1990年代、ピチカート・ファイブやフリッパーズ・ギターといった渋谷系と呼ばれる音楽が流行したのはご存知だと思います。
あの渋谷系のことについての、本やドキュメンタリーフィルムを誰か作ればいいのにとよく思います。
渋谷系っていったい何だったのでしょう。
本物のフランス人が見て、僕らみたいなついこの間までチョンマゲゆってた細い目がつり上がったアジア人が、ベレー帽かぶってボーダーのシャツ着てダバダバ歌ってるのって爆笑ものだと思います。
でも、僕らにとって、渋谷系は最高にクールでしたよね。
たぶん、渋谷系って世界の音楽やファッションの歴史の中ですごく特殊な存在なはずです。
いつも思うのは渋谷系ってセックスや汗や死やドラッグの匂いがしないんです。
渋谷系が描く世界の中では、雪が僕らのコートの肩に降っても、路上で凍死するホームレスはいないし、彼女と初めてのキスをしても、この後おもいきって胸も触っちゃおうかな、なんて思わないんです。
パリってそれなりに猥雑で野卑でセクシーな街だと思うのですが、渋谷系が描くとみんながカラフルな傘を回してたり、可愛い女の子が風船を持って歩いてたりするんです。
リオ・デ・ジャネイロもそうです。リオはすごくセックスや血の気配がする街なのですが、渋谷系がリオを描くと太陽が僕らを永遠に照らし、口笛がジョビンのハーモニーによりそいます。
こんな異常なまでのファンタジーの世界が、東京の一時代を支配し、たくさんのフォロワーを生んだってやっぱり相当変わった現象だったと思うんです。
レゲエでもパンクでもタンゴでもジャズでも何でも良いのですが、世界中の若者の音楽のムーブメントでセックスやドラッグや死の匂いが全くしないのって皆無だったと思います。もちろんひとつひとつの作品やアーティストでは存在したと思うのですが、そのムーブメント全部がってちょっとなかったと思います。
この渋谷系って日本だけに生まれた突然変異の生き物なのか。
それともこれから東アジアを中心に受け継がれて拡大発展していくものなのか。
そして渋谷系の憧れの対象だったヨーロッパの当事者達はどう感じるのか。
今後、結構研究対象になるような気がします。そしてそんな時の参考資料になるような「渋谷系本」、「渋谷系ドキュメンタリーフィルム」を今のうちに、関係者が覚えている間に取材して作ったら面白いのになあと思います。