タイ:ロヒンギャ民族の「ボート・チルドレン」を守れ

(バンコク)タイは、ビルマから来たロヒンギャ民族の子どもとその家族を、安全で出入り自由な家族向けシェルターに送り届けるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。今回の調査で、タイ当局による人権侵害の実態が明らかになった。
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PA REIN, MYANMAR - OCTOBER 29: A Rakhine Lady with her son sit in front of their house in Rakhine quarter of Pa Rein village in Myauk Oo township on October 29, 2012 in Rakhine state, Myanmar. Over twenty thousand people have been left displaced following violent clashes which has so far claimed a reported 80 lives. Clashes between Rakhine people, who make up the majority of the state's population, and Muslims from the state of Rohingya began in June. (Photo by Kaung Htet /Getty Images)
Kaung Htet via Getty Images

ロヒンギャ民族の子どもたちは、ビルマでの暴力から逃れ、大変な移動による精神的なショックを経験している。身の安全が確保された環境が必要だ。しかしタイ政府は自国の海岸に到着した大勢のロヒンギャ民族を拘禁し、人身売買や更なる人権侵害の危険にさらしている。

アリス・ファーマー、子どもの権利調査員

(バンコク)タイは、ビルマから来たロヒンギャ民族の子どもとその家族を、安全で出入り自由な家族向けシェルターに送り届けるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。今回の調査で、タイ当局による人権侵害の実態が明らかになった。当局は、ロヒンギャ民族の人身売買の現場である南タイのキャンプについて対策を講じ、人身売買に加担する当局者を処罰すべきだ。

天候が良くなるにつれ、タイに越境するロヒンギャ民族の数が増えている。ロヒンギャ民族はビルマで実質的に国籍を認められていないムスリム系少数民族で、国境越えは今にも壊れそうな船で行われることが多い。この中には、多数の子どもが含まれており、保護・養育者のいない子どもも多い。

「ロヒンギャ民族の子どもたちは、ビルマでの暴力から逃れ、大変な移動による精神的なショックを経験している。身の安全が確保された環境が必要だ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利調査員アリス・ファーマーは述べた。「しかしタイ政府は自国の海岸に到着した大勢のロヒンギャ民族を拘禁し、人身売買や更なる人権侵害の危険にさらしている。」

多数のロヒンギャ民族が、南タイに最低3か所存在する「人身売買収容所」を経由している。身代金目的で拘束されたり、労働力として漁船や農園に売られたりしている人もいると、ロイター等のメディアが2013年12月に報じた。一連の報道によれば、タイ入管当局者は人身売買業者と共謀し、タイで拘束されたロヒンギャ民族の身柄を業者側に引き渡している。ある警察高官は取材に対し、こうした収容所の存在を認め、非公式な方針があるとも告げた。この通称「2番目の選択肢(option two)」とは、密入国業者のネットワークを使い、難民申請者を含めたロヒンギャ民族の移住者をタイから送還することだ。国連は、タイ入管当局者がビルマからの難民を人身売買業者のネットワークに乗せているとの報道について、調査を求めた。

タイは難民法を制定しておらず、ロヒンギャ民族が難民申請することも、難民として庇護を求めることも認めていない。

2013年にタイが入国を認めたロヒンギャ民族2,055人は「不法移民」とされ、国際法上の難民としての保護を受けていない。更に政府は家族分離を行っている。成人男性と一部の少年(保護・養育者のいない子どもを含む)を入管収容所に拘禁する一方、女性と小さな子どもを中心に、社会開発・人間安全保障省が運営する、自由な出入りのできないシェルターに拘禁している。

今回のヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によれば、社会開発・人間安全保障省のシェルターに収容されたロヒンギャ民族には、正規の移住者となって拘禁状態を脱する法的な選択肢が存在しない。期限の定めがない長期拘禁は、無制限拘禁の禁止という国際法の規定に反する。また、子どもは移住者としてどのような状況にあるのかにかかわらず、決して拘禁されてはならない。

ここ数か月で、ロヒンギャ民族の大半が入管収容所や自由な出入りのできないシェルターから脱走し、密入国業者や人身売買業者の関与のもと、南タイから更に南下している。ロヒンギャ民族側は取材に対し、政府当局者は人身売買業者と被拘禁者との接触を支援するなど、脱走に一定の役割を果たしていると述べた。人身売買の対象者には、子ども、特に年長の少年が含まれていると伝えられる。2013年10月以来、ロヒンギャ民族の一部は「自発的に」送還された。タイ政府は適切な通訳をつけずに、ほとんどの被拘禁者が理解できないタイ語で書かれた同意書を渡した上で送還している。この自発的送還に同意したロヒンギャ民族のなかには、実際にビルマには戻らず、人身売買業者に再び売られた人もいると、報道は伝えている。

危険にさらされる子どもたち

タイの入管収容所は不衛生で、2013年にはかなり過密な状態だった。2013年には8人が拘禁中に死亡した。酷暑のなか医療を受けられず、健康状態が悪化したことが原因の模様だ。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によれば、タイは多くの事例で、保護・養育者のいない未成年の移住者について十分なスクリーニング手続を行っていない。親族関係のない成人と一緒に入管収容所に残された少年も存在する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2013年半ばに、タイの入管収容所とシェルターの一部の状況を調査した。社会開発・人間安全保障省が管理する、自由に出入りできないシェルターの状況は、入管収容所よりは良かったが、それでも多くの問題が存在した。子どもは男性親族から分離されており、面会の機会はゼロかそれに近い。一部の事例では、家族の居場所を知らされていなかった。シェルターの子どもたちは教育をほとんど、あるいはまったく受けていない。

タイ政府は南タイの収容所を至急閉鎖し、収容所からの人身売買への共謀が判明した政府関係者を訴追すべきだ。タイ政府には国際法によって、難民申請するロヒンギャ民族を、申請を公正に審査するより前にビルマに送還してはならない義務がある。ビルマ政府が無国籍者であるロヒンギャ民族の送還受け入れを拒むのなら、タイ政府は送還不可能な人々を入管法違反という理由だけで拘禁する合法的な理由がなくなるため、これらの人びとを釈放すべきである。

拘禁されている個人に対し、タイ政府は保護・養育者のいない未成年者の移民のスクリーニング手続を直ちに改善し、こうした子どもが関係のない成人と一緒に拘禁されないことを保証するべきだ。また庇護を求めるロヒンギャ民族の子どもとその家族を、出入りが自由なシェルターで受け入れ、移動の自由を保障し、子どもには教育を受ける機会を与えるべきだ。

「タイ政府はロヒンギャ民族の子どもを拘禁し、人身売買の被害に遭いやすい状況に置いている」と、前出のファーマー調査員は指摘する。「当局はロヒンギャ民族の子どもを家族とともに出入り自由なシェルターで受け入れ、通学の機会を与えるための解決策を見つけることが不可欠だ。」

【関連リンク】

(2014年1月7日の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)