重症心身障害児のお父さんから、僕のブログにメッセージがあり、お会いすることになりました。
Zさんは、全前脳胞症という脳の障害を持つ10歳のTくんを奥さんと一緒に育てられている方で、東京近郊にお住まいです。
Tくんは排泄が自力でできないことから浣腸が必要で、かつ胃瘻(いろう)と言って口からでなく直接胃にチューブを入れて栄養を取る処置をしています。
Zさんとこのようなやり取りを行いました。
Zさん:「うちの子は医療ケアの必要な重度の障害児です。しかし重症心身障害児の定義は「肢体不自由を伴う知的障害児」となっています。そうするとうちの子は知的障害もあって身体障害もあって医療ケアも必要なのに、歩けるので、重症心身障害児ではなくなります。そうすると、Tが歩けるようになってから、重症心身障害児施設にレスパイト(介護者の休息)で預けることができなくなってしまいました。知的障害児や肢体不自由児の施設では、医療ケアがあるから入れないと言われます。」
駒崎:「在宅ヘルパーはどうでしょうか?」
Zさん:「高齢者のヘルパーはかなりいるのですが、障害児を看れる訪問看護・ヘルパー事業者は圧倒的に少ないのです。だから時々しか使えません。私は新幹線通勤をして静岡県で働いているので、日中は妻がずっと看ていますが、夜も呼吸が止まっていないか夫婦で頻繁に確認しています。すると、二人とも睡眠時間が十分取れません。そうしたこともあって、妻は病気になってしまい、手術を行いました。妻が病気でも預かってくれる仕組みはほとんどありませんでした。
妻は幼い頃から知っている相手なのですが、幼い頃から見て、知っているその妻が、みるみるやつれていくことに、私は耐えられません。」
駒崎:「職場は理解してくれていますか?」
Zさん:「職場は融通を利かせてくれていて、とても感謝しています。一方で、妻がSOSを発したらすぐに飛んで帰りますので、やはり限られた働き方にはなります。障害児の親同士で『おやじの会』があるのですが、その場でも話されているのが、雇用の不安定さです。働き方にハンデがあるので、場合によっては肩たたきの対象になってしまいますし、雇用の流動化が進められたら、真っ先に切られるのではないかと思っています。障害者雇用義務率は制度としてありますが、できれば障害者の保護者の目標雇用率のようなものも、制度としてつくってもらえると不安に怯えず働けると思います。」
障害児は保育所での受け入れもあまり進んでおらず、障害児の親の常勤雇用率は、健常児家庭の7分の1です。更に障害児政策自体への予算投入量は非常に少なく、訪問看護等のサービスインフラも脆弱です。
こうした現場の声を聞いて、子ども・子育て会議委員の僕は、以下のような政策提言を行わねばならない、と強く思いました。
・地域型給付の中に位置づけられた「居宅訪問型」という類型(中身はほとんど決まっていない)を、障害児を在宅でマンツーマン保育できる制度にする
・障害児を就学前に限らず、18歳未満まで対象とする
・更に、医療ケアが必要な子どもの場合は、看護師等もセットで行けるだけの加算を提案する
・居宅訪問型とは別に、小規模認可保育所において障害児受け入れが進むよう加配(人の増員)を制度化する。また、一時預かりにおいても障害児の受け入れが進むよう、障害児加算や医療ケア加算を提案する
また、下記のトピックは直接子ども・子育て会議の範囲外ですが、継続的に世の中に訴えていかねばと思いました。
・障害児者の法定雇用義務だけでなく、障害児者の親の雇用促進に関する法律の制定
・重身児の約1/5程いると言われる「動く重症心身障害児」が、既存重身施設や障害児施設等でサービスの谷間に落ちてしまっている問題とその解決
Zさんのように懸命に障害児の子育てを行う家庭が、笑っていられるような制度設計に、身を賭して尽力していきたいと思います。
(2013年8月13日の「駒崎弘樹公式ブログ」より転載しました)