(この記事は、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のサイトで8月9日に公開された記事の転載です)
(ニューヨーク)-スリランカ政府は、2013年8月1日にウェリウェリヤでデモ参加者が数名死亡したことについて、誤解を招く情報発信をやめ、独立しかつ透明性の高い調査をただちに立ち上げるべきである。清潔な飲み水を求めるデモ隊に対して治安部隊が実弾を発射し、少なくとも3人が死亡、複数が負傷した。
報道によると、コロンボから約25キロメートル離れたガンパハ県ウェリウェリヤのコロンボ・キャンディロードで、きれいな水を求めてデモをしていた地元住民や僧侶に兵士が発砲。マヒンダ·ラージャパクサ政権はこれについて、デモ隊が石や火炎瓶を投げつけたり、発砲したことに対する自衛措置だったと主張している。死傷者が出た状況がはっきりとせず、政府も事件に関係した兵士に責任はないとする声明を出していることからも、特に独立した調査が求められるといえよう。
ヒューマン·ライツ·ウォッチの南アジアディレクター、メナクシ・ガングリーは、「治安部隊が3人を殺害したのは明白なのに、スリランカ政府の反応は不正行為の可能性を否定するという、お決まりのものである」と指摘。「政府は軍による説明を援護する代わりに、独立した調査を指示し、法を犯したすべての人を訴追すべきだ。」
平和的に行われていたデモへの対応機会が、警察や地元当局に与えられずに、なぜこれほど早急に軍隊が投入されたのかについては不明だ。ビデオ映像には、武装した兵士がデモ隊に近づく様子が映っている。棒や物を投げつけているデモ参加者も一部いるものの、人びとが現場から逃げはじめるなか、兵士たちはまず空中へ威嚇射撃し、続いてデモ隊へ向けて発砲したようにみえる。
一部のデモ参加者は地元の教会に逃げ込んだが、その外壁にも銃弾の跡が残っている。教会関係者や目撃者が複数のジャーナリストに語ったところでは、武装した兵士が教会に侵入し、中に隠れていた人びとに暴力を加えたり、ののしったりしたという。教会スタッフは、デモ参加者を支援したことに関し警告を受け、ある尼僧1人は銃口を向けられた。ジャーナリストたちのカメラも破壊された。事件後ジャーナリストたちは、本件について報道しないよう軍関係者から脅しを受けたと話した。
銃撃事件直後の政府の反応は、軍の取った行動の擁護だった。ゴタバヤ・ラージャパクサ国防長官は、軍隊の展開は警察の要請だったと述べたうえで、調査を約束。だが、「軍とラージャパクサ大統領の人気の高さに不満を持っている人びともいる。我々は彼らの戦略を心に留め置くものである」と警告した。軍は自衛のために発砲したと主張しているニマル・シリパーラ・デシルバ院内総務はこれに先だち、「調査では、治安部隊に手向かうよう人びとを扇動するような外部の力や勢力が事件の背後になかったかについて、検証することになる」としている。スリランカにおいてこうした発言が含意する旨は、民兵組織の関与である。
国防省は、「制服姿の発砲者たちは兵士ではなくデモ参加者」とする記事をウェブサイトに掲載して、同様の主張をしている。「市民クーデターを通じた『スリランカの春』の企て」と題した記事で、「陸軍の非難も結構だが、軍服を持ったまま脱走する兵が大勢いることも忘れてはならない......。つまり発砲していたのは、こうした個人であるという可能性も否定はできないということだ」としている。
世論の圧力に直面し、8月3日には軍が抗議デモについての調査委員会設置を発表。国家人権委員会もまた、調査の実施を発表した。しかしこれらの機関はいずれも、信頼に足る公平な調査を実施する立場にあるとはいえない。ジャガス・ディアス元将軍が軍の調査委を率いるが、彼の57部隊は26年間続いたスリランカ内戦の最終年に、戦争犯罪に関与したとされている。また政府の関わりにより、国家人権委員会の独立性も近年きわめて低くなっている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはスリランカ政府に対し、治安部隊がデモ隊に対応する際には「法執行職員による強制力及び武器の使用についての国連基本原則」に従うことを確実にするよう強く求めた。同原則は、軍人を含む治安部隊は「強制力と武器の使用に訴える前に非暴力的手段を模索し適用する」ものとし、「合法的な強制力と武器の使用が不可避な場合でも」、法執行官は犯罪行為の重大性と達成すべき合法的な目的に均衡の取れた行動を取り、その使用による損害や負傷を最小限に抑えるものとしている。また、致死力を備えた武器の意図的な使用は、「人命を守るために不可避であるという、厳しく制限された条件下」でのみ許されると明言している。
前出のガングリー南アジアディレクターは、「デモを抑えるためにライフルで武装した兵士を送りこむという当局の判断は、きわめて憂慮すべきものだ」と述べる。「人びとが平和的かつ安全にデモをできるよう、全体的なアプローチの再考がスリランカ政府に求められている。」