内定率上昇・雇用者増の一方、30代は正規雇用者が減少。就職期が生む雇用環境の格差。
アベノミクスによる企業収益の拡大で雇用環境が改善している。厳しい就職活動を強いられてきた学生の状況も緩和され、今春卒業予定の学生の就職内定率はリーマン・ショック前の水準に戻りつつある。
与党は、昨年末の衆院選で失業率の低下や雇用者増を示し、経済政策の成果として雇用環境の改善を強調した。しかし、野党が指摘したように、アベノミクスは大企業と中小・零細企業、正規雇用者と非正規雇用者といった格差も生んでいる。
格差は企業や雇用形態だけでなく、実は、年代にもあらわれている。雇用者の状況を年代別に見ると実は30歳前後の年代ではアベノミクスで非常に厳しい状況にあることが分かる。
第二次安倍政権発足直後と直近の雇用者数の増減を見ると、雇用者は100万人以上増えているが、増えているのは非正規雇用者であり、むしろ正規雇用者は減っている(図1)。
年代別に見ると、25~34歳以外では非正規雇用者の増加により雇用者全体は増加、あるいは横ばいだが、25~34歳では非正規雇用者の増加以上に正規雇用者が減少し、雇用者全体が減少している。
なお、雇用者全体の増加数が比較的大きな65歳以上のシニア世代と45~55歳のバブル世代(就職活動期がバブル期頃の世代)では、非正規雇用者だけでなく正規雇用者も増えている。
さらに性別に見ると、特に30代を中心とした男性の状況が厳しいことが分かる。そもそも増えた雇用者のうち75%は女性で、非正規雇用者の増加によるものだ(図2)。
男性では25~34歳だけでなく35~44歳でも非正規雇用者の増加以上に正規雇用者が減少し、雇用者全体が減少している。これらの年代では女性の正規雇用者も減っているが、女性では非正規雇用者の増加数が上回ることで雇用者全体は増えている。
当該年代では出産や子育てを機に離職する女性が多く、女性ではもともと非正規雇用者が多い。特に35~44歳では景気低迷(バブル崩壊)以前から非正規雇用者が半数程度を占めている。
なお、性別に見ても全体同様、雇用者全体の増加数はシニア・バブル世代で大きく、正規・非正規雇用者ともに増加している。
また、シニアとバブルの中間世代(55~64歳)では大きな変化はなく、15~24歳では非正規雇用者によるものだが雇用者は増加している傾向も同様だ。
足元、就職内定率の上昇や雇用者数の増加により、20歳前後の雇用環境は改善傾向にある。また、日本経済が好調だった頃に就職したバブル・シニア世代を中心に、40代後半以上の年代では概ね雇用環境は改善している。
つまり、アベノミクスによる雇用環境の改善において、30代を中心とした氷河期世代とそれ以外とで格差が生じている様子が窺える。
この背景には、氷河期世代は必ずしも経営が安定的でない企業へ就職した者も多く、それらの企業にはアベノミクス効果が未だ波及していない、あるいはむしろアベノミクスにより生じた企業間格差の弱者にあることなどが考えられる。
業績の良い大企業ほど新卒一括採用・終身雇用制を保持する日本の企業社会では、景気回復の中でも就職期の影響が色濃く残る。
30代は家族形成期であり、雇用環境の厳しさは結婚・出産に大きな影響を与える。男性の既婚率は年収に比例し、20~30代の非正規雇用男性の既婚率は5%に満たない。
次世代を育む世代が厳しい状況にあることは、日本の将来にとっても非常に厳しい状況だ。
翻って政府は人口減少局面において、若年層に対して少子化の進む都市部への一極集中を防ぎ、雇用が確保され育児環境が整った地方拠点都市への居住を促す指針を示している。
来年度予算案でも地方創生関連で約3兆円を計上し、雇用創出や結婚・出産・育児支援などをあげている。また、雇用関連予算では若年層の正社員採用や育成に積極的な企業の認定制度なども計上している。
若年層と言うと曖昧だが、現在の雇用状況を見ると、最も厳しいのは20歳前後を除く氷河期世代だ。環境が整えば子育て真っ盛りであるはずの世代であり、雇用政策の優先対象としても良いのではないだろうか。
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(2015年2月10日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 准主任研究員