日本企業のグローバル化は待ったなし

最早日本国内には成長の果実は実らない。従って、日本企業はこの果実を求め海外に打って出るしか選択肢はない。しかしながら、「終身雇用」、「年功序列」を前提とする日本型企業文化にどっぷりと浸かり、「正社員」という身分に安住して来た従来型社員が海外で物の役に立つとはとても思えない。
|

安倍内閣は成長戦略の具体的な提案の一つとして、グローバル人材育成を掲げた。これは一体何を意味するのであろうか? 小学生でも知っている事であるが、日本は資源に恵まれない国である。強いて言えば日本人そのものが唯一無二の日本固有の資源という事になる。

従って、日本が今世紀も繁栄の継続を望むのであれば人材育成により日本人の労働生産性を上げるしかないという結論に至る。又、少子高齢化により市場が縮小を続ける日本に成長の果実を期待する事は余り意味が無い。高い成長はフロンティアでのみ可能であり、日本人はこれを追いかけて行く宿命にある。

折に触れ、参照され苦笑を誘う「今後の成長が期待出来る唯一の大陸アフリカには100万人の中国人が働いているが、日本人はたった7千人」という状況も何時までも放置して良い筈がない。

とはいえ、何の準備や訓練もなく若者がいきなり海外に出ても好ましい結果は期待出来ない。下手をすれば野垂れ死にをしてしまう。これが、成長戦略の一つとしてグローバル人材育成を位置づける事に賛同する理由である。

しかしながら、グローバル人材育成が厄介な副作用を伴う「諸刃の剣」である事も今一方の事実である。

グローバルに活躍可能な日本の若者が、果たして「終身雇用」、「年功序列」の後遺症の結果、大した仕事もせずに高給を貪る中高年社員が滞留する職場の雰囲気に我慢出来るだろうか? 

「職場の空気を読め!」の如き曖昧で無意味な指示に従えるだろうか?

30才で年収一千万円という具体的な目標を持っているグローバル人材に企業は具体的なキャリアープランを提示出来るだろうか?

グローバル人材に育った日本の若者が旧態依然とした日本企業に失望すれば、結果、グローバル企業に職を求める事になる。法人税率の低いアイルランドに本社を置く企業に勤め、ニューヨーク、ロンドン、シンガポールの支社に勤務し、大きな戦力と成り日本企業を駆逐して行くという展開も充分予想可能だ。

その結果、日本としては、法人税、所得税、住民税といった税収が全く期待出来ないという事になってしまう。更に悪い事に彼らの活躍によって多くの日本企業が破綻に追い込まれる展開となる。企業破綻の結果、失業者が多数発生する。再就職は難しく、その多くは生活保護受給者に転落するに違いない。

極論すれば、グローバル人材が日本から流出した結果、日本には四種類の人間しか残らなくなる。第一は上に述べた失業者、生活保護受給者。第二は高齢の年金受給者。第三は公務員。最後は政治家である。共通しているのは「税」に寄生する人種という事である。「抜け殻日本」の誕生であり、財政破綻は現実のものとなる。

それでは、日本はどうやってこの様な悲惨な状況を回避すれば良いのであろうか? 日本企業がグローバル化を果たし、グローバル人材の受け皿になる事。そして、「交易」であれ、「投資」であれ、海外の事業でしっかりと収益を上げ、その一部を配当という形で日本国内に還流する事に尽きるのではないか?

とはいえ、長年日本的経営にどっぷり浸かってここまで来てしまった日本企業がグローバル企業に変身する事は容易ではない。又、解雇規制緩和による雇用の流動化等民間企業のレイヤーでは対処出来ない部分もあるのは事実である。ここは先ず、「出来る事」、「どうしてもやらねばならない事」を抽出し、一歩を踏み出すべきであろう。

私は1995年から2000年までの5年間をBBCの子会社(現BBC World Japan)に勤務した経験(最終的には取締役営業本部長兼技術部長)がある。ロンドンのBBC World本体との折衝を通じ、折に触れ感心したのは、人の採用、評価、昇給・昇進が極めて分り易く且つシステマチックに実行されている事であった。

「人種」、「性別」、「年齢」に意味はなく、過去の職務履歴と現在の能力により従業員は格付けされている様に見受けられた。そして、職務内容(Job Description)は本人に取って明瞭であるだけでなく組織全体に共有されている(同一職種同一賃金)。職務内容をきちんと実行出来たのか? 更には、何かこれに付加価値を付け組織に貢献出来たのか? 等が評価対象となり査定され「昇給」、「昇進」の判断材料になっていたと記憶している。

これに加え、「BBCでの勤務実績」、「BBCでの役職」、「BBCでの年俸」は分かり易い評価基準であり、何年かのBBC勤務を経てBBCでの年俸を大きく上回る経済条件で民放に引き抜かれたケースも多数見聞きした。要は従業員が企業に勤務する事で人的価値を向上さす事が可能なシステムになっている。当然、かかる実例は日本企業がグローバル化を目指すのであれば参考にすべきであろう。

繰り返しとなるが最早日本国内には成長の果実は実らない。従って、日本企業はこの果実を求め海外に打って出るしか選択肢はない。しかしながら、「終身雇用」、「年功序列」を前提とする日本型企業文化にどっぷりと浸かり、「正社員」という身分に安住して来た従来型社員が海外で物の役に立つとはとても思えない。最早その大多数は「用済み社員」としてしか評価されておらず、早晩淘汰されるべき運命にある。好むと好まざるとに拘わらず、企業はそのシステムをグローバル化した上で、グローバル人材を雇用し活用せねばならない理由がここにある。