ったときには、もう片方は何らかの手助けをするといったものだ。中国固有領土について、中国人のもとに回収すべきといった発想からすれば、協力が当たり前ということになる。そういうことだ。

実際に、台湾は今回の軋轢で中国を非難せず、政権もあるいは助け舟ともとれるような発言をしている。馬英九さんの南海和平倡議がそれである。一見、中国をたしなめる形ではある。だが、中国による埋め立てを停止すべきというものでもない。ある意味で中国による南シナ海支配の体制を肯定するものにも見えるのである。

もちろん、現段階ではあっても阿吽の呼吸による中台強力に留まるだろう。台湾は米国の顔を伺う必要があるため、南沙での協力関係についてもできることが限られる。かつての金門砲撃であったような暗黙の国共合作しかできないためだ。

だが、台湾も米国から離れ中立化する傾向にある。両岸関係をみても、急速に台湾は中国に吸引されつつある。それをうけて米台関係も疎遠となるだろう。その兆候もある。F-16改修ハンガー問題がそれだ。この点から、将来的には中台の公然とした共同行動、両岸合作もありえる話である。

その場合、南シナ海がどうなるかは米国次第である。だがその時に米国が南シナ海問題に具体的な言及も避ける状態であれば、地域海軍力で第一位の中国と第二位の台湾に勝てる国はない。南シナ海は中台が完全支配することになるだろう。