国は、地方自治体に対して、今年7月からの地方公務員給与の削減を強く求めてきました。
これに対して、例えば、全国市長会議で国の要請に対する批判決議がなされるなど、全国の自治体は、国への不満や、不信感を募らせています。
過去にも、三位一体の改革による地方交付税の大幅削減など、自治体の財政に重大な影響を与える施策はありましたが、この度の給与削減要請は、質的に大きく異なっています。
■これまでの状況
国(国家公務員)は、平成24年度と25年度の2年間、期限付きで平均7.8%の給与削減を実施しています。理由は、国の厳しい財政状況と、東日本大震災の復興財源の一部にするためです。
これを受けて、国は、平成25年1月、地方に対して、「国に準じた」地方公務員給与を要請し、各自治体や地方議会は、ここ数ヶ月、様々な議論を行ってきました。
自治体が給与削減を行う場合には、職員組合との交渉や、議会での給与削減に関する特例条例の議決など、様々な手続きが必要となります。
国の要請に基づいて、6月までに議会での議決を行い、7月から給与削減を実施した自治体は826、一方、減額していない団体は、618(約35%)です。
■地方交付税を人質に
国は、地方が給与削減を行うことを前提として、今年度の地方交付税総額を削減する決定を行いました。
自治体の規模や事情にもよりますが、地方交付税を削減された自治体は、蓄えていた内部の貯金(財政調整基金など)を取り崩すとか、給与削減を渋々実施するといった対応をとることになります。
なお、全国の自治体のうち、国からの地方交付税に頼らず、財政運営ができるのは、都道府県では東京都のみ、市町村では、東京都内や愛知県内など、主に都市部の48団体、合わせて、49団体(約3%)のみです。
■さらなる要請
さらに国は、先般、削減未実施の自治体に対して、9月議会での給与減額条例の議決と、10月からの実施について、再度強く要請しました。
この新制度では、自治体への交付税配分の計算(人件費部分の基準日)時点を、今年の10月1日とすることも、同時に臭わせています。
「今年の10月までに給与削減をしないと、来年の交付税を減らす。」ということです。
一方、国では、平成26年度から、新たな交付税算定についての制度設計を進めています。この中で、給与削減など行革努力で成果を上げた自治体に、交付税を手厚く配分する方法の検討が行われています。
三位一体の改革による交付税の大幅削減は、ほぼ全ての自治体に、同じような影響が及ぼされる内容でした。今回のように、個々の自治体ごとの配分(減額幅)が、プラスとマイナス両方向に大きく異なる恐れのある事態は、異例のことです。
■国の腹の中
国から「ムチ」を見せられ、同時に「アメ玉」が投げ込まれる状況になりました。
なぜそんなことをするのでしょうか。
「自分たちは、1年以上も前から給与削減をしているんだから、当然、県や市町村も、同じようにカットすべきだ。」
「このままでは、自治体間の横並びが崩れ、不公平が生じる。」
「国が要請しているんだから、自治体が従うのは当たり前。」
国にとって大事なのは、もはや、メンツを保つことだけなのかもしれません。
■これから起きること
給与削減を実施しない自治体は、国のアメとムチにより、今後、急速に減っていくと思われます。
一方で、自治体の不満や、国への不信感は、募るばかりでしょう。
じわじわと国と地方の溝が広がり、ひいては消費税や道州制といった課題において、地方の反発があらわになり、国と地方の対立につながっていく。
いずれ、あれがターニングポイントだったと気が付くことになる。
しかし、それは国と地方の双方にとって、ひいては国民にとっても、望ましいことではありません。
そんな事態を避けるためにも、次回以降、この件について、どういうことが起きていて、何が問題なのかを、お伝えしていきたいと思います。