日本は世界の気候政策をより賢い方向へと先導している

2013年11月23日まで続いた第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議と同様、過去20年にわたる国際的な気候変動の交渉は、基本的に何一つ成果をあげてきませんでした。しかしそこで日本は勇敢にも、非現実的な目標を捨てて、グリーン技術の研究開発に専念すると発表しましたが、これはもっと賢い気候政策に向けたブレークスルーの始まりになるかもしれません。
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2013年11月23日まで続いた第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議と同様、過去20年にわたる国際的な気候変動の交渉は、基本的に何一つ成果をあげてきませんでした。しかしそこで日本は勇敢にも、非現実的な目標を捨てて、グリーン技術の研究開発に専念すると発表しましたが、これはもっと賢い気候政策に向けたブレークスルーの始まりになるかもしれません。

日本は、これまでの1990年水準から25%減らすという温室ガス削減目標が実現不可能だと認め、2020年までに排出量が3%増えるとみたほうが現実的だと述べました。これはワルシャワの気候サミットで、当然のように批判を引き起こしました。国連気候変動事務局長クリスティナ・フィゲレスとEU代表は、遺憾の意と失望を表明していますし、中国も失望を述べ、活動家たちは「とんでもない」「貧困国への打撃」と評しています。

日本は単に、過去20年にわたって失敗し続けてきたアプローチを諦めたに過ぎません。過去20年、炭酸ガス排出の削減を約束してはそれが結局実現しなかったり、持続可能なほどの高コストをかけて、無意味なほどわずかに削減したりしてきただけです。そしてほとんどみんなが無視したのは、日本が5年かけて官民両方から11兆円の資金を環境エネルギー技術のイノベーションに投入すると約束したことです。

このアプローチは、地球温暖化に対するこれまでの政策とは大きくちがいます。実はこのアプローチは、残念ながらワルシャワ会議の議題にすら入っていませんでした。つまり、効率の悪い再生可能エネルギーに補助金を注ぎ込むかわりに、新エネルギー源に対してずっと安上がりで効率の高い投資ができるということです。実はこのアプローチは気候変動に取り組む最も賢いアプローチですし、成長のために安いエネルギーを必要とする貧困国には特に大きな助けとなります。日本は――意外に思えるかもしれませんが――地球温暖化に効率的に取り組む方法を世界に実証してくれることになるかもしれないのです。

世界はすでに、一日千億円を非効率な再生可能エネルギーに費やしています――2013年の総額は 36兆円と予測されています。でも世界で研究開発にたった10兆円費やすほうが、何百倍も効率的です。これはコペンハーゲン・コンセンサスセンターが主催する、ノーベル賞学者3人を含む経済学者のパネルが出した結論でもあります。 コペンハーゲン・コンセンサスセンターは、政府が世界を助けるための最適な支出方法について調査発表するシンクタンクです。

しかしワルシャワの気候変動サミットでは、炭素排出削減についての拘束力を持つ世界的な合意にばかり無意味にこだわっていました。これは失敗に終わった1997年京都議定書の要点でした。ほとんどの炭酸ガス大量放出国は京都議定書の制限を受けなかったり(中国とインド)、そもそも参加しなかったり(アメリカ)、約束を実現できなかった(カナダ)のです。

京都以後、もうやる気も失われていました。2012年ダーバン会議の後で、インドの環境相は「インドの現在の発展段階では、法的に拘束力のある排出削減合意には同意できない」と述べました。会議の翌日、カナダは京都議定書を脱退し、ロシアと日本はそれ以前に議定書延長を拒否しました。

わずかな結果のためのすさまじい支出にこだわり続けているのは、ヨーロッパとその他数カ国だけです。EU は2020年までに炭酸ガス排出を1990年水準から20%減らすと約束しています。現存するエネルギー経済モデルすべての平均を取ると, これは年に25兆円かかることになります。今世紀末までに(2000兆円以上の費用をかけて)、これで下がる予想気温はたったの0.05度です。

ワルシャワのCOP19で温暖化ガス削減目標値が表明できなかったことに、大した驚きは感じませんでした。これまでの「ブレークスルー」を振り返って見ましょう。京都でカナダは、1990年水準から6%削減を表明しましたが、結局は24%の増加に終わりました。2009年コペンハーゲンサミットで、日本は25%削減というすさまじい約束を行いましたがこれも放棄されました。中国も、炭素濃度を2005年水準から40-45%下げると約束しました。実に勇ましくきこえますが、国際エネルギー機関によれば、中国は特に何の政策がなくても、炭素濃度はどのみち40%下がるとのこと。経済発展にともない、中国も炭素排出の少ない産業に移行するからです。

人間文明のトレンドは、再生可能エネルギーを減らす方向に進んできました。 1800年に世界エネルギーの94% は再生可能エネルギー、つまり薪と風力でした。今日ではそれがたった13%です。でも「再生可能」に分類されるもののほとんどは、貧困者が薪やゴミを燃料に使っているものです。アフリカはエネルギーの50%近くをそうしたエネルギー源から得ています。中国の再生可能エネルギー比率は、1971年には40%だったのが、反映するにつれて今日の11%にまで下がりました。

富裕国は風車やソーラーパネルを設置しますが、これはCO2排出こそ少ないものの、高価だし得られる電力も不安定です。スペインはいまやGDPの1%を 再生可能エネルギー向けの補助金に費やしています――これは高等教育にかけている金額以上です。でもこれは持続可能ではないし、多くの国はこれを真似たいとは思わないでしょう。次の2015年のパリでも、人々にもっと高価で信頼性の低いエネルギー源への以降を無理強いするような合意が実現するとは期待できません。

大量のサミット会議や非効率なグリーン技術への何兆円もの補助金を費やしても、CO2排出は1990年以来57%ほど増えました。まちがったやり方を何度も何度も後押しするのはやめて、別のアプローチを考えるべきです。経済学的に見れば、最も賢い長期解決策は、再生可能エネルギーの利用に補助金を出すことではなく、研究開発を通じてグリーンエネルギーのイノベーションに専念することです。こうしたイノベーションは、将来の風力やソーラーなど各種の驚異的な可能性について、コストを引き下げることになります。

もしグリーン技術が化石燃料よりも安くなれば、ごくわずかな善意の金持ちだけでなく、みんなが再生可能エネルギーに切り替えます。結局は何の成果も挙げられない気候サミットに集まる必要もなくなります。気候サミットの賢い解決策は、GDPの0.2%――世界で年総額10兆円――をグリーンエネルギー源の研究開発に使うことです。分析によれば、これはみんなのほしがるような安い環境に優しいエネルギー源を作り出し、中期的には地球温暖化を解決できるはずなのです。

繰り返し失敗してきたアプローチを放棄したといって日本政府を責めてはいけません。もっと大きな視点を持って、本当に地球温暖化を解決できる政策にコミットした日本政府は、賞賛されるべきなのです。

コペンハーゲン・コンセンサスセンター所長

ビョルン・ロンボルグ