ネット遮断はトルコのユーザーにあまり効いていないようだ

トルコ政府は、20日のツイッター遮断に続いて、27日にはユーチューブも遮断したという。シリアへの軍事行動に関する、トルコ政府当局者の議論とされる音声が、ユーチューブに投稿されたことが理由のようだ。
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トルコ政府は、20日のツイッター遮断に続いて、27日にはユーチューブも遮断したという。

シリアへの軍事行動に関する、トルコ政府当局者の議論とされる音声が、ユーチューブに投稿されたことが理由のようだ。

ただ遮断は完全ではないようで、トルコからのユーチューブへのアクセスはなお続いている。その背後には、ネット遮断以降、利用がうなぎ登りになっている回避ソフトの存在がある。

トルコのネットユーザー、そしてネットのコミュニティは、今もネット遮断に対抗し続けている。

●「Tor」を使う

ツイッター遮断にグーグル活用で対抗したトルコのネットユーザー」で紹介したように、ツイッター遮断への回避策の一つとして、ネットユーザーが使ったのがグーグルのサーバーを経由する「パブリックDNS」だった。

これはネットアクセスの際の「DNSサーバー」の設定を、グーグルのサーバーのアドレス「8.8.8.8」「8.8.4.4」にするだけで使える方法だ。

だが、22日にはこの「パブリックDNS」も、トルコ政府によって遮断されたようだ。

これとは別に、ネットユーザーが頼りにしたのが、アクセスを匿名化するソフト「Tor(トーア)」だ。

アクセスを何重にも暗号化し、アクセスの経路もランダムに組み替えていくため、追跡は極めて難しいと言われる。

Torは、そもそも米海軍研究所で開発され、現在はマサチューセッツ州の非営利団体「Torプロジェクト」が管理。圧政国家の通信規制を回避する、民主化支援ツールとして知られる。

その一方、日本では、2010年に国際テロ関連の警視庁の内部文書がネットに流出した事件や、2012年に発覚したパソコン遠隔操作事件で、〝犯人〟がアクセス元を隠すために使ったとされている。

●遮断前の倍以上に

Torは、プロジェクトのホームページからダウンロードして使う。ファイアフォックスをベースにしたブラウザと一体になっていて、利用するのに特別な知識は必要ない。

Torプロジェクトが公開している利用データによると、トルコからのTorの利用は、遮断前は約2万5000前後で推移してきたが、ツイッター遮断が始まった20日ごろから利用が跳ね上がっている

これに対してトルコ政府は27日、Torプロジェクトのホームページへのアクセスも遮断したようだ。

このためTorの利用がいったんは落ち込むが、すぐにまた増加。遮断前の倍以上の6万5000程度まで伸びている。

Torをダウンロードするための各国のミラーサイト(代替サイト)の情報が、ネットで広まったためだ。

ネットの人権擁護団体「電子フロンティア財団(EFF)」によると、 EFFの他に、ドイツやルクセンブルクなどのミラーサイトからTorがダウンロードできるようだ。

●VPNのダウンロードが急増する

さらに、仮想プライベートネットワーク(VPN)ソフトがある。これも、通信を暗号化して、守る仕組みだ。

人気のソフトの一つがベルリンのベンチャーが提供するクロームブラウザー用の拡張ソフト「ゼンメイト」だ。

同社のブログによると、20日のツイッター遮断後から、ダウンロード率が通常の2300%に急増し、12時間で2万5000人の新規ユーザーが登録、週末にかけて18万人のトルコユーザーがインストールしたという。

統計サイト「インターネット・ワールド・スタッツ」によると、2012年時点でトルコのインターネット利用者は約3600万人なので、ほんの数日でその0.5%ほどがこのVPNソフトをインストールしたことになる。

ちなみに、「ゼンメイト」はヤヌコビッチ前政権崩壊にいたるウクライナの動乱では、一晩で1万3000人のユーザーがインストールしたという。

同社の共同創業者の一人、サイモン・スペッカさんは、トルコの英字紙「ハリエット・デイリーニュース」のインタビューに対し、「ネット遮断に直面した人々への支援は続けていく」と話している

●ユーチューブへのアクセス続く

グーグルは、世界各国の自社のサービスへの遮断について、「透明性レポート」というサイトで明らかにしている。

それによると、トルコからのユーチューブへのアクセスは、制限されてはいるものの、なお続いている。トラフィックの量はそれ以前のピーク時の3分の1程度だ

またウォールストリート・ジャーナルによると、ユーチューブに投稿されていた動画のコピーを、別の動画サービス「ビメオ」にアップロードする動きもあるという

●ツイッターの法廷闘争

今回のネット遮断の動きは、法廷でも争われている。

ニューヨーク・タイムズによると、トルコの弁護士会とジャーナリスト協会が、ツイッター遮断は「情報の自由」の権利を侵害するとした申し立てに対し、アンカラの裁判所は26日、政府はツイッターを遮断できないとし、当局に対してアクセスを再開するよう命じる判断を示したようだ

またツイッター社の法律顧問、ヴィジャヤ・ガッデさんの公式ブログへの投稿によると、イスタンブールの裁判所は28日、元閣僚の汚職疑惑を追及したアカウントの停止命令について、同社による解除の申し立てを認めたという

同社は早速、アカウントを復旧したと報告している。

トルコでは30日、昨春の大規模反政府デモ以降初の大型選挙となる統一地方選が行われる。

汚職疑惑の渦中にあるエルドアン首相の与党の勝敗に注目が集まっている。

※【追記3】31日10:30更新

ロイター通信によると、30日実施されたトルコの統一地方選で、エルドアン首相は自身が率いる与党・公正発展党(AKP)の勝利宣言をしたようです。ただ、汚職疑惑などを追及してきた反首相派に対しては、「ただでは済まない」とも話しているようです

トルコの英字紙「ハリエット・デイリー・ニュース」のサイトによると、開票率89.73%で与党AKPの得票率は44.11%。

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※【追記2】30日11:30更新

ネットセキュリティの米レネシスは、元国営の大手通信会社「トルコテレコム」が、グーグルのパブリックDNS用のIPアドレス「8.8.8.8」などの乗っ取り(スプーフィング)を行っている、と指摘している。

遮断回避のためにグーグルDNSを利用しているつもりのトルコのネットユーザーが、ツイッターなどへのアクセスをしようとすると、トルコテレコムが管理する偽のアドレスに誘導しているようだ。

.@TelecomixTurkey Renesys confirms TurkTelecom now hijacking Google/Level3 DNS: 8.8.8.8, 8.8.4.4, 4.2.2.1, etc. Bogus DNS answers--

Renesys Corporation (@renesys) March 29, 2014

これにより、ツイッターユーザー(ネット遮断の回避しようとするユーザー)の洗い出しができてしまうわけだ。

(*高間剛典さんからご教示いただきました)

※【追記】30日10:30更新

グーグルも29日、公式ブログで、パブリックDNSサービスがトルコのISPによって遮断されていることを公表した。同社のソフトウエアエンジニア、スティーブン・カーステンセンさんはブログの中で、「トルコのISPは、グーグルのDNSサービスを偽装したサーバーを立ち上げている」と説明している。

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(2014年3月29日「新聞紙学的」より転載)