日韓比較(6):非正規雇用-その2 非正規雇用労働者の内訳―短時間労働者の待遇のあり方や子育てをしている女性の働き方の改善を進めるべき!:研究員の眼

韓国ではフルタイムで働けるのに、雇用期間の制限のある限時的労働者が多い。
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今回は日韓における非正規雇用労働者の内訳を比較してみたい。

表1は、日本と韓国における男女・年齢階層別非正規雇用労働者の割合を示しており、日韓共に若年層や高年齢層の割合が相対的に高いことが分かる。その中でも若年層の非正規雇用労働者の割合が高いことが心配である。

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日韓の労働市場は非正規職から正規職への転換が難しく、労働市場の進入段階から非正規職として働くと、ずっと非正規職として働く可能性が高い。

さらに、雇用形態による賃金や処遇水準の大きな格差は、結婚や出産を諦めさせる要因を提供している。

従って、若年層が自らの希望に沿って結婚し、子どもを産み、育てる環境を作るためには、より安定した「正規職」という雇用形態をどのように確保し提供するかが今後の課題だと言えるだろう。

図1は、日本における非正規雇用労働者の内訳を示している。

日本の場合は、非正規雇用労働者の中でパートやアルバイトが占める割合が68.7%で最も高く、次は契約労働者(14.9%)、派遣労働者(6.1%)、嘱託労働者(6.1%)の順になっている。

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他方、韓国の場合は、非正規雇用労働者を大きく「限時的労働者」、「時間制労働者」、「非典型労働者」の3つに分類している。

まず、「限時的労働者」とは、雇用期間が限定されている非正規職で、その中でも労働契約の期間を定めた「期間制労働者」と労働契約の期間を定めていない「非期間制労働者」に区分している。

また、「時間制労働者」とは、労働時間を基準に分類した非正規職で、労働時間が短い労働者がこの基準が適用される(日本のパート・アルバイト)。

最後に「非典型労働者」とは労働の供給方式を基準に分類した非正規職で、派遣労働者、用役労働者、特殊職労働者、日雇労働者、家庭内労働者に分けられる。

図2は、韓国における非正規雇用労働者の内訳を示しており、日本のパート・アルバイトにあたる「時間制労働者」の割合は日本より小さく、「限時的労働者」(特に、「期間制労働者」)の割合が高いことが分かる(*1)。

つまり、日本では非正規雇用労働者の中で短時間労働者であるパートやアルバイトが占める割合が高いことに比べて、韓国ではフルタイム労働者であるが雇用期間が制約されている期間制労働者の割合が相対的に高いと言える。

韓国では、2007年7月に「非正規職保護法」が施行される前までは、期間制労働者の長期使用に関する法的規制が特になく、企業は正規職に対する解雇規制を回避する目的で期間制労働者を多く雇用していた。

そして、「非正規職保護法」の施行により期間制労働者の長期使用に関する法的規制(*2)が用意されてからも、短期的なパートやアルバイトよりは正社員と同様に働き、賃金はパート・アルバイトより高いものの、相対的に長く働ける期間制労働者を企業は選好している。

また、労働者の側も1ヶ月の安定的な収入を希望し、収入が不安定なパートやアルバイトよりは期間制労働者として働くことを望んでいるのが現状である。

日本ではパートタイムという働き方を選択する理由として、「自分の都合の良い時間(日)に働きたいから」あるいは「勤務時間・日数が短いから」(*3)といったものが多いことからすれば、フルタイムで働けるのに雇用期間の制限のある限時的労働者の多い韓国に比べて健全のように見える。

しかし日本の現状に問題がないわけではない。

その一つの事象として擬似パートの問題がある。擬似パートとは、労働時間が正規労働者と同一の労働者で、フルタイムパートとも呼ばれており、パートタイム労働者の約2割から3割がその範疇にはいると言われている。

擬似パートは、女性が多く、就労の実態は正社員とあまり変わらないが、賃金は時間給で賞与がないケースが多く処遇水準においては正社員と比較してかなりの差がある。同一労働同一賃金が適用されない一例だと言える。

また、子育てをしている女性の中には、育児環境の不整備が原因で、短時間労働者として働いているケースも少なくない。

過去と比べて短時間や派遣といった多様な働き方が増えてはいるが、働く母親の事情を考慮した働き方は他の先進国に比べて十分提供されていない。

今後、短時間労働者の待遇のあり方や子育てをしている女性の働き方の改善が切実に要求される。

(*1) 非正規雇用労働者の3分類「限時的労働者」、「時間制労働者」、「非典型労働者」は回答が重複しており、合計が100%を上回っているので、日本の数値と直接比較することはできない。

(*2) 企業は期間制労働者を同一事業所で2年以上勤務させた場合、該当労働者を無期契約労働者に切り替えることが義務化された。

(*3) 厚生労働省(2011)「平成 23年パートタイム労働者総合実態調査の概況」

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(2015年8月11日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 准主任研究員