「自由と自然エネルギーは土佐の山間より出づ!」

小さなつぶやきから始まった。「どこか遠くで作られた電気じゃのうて、この集落を流れる川の水で電気が作れたらえいのう。」
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○小さなつぶやきから始まった。

「どこか遠くで作られた電気じゃのうて、この集落を流れる川の水で電気が作れたらえいのう。」

3.11から5ヶ月ほどたった2011年8月、土佐山高川区で、背丈の倍ほどもあるユズの木を剪定しながら、軽々と脚立に跨り、80才になろうとする地元の大工さんがつぶやいた。当時、現地のNPOで働きながら土佐山地域の活性化を模索していた私は、地元人の思いと生の声を拾い集め、ひたすら、この過疎地域で自立して生きて行く事が出来る「ナリワイづくり」に、いや単なる「モデルプランづくり」に追い立てられていた。

○マヤ民族から小水力へ

それからわずか1ヶ月後、高知市内で初めて開催された小水力発電の講演会で、ひとりの男と30年ぶりの再会を果たす。彼こそ、高知小水力利用推進協議会(以下、高知小水協)の事務局長であり、後に地域小水力発電㈱を起業し、私を小水力の道に引きずり込んだ張本人の古谷桂信だ。大学2年時、「麻薬シンジケートからマヤ民族を救うんだ!」といって消えた後輩が、長い年月を体型の変化と口ひげに宿し、再び目の前に現れ、こう言った。中南米で原住民の経済的自立に取り組むうち、地域資源による自然エネルギー開発に着目した彼は、

「藤島さん、あの山を見てください!発電に必要な水は勝手に山が集めてくれるんですよ!」

○固定価格買取制度とは(FIT)

3.11から1年4ヶ月後の2012年7月。再生可能エネルギーの開発と利用を促進する目的で施行された固定価格買取制度(以下、FIT)が追い風となり、全国各地で再生可能エネルギーによる発電計画が立ち上がる。さて、そもそも再生可能エネルギーとは、FITとは何だろうか。

資源エネルギー庁によると、

「再生可能エネルギー」は、お日さまや風、川を流れる水の力など、自然の力でつくる電気。

資源エネルギー庁ホームページより。

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つまり、太陽光や水力、風力、地熱、木質バイオマスなど自然由来の資源から電気をつくり、その電気を電力会社に売る(売電)ことで利益を得ることであり、定められた期間、固定価格で買い取ってくれるという契約である。

○自分たちでつくる小水力発電

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「川の水を使って電気をつくり、その電気を売る事で利益を得ます。川の水はこの地域の資源ですから、地域住民が主体となる事業体(例:SPC特定目的会社)をつくり、売電で得る利益は地域に還元し、山の整備や川の保全といった地域づくりやそのための雇用に使いませんか。」

「一年を通して水が涸れず、安定して流れていること。そして、100m近い落差があれば、十分採算性の高い小水力発電が実現できます!」

「水で作った電気は、すべて1kWあたり34円(税抜き)で、20年間買い取ってくれます。年間の売り上げ予想は、2300万円です。」

FITという制度がはじまることを受け、2012年5月、土佐山高川区の総会で高知小水協の古谷事務局長が小水力発電事業の説明を始めると、集まった40代から80代の男女がお互いの顔を見合わせたり、説明に来た高知小水協のメンバーを見定めながら、

「そんな上手い話があるのかねえ。」

「どれくらいの利益になるの。」

「私らあ年寄りにお金を出せ、と言うがかねえ。」

「本当に20年間も買い取ってくれるのか。」

と口々に質問し、早々に期待を寄せる人、半信半疑の目で見る人、反対という人、まだまだ判別がつかないといった感じの人など、多様かつ全うな反応があった。

そんな中、

「電気を売ってできた利益で神社の修繕ができるねえ。昔は境内の木を切って売ればお金が用意できたけんど、今のご時世、切っても赤字にしかならんきね。」

地域の心のよりどころである仁井田神社。老朽化による傷みがひどくなれば改修が必要となるため、集落の中で費用を積み立てている。高川区公会堂(公民館)の改修や県道周辺の草刈り作業等には行政からの補助金があるが、政教分離のからみがあり、神社の補修・改修には、補助金は一切使えないのだ。

「もし、計画通りやったら、集落の不安がひとつ解消できるぞ。」

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提供:地域小水力発電㈱

○自由は土佐の山間より出ずる

高知県高知市土佐山(旧土佐山村)は、30万人が暮らす県都高知市のすぐ北に位置し、かつては坂本龍馬も泳いだ鏡川の源流域でもある。森林が97%を占めるこの山深い地域で、明治のはじめの頃、自由民権運動が燃え上がった。

土佐山地域の東端にある菖蒲集落で暮らす元村役場職員の山本優作さん(67才)が語る。「当時は、集会を開けば弾圧される時代(*)。官憲の目をくらますために巻狩り(まきがり:イノシシ狩り)と称して2000人もの人が集まって、文明開化の新知識を学んだと。ここ土佐山は、自由を求める気風、自立を目指す気骨あふれる土地柄よ。」

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自ら建てた私設公民館で数多くの地域づくり活動を実践している山本優作さんは、平成の大合併で土佐山村が消えて無くなる平成17年1月1日に、合併に対する反骨心から村の外郭団体を退職した「いごっそう(異骨相)」でもある。

〔高知方言〕

気骨(きこつ)があること。がんこ者。土佐(高知県)の人の代表的な気性を表す語。

いごっそうとは-kotobank

山本さんが続ける。「源流域で暮らす土佐山は、下流域に暮らす高知市民の健康と安全を考えて、有機の里を目指しゆうがやき。次世代のために、原発じゃないエネルギーについても考えないかん。太陽光発電も考えたけど、山が険しくて空が狭い土佐山には向いてない。高知市内より雨が多いし、いろいろ調べたら、小水力発電が有望らしい。」

○高知県都道府県ランキング

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都道府県ベスト&ワースト

地域を回れば小水力発電の話にあたる、といっても過言ではないほど、その後も、西川、東川、中切、桑尾、弘瀬など、14あるほとんどの区(集落)で同様の声を聞いた。人口が減り続け、明治の頃には4000人ほどいたが、今や1000人を切ろうかというこの地域。しかし、この少なさが時に話が素早く展開する要素でもある。

「土佐山にある14集落の中でも、やっぱり工石山がある高川区が可能性が高い。よし、高川区長の幹博くんと公社の大崎くんに連絡するき、今度の日曜日に現地を見に行こうやか。」

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地域の活性化についての世間話が、突然具体身を帯び始め、複数候補地の現地調査を経て、地域住民を主体とした発電事業計画へと一直線に進んでいくのだが、この時の高橋幹博さん(65才)と大崎祐一さん(64才)(一般財団法人夢産地とさやま開発公社統括理事)は、その後もこの計画の中心人物であり、発電計画に必要となる川の水を量るため、数十万円の自費を投じて工作物を作り、地権者との交渉や行政への申請等、率先して事業化実現に向けて動いている。

○住民検討会が発足

数回の住民総会を経て、2013年4月、高川区に小水力発電検討委員会が発足した。NPOで働きつつ、高知小水協の運営委員として住民検討会を支援する立場となった私の、当時のFacebookページを引用させて頂く。

○水力発電特有の課題

住民総会、検討委員会発足、先進地視察、概略レイアウト設計など、一年もかからず驚異的なスピードで具体的な事業検討が進んだ土佐山だが、その後は足踏み状態が続いている。というのも、①計画地点の権利関係 ②河川法や電気事業法など、法規制による障壁 ③電力業界における高コスト体質による事業費の膨張 ④電力会社との系統連系接続 など小水力発電まわり特有の課題が列をなして待機していたからだ。関係機関の理解と協力、そして全国小水力利用推進協議会や大手電力会社、行政OBなどのサポート受けながら、ひとつひとつ順番に解決しているのだが、ここへ来てさらに摩擦係数が高いのは、資金調達とリスクマネジメントである。

○次の塁に進むには、前の塁を離れなければならないのだが

地域住民の、地域住民による、地域住民のための発電計画づくり。前述のように実現のためにはまだまだクリアすべき課題は多い。数ある課題の中でも、もっとも大事なことは、地域自立へに向けた住民たちの覚悟だ。一定の価格で20年間買い取ってくれる契約とは言え、補助金に頼らない、億単位の支出を伴う事業計画である。金融機関の融資を受けるとしても、一定の自己資金(資本金として総事業費の20%を想定)が必要となる。元本保証のない出資に二の足を踏む住民は多い。また、渇水やゲリラ豪雨、地震等自然災害によるリスクも想定しなければならないし、地域の世代交代や減り続ける人口など、社会的マイナス要因も考えられる。地域住民はリスクはゼロか100か、という捉え方をしがちだが、自分たちでハザードを定め、リスクをコントロールし、そのリスクの低減や回避について、自らが主体的に悩み、解決策を考える必要があるだろう。

検討委員会の40代のメンバーがいう。

「採算がとれるのか心配。こどもたちに負の遺産は残したくないが、何もしなければ確実に地域は廃れて行く。一定のリスクは覚悟して進んで行くことも大事。」

前の塁にとどまっていては次の塁に進むことはできないことは自明の理。地域自立への覚悟を促すためには、コーチ役として関わっている高知小水協、そして地域小水力発電㈱の役割も重要となってくるのだが、マンパワー不足などもあり、地域住民とともに成長している段階で、検討委員会からの期待に十分に答えられていないのが現状である。

○小水力発電で地域づくり、岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)

一方、全国に目を向ければ、集落単位での画期的な発電計画が進行中の地域も既に出てきている。ほぼ同じような課題を抱えるこれらの地域同士が連帯・交流することで、課題解決のヒントや新たな気づきが生まれる事もあるだろう。この6月には、岐阜県石徹白地区で小水力発電に取り組むNPO法人「地域再生機構」(岐阜市)の平野彰秀副理事長らを土佐山に招いて、地域が小水力発電に取り組む上で課題となる事や住民合意のノウハウなどについて学習する予定だ。

○「地域住民がつくる発電所」さらに一歩前へ

見方を変えれば、次から次へと現れる課題を解決していくことで、「地域住民がつくる発電所」は確実に実現に近づく。実現すれば、買取期間の20年間は地域が生き残ることができるだろうし、そして次の20年を見据えた中長期的な、自立した地域づくりが見えてくるだろう。小水力発電は、平均して40-50年、長いところでは100年近くも稼働し続ける優等生でもある。売電益という『自主財源』を手に入れ、自立した未来への選択肢を生み出す事が出来るか。検討委員会が掲げる「ローカル・ローコスト・ローエミッション」な地域発の小水力発電所は、2015年度中の発電開始を目指している。

(この記事はジャーナリストキャンプ2014高知の作品です。執筆:藤島和典、デスク:島洋子)