韓国が防空識別圏を拡大しましたが、これについてはいろいろな見方が存在します。
1 悲観視するもの
『産経新聞』「東アジアの空『一触即発』 韓国、防空識別圏を拡大 日中と重複」では、「これによって3カ国は複雑な対立の火種を抱えることになり、東アジアの空は『一触即発』状態に陥ったと懸念する声も上がっている」としています。
確かに「韓国政府は発表に先立ち、日米中など関係国に拡大案について説明を行ったとしており、報道官は『過度な措置ではないという点で共感を得た』と指摘。一方的に防空圏設定を宣言した中国とは異なるとも述べた」ことなども紹介しています。
しかし、全体としては「韓国が防空識別圏拡大に踏み切った最大の理由は、中国と争う離於島の管轄権確保への布石とするためだが、日本にとっては新たに厄介な問題が浮上し、問題が複雑化したといえる。また、地域の「仲裁役」となることを避ける米国の消極的対応も浮き彫りになった」という記事です。
2 楽観視するもの
これに対し『ハフィントンポスト』の「韓国が防空識別圏を拡大 アメリカが評価した理由とは」では大分異なった見方をしております。
こちらでは、「今後の対立も予想される。しかし、韓国の防空識別圏拡大をアメリカは評価。その理由はどのようなものだろうか」という問題提起を最初に行っています。
その上で、アメリカ国防省報道官の「国際的な航空秩序と規範に合っており、民間航空機の運航に制限を加えない」「新たな区域内での偶発的な軍事衝突を防止し、航空機の安全確保について関係国と協議していく」という意見を紹介しています。
外にも「米韓が事前に協議を行ったことや、国際的な慣行に従って運用するなどとした内容を評価する」とした意見も紹介しています。
3 物事の裏表
この2つの記事は正直どこに焦点をあてるかが異なっているだけで、報道している内容は実はほとんど同じです。
『ハフィントンポスト』はアメリカ等と事前協議をしたことに重点を置いて、中国とは違うことに焦点を当てているわけですが、『産経新聞』は、そうはいっても防空識別圏が重なりあっていることに重点を置き、問題が複雑化したことを問題視しています。
確かに中国の場合、途中からトーンダウンしたものの(自分たちで設定した防空識別圏で、苦悩する中国)、当初は民間航空機の運用にも制限を加えるようなことを述べており、どうなることかと本気で心配したところですが、韓国の場合そのようなことはありませんでした。
これをして、中国と異なり一発触発の事態ではないのだから良かったとするか、重なり合うところが2国から3国になっただから、問題はより複雑になって大変だと見るかという話かと思います。
4 ホットライン
日本政府は韓国との間にはホットラインがあり、互いの意思疎通はできているので大丈夫だとの発想の様です。
確かに、防空識別圏はスクランブル等をかけたりするために必要なものなので、事前にどこの国の軍用機が何の目的で接近して来たかがわかっており、対処する必要がないとなれば、それで事足りるという面はあります。
ま、現実問題として日本と韓国が戦争状態となる可能性は殆どないので、これで足りるといえばその通りなのでしょうが、竹島問題などで緊張が高まることを考えると『産経新聞』などが心配する気持ちもわからないではありません。
5 最後に
実際問題、今回の問題で最初最も心配されたのが、中国が何をしでかすかわからないという点だったかと思います。
現実問題として、現場の暴走(中国の「レーダー照射」に対する日本の対応)から戦争になった例というのも数多くあり、今回の防空識別圏がそうなるのではないかと心配された方は多かったかと思います。
尖閣諸島の国有化の時も戦争になるのではないかという意見がありましたが、私はその可能性はかなり低いと見ておりました(中国を批判する中国人は「売国奴」か?)。
というのは、中国は確かに、強権主義で力を重視する傾向が強いので(中国の力に対する盲信と戦争の可能性)、何をしでかすかわからないと思っている方が多いようですが、上に立っている方は出世競争を勝ち抜いて来ており、間違いなくそれなりの能力がある方で、考え方にも一応の合理性があります。
そのため、もし戦争となると現在の経済発展が捨てることを意味することは自分たちが一番よく理解しており、戦争をしたくないという気持ちが強いのは間違いないと考えます(もちろんエリートがやけくそになった起こした戦争もあるので絶対とは言いません)。
そういう意味で、絶対中国と戦争が起こるはずがないというたかをくくるというのは賛成しかねますが、戦争になるのではないかと必要以上におびえるのはよりおかしいと考えています。
(※この記事は、2013年12月10日の「政治学に関係するものらしきもの」から転載しました)