児童婚を拒否するイエメン11歳少女、パパラッチから逃亡するテイラー・モンセン――ネットで拡散する映像の真実は?

イエメンの少女の話と、ナイキのマーケティング・ビデオの話題。まったく違うネタではあるが、拡散するだけ拡散して、その背景を追求しようという動きが極端に少ないという共通項があるように感じた。
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イエメンの11歳の少女ナーダ・アハダルさんが「嫁がせられるくらいなら死んだほうがまし」とカメラに向かって訴える映像を、YouTubeで見た人も多いだろう。

このブログを書いている今、ヒット件数は830万件。この映像は、世界中のマスメディア機関やニュースサイトが取り上げたことで、またたく間に世界を駆け巡り、内容が内容なだけにこういう言葉を使うのは不謹慎かもしれないが、大ヒット映像となった。

この映像に夢中になったのは、私も同じだ。イエメンの児童婚についてネットで検索し、農村部では50%近くの女児が、まだ年端もいかないうちに、ずっと年上の男性に強制的に嫁がさせられる、などという話を読んで、辛い気持ちになったりした。ところがその過程で気になる記事をいくつか見つけた。両親が彼女を金銭的な報酬と引き換えに、嫁がせようとしたというストーリーが作り話である可能性があるというのだ。

CNN(アメリカ版)は、女性支援団体の仲介で、「嫁がせようとしたことはない」と主張する両親と、ビデオ拡散以来、首都サヌアの叔父ととも暮らしていたナーダさんが対面する場面をカメラでとらえた。彼女が児童婚の被害者になろうとしたかどうかの事実確認は解決されないまま、この会合は、「農村部では英語やコンピュータのクラスがない」と主張するナーダさんの希望を受け入れて、両親とともにサヌアに移住するという合意とともに終了したようだ。

彼女のストーリーが作り話かどうかを判断する十分な材料はない。彼女のビデオが、イエメンの児童婚という深刻な問題に対する意識を高めたことも否定できない。けれど気になるのは、ビデオ拡散後に、その後のフォローアップをしたメディアのあまりの少なさだ。私がネットを検索したかぎり、フォロー記事を出したのは、5本の指で数えられるほどだった。

それについて考えているときに、また違う「事件」を発見した。ツイッターで、「女優のテイラー・モンセンがパパラッチからの逃げ方がすごすぎる」という話題が、祭り状態になっているのを発見した。

パパラッチに囲まれるテイラー・モンセンが、忍者のように飛んだりはねたりしながら、パパラッチから逃げるという映像で、確かにすごい。でも普通の女優さんがこんな動きをできるとは思えないし、衣類にナイキのロゴが入っているのも気になる。

と思って、英語でグーグル検索をかけてみると、どうやらこれは、アメリカではすでに2009年に拡散したビデオで、どうやらナイキがマーケティング用に作ったビデオだったらしい。らしい、と歯切れが悪くなってしまうのは、ナイキがこれについて発表した形跡は少なくともネット上には見られないからだ。とはいえ、当時、アメリカではひと通り話題になり、全体的な論調としては「さすがナイキ、話題作りがうまい」というような感じに落ち着いている。

日本のほうを見てみると、「ナイキのステマらしい」と気がついた人もいるにはいるのだが、やっぱり「すごい」で終わっている人が大多数だ。

イエメンの少女の話と、ナイキのマーケティング・ビデオの話題。まったく違うネタではあるが、拡散するだけ拡散して、その背景を追求しようという動きが極端に少ないという共通項があるように感じた。

インターネットは情報へのアクセスを民主化したし、ネットのおかげでたいていのことは調べることができるようになった。けれども、自分が与えられる情報がリアルなものなのか、判断できるリテラシーを身につけたい。