東京都知事選挙で争点の一つとなった原発問題。 元原発作業員の林哲哉さんは、2012年の夏から秋にかけて東京電力福島第一原発の収束作業に携わった。私たちが普段知る事のできない、イチエフの映像や情報を元に現場の抱える課題を8bitNewsの取材に赤裸裸に明かしてくれた。
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ーこれはいつ頃の映像ですか?
2012年の10月27日ですね。
ーこんなに流された車が山積みになっているんですね。
これは海側、おそらく今も海側はこのままで片付けている余裕がないと思います。ここにかまっている余裕がないです。がれきの撤去をやっている人もまだ3号機の建屋の上のがれき撤去などに追われていますから。そちらを先にならなければいけないから。
ー原子炉建屋の海側で線量はどれくらいですか?
このあたりで、自分の持っている線量計で毎時300から400μSvでしたね。回り込んで山側の方、建屋の横に行くと高いところだと毎時800から900μSvの値です。
ー相当高いですね。800、900というとどれくらいで許容範囲を超える値ですか?
結局、800、900ということは1時間に1mSv近くなので、24時間仮に浴び続けたら24mSv近いですよね。ということはイチエフ(東電福島第一原発)の作業が年間で20mSvまでという基準があるとしたら、丸24時間そこで働いたら1日で達してしまうという値ですよね。一般の人が年間で浴びてよいのが1mSvだとしたら、1時間で達してしまうという高さです。だから、全然人影見ないじゃないですか。殆ど人の姿がないですよね。
ー本当ですね。まるで休日のオフィス街のように人の行き来が殆どないですが、これはどこの現場の映像ですか?
これは2号機の隣です。そして、この奥が3号機。クレーンも動いていないし、人影も見ないじゃないですか。結局、自分が思うには毎日2000人から3000人作業に入っていると言われていますが、本丸にアプローチできる人というのはごくわずかだし、ごく短い時間しか作業ができないから。普段クレーンが動いているのは滅多に見ないですし、人影を見る事もあまりないんですよね。今、やっている収束作業というのは建屋から離れたところで、冷やして水をくみ上げてくるというのがメインではないかなと。自分は1ヶ月半イチエフで働いていましたけど、ここの間で人を見たというのは滅多になかったですから。
ーいない?
いないです。取材とかでテレビで報道されるときって人がうじゃうじゃいるじゃないですか。あれは普段出てこないTEPCO、東電の社員の人達で撮影にあわせて出てくるようなイメージですかね。
ー実際の収束作業は現状だとどれくらい進んでいるんでしょうかね?
どこがゴールなのか分からないですけど、本当だったら全体の1%か2%くらいしか行っていないんじゃないかと自分の中では思っています。
ーこの映像は?
建屋から離れて、山側の坂を上っている映像です。線量がどんどん下がっていきます。線量計が逆光で見づらいですけど、このあたりで100μSvから200μSvくらいの値です。さらに坂を上がっていくと10μSvまで下がるんですよね。
ーそこから言える事は何でしょう?
放射線って距離が1メートル離れれば半減するという性質があるのですが、本当に皆離れた所でしか作業ができていない。そこには色んな人が入って、色々な作業をしているんですけど、それって収束って呼べるものか?と言われると本当にそうなのか?と。
ー燃料棒の取り出しやそう言った部分というのは未着手ですからね。
ようやく去年から燃料プールの燃料棒の取り出しが始まりましたが、そもそもあそこに燃料を置いておく事自体がおかしくて、火の上になぜ燃料棒を保管しておくなんて普通じゃ考えられないですよね。設計上。何考えていたの?と。
ーまだ溶けた燃料の行方もはっきりと分かっていませんし、作業はもちろんできていないですよね。
建屋の周辺ですら人がなかなかいないのに、なぜ中で作業できるのかと。そうなると半減期を待つしかないんじゃないですか?作業できる様になるには。もしくはよっぽど放射性物質を取り除く高度な技術が開発されるなりしないと、いつまでたっても作業ができない。
ーいつの話でしょうか?
いつになるんでしょうね。中の放射線が高い原因がセシウム137だとしたら30年経てば半減しますよね。もう60年経てばさらに半減するんでもしかしたら人が入れる様になるかもしれませんが、プルトニウムが原因であれば下手したら5万年、10万年アプローチできなくなることになるので、中の放射性物質の状況によりますよね。実際には様々な核種がそこにあるわけですからね。もしヨウ素だけだったら8日もすれば半減して1ヶ月もすればゼロになってしまうかもしれませんが何十種類もあってね、中には何百年もかかるというものが炉心の方にいけばあるので、ひょっとしたら本当の廃炉の作業なんて始まりもしないんじゃないかなって。その間、このような感じでゴミが出続けるんですよね。
ー凄い量ですね。これはどこの映像ですか?
これはJビレッジの隣のサッカーグラウンドです。当時ごみ置き場になっていました。今は、敷地のどこかに持っていったのではないでしょうか。
ー積み上げられた袋の中には何が入っているんですか?
白とか青がタイベックスーツ。作業員がきている。こっちは軍手。ピンクはフィルターの付け替えですね。一回入って休憩する度にタイベックは着替えて捨てていくので、1日作業して、休憩や昼食をとると最低でも2、3着1人で捨てていく訳ですから、それが全て低放射性廃棄物になって保管していかなくてはいけない。
ー捨て場をどうするのかまだ明確に決まっていないですよね。積み上げられていくばかりですね。
ここにあるのはJビジレッジだけのものでこれだけの数なので、他のも入れると相当な量ですよね。この後始末は誰がどうやってするの?と。何年管理して、いつまで管理し続けるんですかと。その予算も考えているんですか?と。当然お金もいるわけですから、そのお金は誰が負担するんですかと。これの管理と後始末に40年後や50年後の現役世代は税金でとられるんですか?電気代でとられるんですか?と聞きたくなりますよね。
ーこれは今度処理しなくてはいけませんからね。
ね。このごみ袋は、2000、3000人×1日3着とすれば6000とか9000とか使い捨てているわけですよね。再利用できるものではないので。どう考えても再利用はできないものですよね。さらに、ごみ関連でいえば、敷地内にはがれきヤードというのがあって。これは多分津波で壊れたものやがれきが山になって入り組んで迷路のようになっているんですけど、これから中で作業したものもこちらにどんどん積まれていく。何か新しい作業するにしてもこうしたゴミがどんどん出てくるんじゃないかと。ここに積まれたものはまだ低線量で。高線量のものはテントがあって、テントヤードと呼ばれる施設に入れられていきます。
ーこういう景色を目の当たりにしたご自身としては原発事故というのはどのようなものだったと捉えていますか?
ここにあるものは全てごみだと思うんです。今のところ。原子炉建屋もごみだし、核燃料だってごみだし、これらのがれきもごみだし、タイベックなどもこれからごみになっていく。それをこれから何十年かかるのか、何万年かかるのかわからないですけど負担させなくてはいけない。それが確定しているというのは、先人が残すものとしては最低のごみだなという感じですかね。だから。それでもゴミを作り続けるのでしょうか、この国は。
ーはじめにインタビューさせてもらったのは1年半前ですが、事故自体からは3年が経とうとしていますが、変化はありましたか?
変化を感じないんですよね。例えば東京都か街中とか電車に乗って移動していて、自分には光景として何も3年前とは変わっていないんですよね。何も変わっていないし、何か変わったのかなという疑問。逆にここに来ると、ゴミの山を出し続けているし、周辺の村も言っては悪いけれど行く道中30分くらいかけて廃墟のような街を通って現場にいくじゃないですか。家とか建物とか住まなくては傷んでいくし、汚染もされているし、申し訳ないけれどあれが使えなくなってごみになってしまう。無人の街と変わらない東京のギャップみたいな。皆の中の意識がどれくらい変わっているのか逆に知りたいですよね。知りたい。
ー東京ではオリンピックに向けて大規模な公共事業、公共投資が行われてそちらに税が投入されますよね。
当然これから突貫工事がはじまって7年後に間に合わせるということが始まれば、人は当然そっちに行きますよね。そしたら、例えば職人だったり技術者だったり人は急には増えたりしないんで、どう考えても福島の現場は進むのがまた遅くなってしまうだろうと思ってしまいますよね。
ー実際の収束作業の現場では技術を持った作業員の数というのは不足していたのですか?林さんが現場にいらした時にはいかがでしたか?
自分は技術をもっていたり専門職だという方は数%しかいないとしか感じませんでした。そうですよね。みんな地方とか元々の仕事があって、公共事業とかあってそれにあった人数しかいなかったはずで、突発的にこのような事故があれば人が足りなくなるのは当然ですよね。重機を動かしたりするのも経験ですよね。現場にはちゃんと重機を動かせる人もいれば、資格は持っているんだけど言っちゃ悪いがへたくそな人もいっぱいいましたし。足りなくて当然というのは目に見えています。
ー他に安全な職場があるならわざわざ線量浴びに、リスクの高い現場で作業をしたいと思ってやってくる人は少なくなるでしょうね。
そうですね。マスクをつけて苦しい思いして、放射線のような目に見えない訳の分からないものを浴びにくるよりは、単価が良い仕事が東京にあるのであればそっちに動いてしまうと思うんですよ。そうすると、ちゃんとそういう技術者を育てる仕組みを作らないと原発の収束作業に携わってくれる人を確保できなくなってしまうと思います。
8bitNews投稿動画より
現役作業員ハッピーさんへのインタビュー記事もあります。林さんの証言とあわせてお読みください。