日本はイランにどう関与すべきなのか?

イランは長きに渡る日本に取っての友好国である。同時に、イラン問題が重篤化し、その結果ホルムズ海峡が火と機雷の海となればタンカーが航行不能となり、日本が輸入する原油の80%が供給不能となってしまう。そうなれば、日本経済は良くて半身不随、下手するとショック死もあり得るのではないかと危惧する。
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ハフポスト記事、日本、イランへも原発輸出か 日本に求められる中東への役割とは【争点:安全保障】を拝読。イランは長きに渡る日本に取っての友好国である。同時に、イラン問題が重篤化し、その結果ホルムズ海峡が火と機雷の海となればタンカーが航行不能となり、日本が輸入する原油の80%が供給不能となってしまう。そうなれば、日本経済は良くて半身不随、下手するとショック死もあり得るのではないかと危惧する。従って、日本はイラン問題を他人事だと思わず、我が事として捉え、状況改善に向けての努力を惜しむべきではない。しかしながら、アメリカを筆頭にイランに関与する国はそれぞれ過去の歴史を抱え、思惑を持っているのも今一方の事実である。日本が不用意に動けば地雷を踏み、片足を喪失する様な好ましからざる事態も充分にあり得る。従って、実際の行動に際しては関係各国との事前合意の取り付けが必要と思う。

■ 日本

ハフポスト記事にある通り岸田外相はイランを訪問し11月9日ロウハニ大統領と会談を行い、包括的核実験禁止条約批准と国際原子力機関(IAEA)による査察受け入れを提案している。これは、今後国際社会がイランの核開発を承認するに際し肝となる。一方、この提案に対しロウハニ大統領は「日本が核問題で役割を果たしてもらいたい」と応じたとの事である。それに対する更に踏み込んだ日本側回答が下記である。

「日本はイランでの原発建設に、協力する用意がある。」

イラン国営通信は11月10日、イランが希望するなら日本はイランで原発建設に協力する用意があるという、日本の外務報道官の話を報じた。イランの核開発問題の解決に向けての、日本の提案の一つとみられる。

一方、IAEAの天野事務局長が11日テヘランでイラン関係者と協議をすることになっている。上記岸田外相の提案を受け、主要国との核協議でボトルネックとなっているイラン核施設立ち入り問題などを協議すると思われる。岸田外相、IAEA天野事務局長の連携の取れた動きを見る限りアメリカの事前承認を取り付けていると推測される。アメリカとイラン両国間には国交がなく、アメリカの代行で日本が動いたのかも知れない。

天野之弥IAEA事務局長は査察団を率いて空路テヘラン入りし、イラン核施設立ち入りなどの問題で進展を目指し11日に同国当局者と会談する。

イランのザリフ外相はジュネーブでの協議終了後にイラン学生通信(ISNA)とのインタビューで、同国は一段の協力の用意があると発言。「IAEAとの交渉はテヘランで続けられ、天野事務局長との間で詰めの協議が行われるだろう」とした上で、「IAEAとイランとの関係は全ての問題の総括を前提とすべきだ。IAEAが専門作業を行えるようわれわれは全面的に協力する用意がある」と語った。

■ アメリカ

BBCが伝える、Iran nuclear talks: US 'not stupid' - John Kerryが実に分り易い。アメリカの同盟国であり、イランを警戒するイスラエルとサウジアラビアに対し安易な妥協はしないと確約しつつも、今月20日に再開予定の会議でイランとの間で合意に至る事を期待している。そして、同じくEmbedされているイギリス、ヘイグ外相の映像は更に合意への期待を滲ませている。

■ イスラエル

イスラエルの本音は分らないが、表面的にはジュネーブでの会議に終始一貫反対している。イランの事が根本的に信用出来ないのかも知れない。それに加え、イスラエルは湾岸戦争時イラクより42日間に18回39発のミサイル攻撃を受け多数の死傷者を出した苦い経験がある。1981年に国際社会の非難を浴びながらもバビロン作戦でイラクの核施設を壊滅させており、その結果湾岸戦争時にイスラエルに向け発射されたミサイルには核弾頭不塔載で、イスラエルが壊滅を免れたという気持ちは今尚強い様に思う。従って、イスラエルとしてはイランを世界から分離した上で核施設を空爆し、核兵器保有の可能性をゼロにしたいのだと思う。そうしなければ、枕を高くして寝る事が出来ないという事かもしれない。

イスラエル説得のためのハードルは高く、アメリカのオバマ大統領も就任以来ずっと手を焼いている様に見受けられる。そこで、今回の岸田外相によるイランへの包括的核実験禁止条約批准とIAEAによる査察受け入れ提案となったはずである。この辺りはイランとしても想定の範囲内であろうが、国内世論を考えればイラン国民は親日的であり、日本からの提案であれば受け入れ易いという事であろう。

■ サウジアラビア

問題を複雑にしているのはイランとサウジアラビアの関係である。成程、サウジアラビアもイラン同様イスラム国家である。しかしながら、サウジアラビアはスンニ派の盟主であり、一方、イランはシーア派を束ねている。従って、この両国はイスラムの覇権を賭けて争っている訳である。現在一番分かり易い例は内戦状態の続くシリアであろう。アサド大統領はシーア派に属すアラウィー派の出身で、政権中枢もアラウィー派が握っている。従って、シリアは歴史的にイランと関係が良く、内戦後のシリア政府を支援しているのはイランである。一方、それに対しスンニ派により形成された反政府勢力はサウジアラビアの手厚い支援を受けている。シリアの内戦とは、イランとサウジアラビアの代理戦争の側面がある。本題から脱線するが、シリア問題の抜本解決のためには矢張りイランが国際社会に復帰する事が望ましいと思う。

■ 中東・北アフリカ

中東・北アフリカの困った状況については、シリア問題の本質とは?で説明した通りである。チュニジアから始まった「アラブの春」は西側諸国に中東・北アフリカ諸国で政治の民主化や経済の近代化が起こる事を期待させた。しかしながら、我々が見たものは政治の更なる混乱と経済の低迷であった。中東・北アフリカの液状化を国際社会が放置すれば、その内多くの難民が中東・北アフリカから地中海を渡り欧州に移動するかも知れない。矢張り、イランが国際社会に復帰した上で、中東・北アフリカの安定に寄与する事が望ましい。

■ EU

EUは財政問題、経済の低成長、失業問題など満身創痍の状態にある。これに加え、イランで戦争が起こればペルシャ湾も火の海になる。或いは、イラン問題がシリアに拡大して、その結果、中東・北アフリカが不安定化すれば、これら地域の問題まで抱え込む事になる。この展開はEUに取っては悪夢以外の何物でもなく何とか回避したいはずである。イラン問題は中東限定の地域問題などでは決してなく、アメリカ、EUも巻き込んだ地球レベルの問題なのである。