ハフィントンポスト日本版はまだ知名度が低い~学生アンケート調査から

ハフィントンポスト日本版が2013年5月7日にサイトの運営を始めてから、100日以上が過ぎた。アメリカで人気のニュース・ブログサイトの日本上陸、しかも朝日新聞という既存の大手メディアも参画するということで、開始当初はネット上で随分と注目され、さまざまなニュースやブログ記事が書かれたが、実際のところ、どのくらいの手応えがあるものなのか。
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ハフィントンポスト日本版が2013年5月7日にサイトの運営を始めてから、100日以上が過ぎた。

アメリカで人気のニュース・ブログサイトの日本上陸、しかも朝日新聞という既存の大手メディアも参画するということで、開始当初はネット上で随分と注目され、さまざまなニュースやブログ記事が書かれたが、実際のところ、どのくらいの手応えがあるものなのか。本家アメリカではニュースサイトのアクセス数では、ニューヨークタイムズと一、二位を競う人気だと聞くが、日本のサイトはどうもそれほど評判になっていない気がする。

早稲田政経学部の107人が回答

そこで一つの試みとして、私が担当する早稲田大学政治経済学部の授業の受講生に協力してもらい、ハフィントンポスト日本版(以下ハフィントンポスト)についてのアンケート調査を実施した。本稿は、そのアンケート結果の紹介である。

アンケート調査は7月10日に実施した。対象者は政治経済学部の朝日新聞提携講座「メディアの世界」の受講生である。学部の2年生以上が受講できる授業で、この日の出席者は172人。授業前に配付したアンケート用紙を授業後に回収する方式で、107人(男性54人、女性36人、性別無回答17人)が回答してくれた(回収率62%)。

集計結果は、別の図表にまとめてあるので参考にしてもらいたい。私が所属する大学院政治学研究科ジャーナリズムコース修士1年生でゼミ生の角野雅美さんがグラフや表をきれいに整理してくれた。角野さん、ありがとう。

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ハフィントンポストの知名度は?

まずは、基礎的データとして、新聞の接触率やハフィントンポストの知名度、アクセス経験の有無について尋ねた。

紙の新聞を読んでいるか(質問1.)については、「ほぼ毎日読んでいる」と答えたのが19名(18%)、「時々読んでいる」が55人(51%)、「読んでいない」が32人(30%)、そして無回答が1人(1%)。 ほぼ毎日と時々を合わせると、紙の新聞を何らかの形で読んでいる人は70%になる。この数字は、若者の新聞離れに頭を抱える新聞社の人にとっては喜ばしい数字だろうが、平均的な大学生像からすると、かなり高い接触率かもしれない。新聞社が提供する提携講座の受講生がアンケート対象というバイアスも大きいと思う。

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新聞社のニュースサイトへのアクセス(質問2.)については、「ほぼ毎日アクセス」が14人(13%)、「時々アクセスする」が51人(48%)、「アクセスしない」が41人(38%)、無回答1人(1%)。紙の新聞の接触率よりはやや少ないが、「ほぼ毎日」と「時々」を合わせると、アクセスしている人が60%を超している。

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アクセスする場合のサイトが有料か無料か(質問3.)については、「無料」のみが54人(79%)で一番多いが、「有料」にアクセスする人も計14人(21%)いた。20%を超す数字は低くはないと思う。

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いよいよハフィントンポストについての一つ目の質問)である(質問4.)。

ハフィントンポストを知っていますか?

回答者107人のうち42人(39%)が知っていた。これについては、アンケート実施の約2ヵ月前に、私がハフィントンポストでブログを書くという話をごく短くしたことがあるので、少し割り引いて考えなければいけない。

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アクセスはどうか(質問5.)。ハフィントンポストを知っていると答えた人40人のうち「ほぼ毎日アクセスする」は3人、「時々アクセスする」は13人。「アクセスしない」が24人と一番多かった。 時々アクセスするまで含めて、ハフィントンポストにアクセスする人は計16人。回答者107人の中での16人は無料サイトであることを考慮すると、まだまだ物足りない数字だと感じるのは私だけだろうか。

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ハフィントンポストに足りないもの

続いては、ハフィントンポストの利用者に対する具体的なアンケートである。これは、ハフィントンポストへのアクセス経験をもつ16人が対象となる。

まず、ハフィントンポストの利用方法(質問6-1.)については、「記事・ブログを読む」がほとんど(15人)で、アカウントを作ったり、コメントをしたり、SNSと連携させたり、フルに活用している人はほとんどいなかった。

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使用する端末(質問6-2.)や「政治」「経済」「国際」「社会」「テクノロジー」というカテゴリー(質問6-3.)についての回答結果は表の方をご覧いただきたい。

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いよいよ、このアンケートの核心部分である。

ハフィントンポストの良い点、良くない点の回答結果を紹介しよう(質問6-4.6-5.)。

良い点はどこか。複数回答でアンケートをしたところ、一位は「話題がタイムリーに掲載される」(7人)、二位は「多様な意見が掲載される」(6人)となった。話題のタイムリーさは、編集部が日頃から腐心している点と推察している。また、コメント欄を利用した多様な意見の表出は、ハフィントンポストの強みとして語られているところであり、この2点は、まさに編集部の考えている強みと合致しているだろう。この他「ほかでは読めないコンテンツがある」「記事が良い」についてそれぞれ4人が評価した。

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良くない点については、突出した指摘はなかった。多かったのは「他のサイトと変わらない」「サイトが使いづらい」「サイト上での議論が少ない」の3点で、それぞれ5人が挙げた。

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「他のサイトと変わらない」は、ハフィントンポストには耳の痛い指摘だろう。9.の自由な意見・感想の記述のところで書かれているように、「BLOGOSやシノドス、現代ビジネスの焼き直し」といったイメージがあるようだ。類似メディアとの差別化が必要だろう。「サイトが使いづらい」が具体的に何を指すのかは分からない。これも9.のところに「もっと親しみやすい工夫をすべき」という意見があった。

「サイト上の議論が少ない」は興味深い指摘である。一方で良い点として「多様な意見が掲載される」が指摘されているが、「多様な意見」と「議論の少なさ」はどうリンクするのだろう。推測するに、一つのニュース記事やブログ記事に対して読者のコメントが多数寄せられているが、ほとんどの場合、そこで終わりになっている。コメントに対するブロガーからの返信が可能なのだが、利用されておらず、議論が展開されるわけではなく、双方向コミュニケーションになっていない。

強いYahoo!ニュース

質問7.と質問10.は集計結果の表をみてもらうことにして、ここでは省略する。

ハフィントンポストを利用する人がまだまだ少ない中で、彼ら彼女らはどんなニュースサイトを日頃見ているのか(質問8.)。

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ここでは際だった特徴がみられた。 「Yahoo!ニュース」の断トツの強さである。107人中44人が「Yahoo!ニュース」を、よく見るニュースサイトに挙げた。続いて「日経新聞」「朝日新聞」の各18人。他はかなりばらついている。

最後に、ハフィントンポストに対する意見・感想を紹介しよう(質問9.)。

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自由記述にしたのだが、改善点の要望については「宣伝不足」「差別化」「デザイン」というジャンルに分けることができた。差別化とデザインについてはすでに別の項目で取り上げたので、ここでは宣伝不足についての指摘を見てみる。一言でいうと「宣伝が足りない」ということだろう。「積極的に宣伝すれば周知度が上がる」「知名度が低いので広告などを出すべきだ」「SEO対策をすべきだ」「もっと学生にアピールしてほしい」といった、ほとんどエールのようなコメントだった。

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若者を読者ターゲットに

感想も批判的ではなく、エールといえる内容だった。

その中で、「記事を媒介として『読者と読者』の繋がりを生み出すあり方は、普及すれば有効」という指摘があった。

自らの長所を生かし、他のネットメディアとの差別化を図りながら、それを広告などで広く周知していけば、ハフィントンポストの良さはもっと多くの人に分かってもらえると、回答した学生たちは考えている。

特に注目したいのは「もっと学生にアピールしてほしい」という要望だ。件数としては1件だが、とても大切な要望だと思う。

確か、ハフィントンポストは団塊ジュニアの世代を読者ターゲットにした戦略を立てていたように記憶している。それはそれで良いのだが、その戦略が学生たち、10代後半~20代の若者を軽視する形になっているとしたら、再考した方が良いと考える。先の参議院選挙でも指摘されたように、選挙に対する若者の関心の低さは、政策面での高齢者重視/若者軽視の問題と決して無縁ではない。

大学時代は、社会との関わりを考え始める重要な時期である。自分の思考を豊かにするためのメディアと出合う時期でもある。ハフィントンポストは、選挙の事例の轍を踏むことなく、学生世代をも主要な読者ターゲットとすることで、新しいメディアとしてのアイデンティティを掴むことができるのではないだろうか。