内外の報道を見る限りアメリカがシリアに軍事介入する事は最早避けられない。一方、朝日新聞の報じる所では、安倍首相は対米連携を確認したとの事である。アメリカの盟友であり、アメリカ追随を分かり易く表明しているイギリス同様、日本もこれでシリア問題に関与して行く事が確実となった訳である。
|

内外の報道を見る限りアメリカがシリアに軍事介入する事は最早避けられない。一方、朝日新聞の報じる所では、安倍首相は対米連携を確認したとの事である。アメリカの盟友であり、アメリカ追随を分かり易く表明しているイギリス同様、日本もこれでシリア問題に関与して行く事が確実となった訳である。当然の話としてアメリカが軍事介入に踏み切れば、日本も多くの不都合な事実に直面せざるを得ない。シリア政府はアメリカ軍の攻撃予定地でシリア国民を「人間の盾」として使用するかも知れない。結果、何の罪もないシリア国民がアメリカ軍の発射したミサイルによって殺戮される事になり、惨たらしい映像がテレビで流れ、悲惨な写真が新聞の一面を飾る事になる。

マスコミに取ってシリア問題の本質に迫る事は随分と骨の折れる仕事である。一方、これに比べ国民の間に広がる犠牲となったシリア国民への「同情」を拡散し共鳴を得る事はいとも簡単である。従って、マスコミは「同情」を煽りアメリカ支持の決定をした安倍政権を批判する事になる。シリア問題の本質を理解してもいない野党はマスコミに便乗し訳の分らぬまま国会で政府の揚げ足取りに狂奔する事となる。野党議員はテレビカメラの前での一発芸、瞬間芸に終始し、国会はまるで小学校低学年のための学芸会場の様になってしまう。極めて残念な話であるが、「政治」や「マスコミ」が余り頼りにならないのであれば国民がシリア問題の本質を理解し、政府の動きを注視するしか手段がない。それではシリア問題の本質とは? 一体何であろうか?

■「イスラム」が問題なのか?

表だっていう事は差し控えているが、多くの日本国民はイスラム教徒にはどういても「イスラム原理主義者」やテロ組織「アルカイダ」のイメージが付きまとい、「厄介者」、「迷惑な存在」と誤解しているのではないだろうか? 分かり易い例は、猪瀬東京都知事が4月にニューヨークタイムズのインタビューに答えたものである。物議を醸した個所を要約すると下記の通りとなる。「イスラム教国は唯一、アッラーの教義のみを共有する階級社会で、内戦に明け暮れている。そのような国は開催国にふさわしくない」。私の様に中東での3年半の駐在も含め比較的長い期間を中東、イスラムに関与した人間にとっては誠に以て残念な発言であったといわざるを得ない。しかしながら、多くの日本国民が「イスラム」に対し同じようなイメージを持っているのも否定し難い事実である。そして、この事がシリア問題を理解する上での障害となっている。

インドネシアは人口2億3千万人を超える世界最大のイスラム人口国として有名である。インドネシア経済は好調を維持し、インドネシア経済は黄金期を迎えたかといった明るい見通しの記事を見る事が多い。この事を裏付ける様にスズキが1千億円を投資してインドネシアに自動車の一貫工場を新設するニュースが耳目を集めた。スズキの下請け、孫請けが雁行してインドネシアに進出するのは確実であるし、他の製造業の進出ラッシュを予想するのも当然の話である。マレーシアもインドネシア同様イスラム人口の多い国であり、同様好調な経済を謳歌している。「世界銀行は、マレーシア経済の今年の成長率を5.1%と予想している。2014年も引き続き堅調を予想しており、5.1%の成長を見込んでいる」。インドネシアやマレーシアの現状を見る限り「イスラム」は問題の理由ではないという結論になる。

■北アフリカ・中東という地域に問題があるのか?

北アフリカと中近東の地域リスクが高まっている状況については丁度一か月前にテロリスクが高まる北アフリカと中近東で説明した。問題山積の地域である事は疑いない。しかしながら、サウジやサウジに雁行する湾岸産油国は比較的安定しており、石油輸出によって得た富で国民は豊かな生活を享受している。従って、国が北アフリカ・中東に位置するのが問題の原因であるとは一概にはいえない。

■「アラブの春」に共通するものとは?

エジプトの騒乱では小麦価格の高騰による貧困層の困窮や、若年失業率(多いところでは5割)の大きさが原因としてあげられている。これは、アラブの春が発生した北アフリカ・中東諸国では大なり小なり共通した社会問題ではないだろうか? 域内人口の爆発的な増加が慢性的な食糧不足を発生させている。日本や欧州の「少子高齢化」とは真逆の「多子若齢化」が加速し、結果深刻な若年層の失業問題を発生させている。

■シリアの状況とは?

更には二年間の内戦の結果、国内の原油生産はピーク時の5%にまで落ち込んでいると聞いている。これでは石油を輸出して小麦を輸入するためのドルを稼ぐどころか国内で使用するガソリンを輸入せねばならない。結果、シリア国民が必要とする小麦価格が高騰し国民の間に飢餓が蔓延する。同様、ガソリン価格が上昇し貧困層の更なる困窮が重篤化する。

■シリア問題の本質とは?

人口増を管理しなかった「人口政策」の失敗。「農業政策」の失敗とこれに起因する「食糧不足」。油田の枯渇から原油生産量が落ち込んでいるにも拘わらず、外貨を獲得するための産業を育成しなかった「産業政策」の失敗。「多子若齢化」により労働人口が急増しているにも拘わらず雇用を創出しなかった「雇用政策」の失敗が列挙される。シリア問題の本質とは? 畢竟これらの失敗が複合し国の中核となる「経済」、「金融」、「社会」システムが機能不全に至ってしまった事と理解する。

■アメリカの軍事介入によってシリア問題は解決するのか?

アサド現大統領がシリアを統治する限り問題の解決は期待出来ない。従って、アメリカが軍事介入を断行し現体制を打倒する事で、細くて棘の道かも知れないが問題解決の可能性が生じるのは確実である。しかしながら、シリア再建の主体が現在シリア政府軍と死闘を繰り広げている好戦的な「イスラム過激派」、「イスラム原理主義者」でない事だけは確かである。従って、アサド体制崩壊後のシリアの青写真なしにシリアの現政府を打倒しても、イラクやアフガニスタンでの失敗を更に繰り返すだけの話となってしまう。かといって、それを忌避して攻撃を限定的なものに制限すれば、国際社会は今回の軍事介入は「所詮オバマ大統領の示威に過ぎない」と厳しく批判する事になる。オバマ大統領とアメリカが進もうとする道は決して平坦ではない。そして、日本国民が忘れてはならないのは安倍首相が日本を代表してオバマ大統領とアメリカに寄り添う事を約束した事実である。