円安・株高によって日本経済の見通しに対する明るいムードが出てきているが、日本財政の現状は厳しい。日経ビジネスONLINE掲載の「2%インフレ実現でも消費税率32%」でも説明した通り、もし日本経済がデフレを脱却し、2%インフレを実現した場合でも、段階的に増税を消費税で行うケースでは、Braun and Joines(2011)の試算が明らかにするように、財政を安定化させるピーク時の消費税率は32%にも達する可能性が高い。
これは、2014年・15年の5%消費増税を実施しても、引き続き、段階的な増税や社会保障費を中心とする歳出削減が必要であることを示唆する。痛みを伴う改革を断行しなければならないが、断行には「時間」と「象徴」が必要である。
このうち、前者の「時間」については、近々7月の参院選が終了すれば、次の参院選は2016年7月である。また、直近の衆院選は昨年12月であったが、衆議院議員の任期は4年である。このため、最も遅いケースで、次の衆院選は2016年12月である。したがって、もし近々7月の参院選で与党が大勝すれば、日本政治には「約3年」という「選挙無し」の期間が訪れる。その点で、支持率の高い現在の安倍政権は、痛みを伴う財政・社会保障抜本改革を進める好機を得る。
だが、それでも痛みを伴う改革は容易ではないだろう。そこで重要なのは、痛みを伴う改革を推進する「象徴」である。2014年・15年の5%増税の必要性については、国民の多くに理解が浸透していると思われる。しかし、痛みを伴う追加的改革については、そこまでの理解は広がっていないはずである。このため、今回の5%増税のみでは、財政安定化は不可能であり、痛みを伴う追加的改革が不可欠であることを示す何らかの強い政治的メッセージが必要である。
この点で注目されるのが、2009年の政権交代前、2007年当時の安倍政権がまとめた「国有財産の有効活用に関する報告書」である。厳密には、この報告書は、財務省の国有財産の有効活用に関する検討・フォローアップ有識者会議がまとめたものである。国有財産の有効活用を図る観点から、
(1)霞が関に立地する財務省庁舎の高層集約化や、
(2)大手町に立地する気象庁・東京国税局の移転
などを進めることで、当該庁舎・宿舎跡地などの資産売却で、2015年度末までに約1.6兆円の収入を見込むとしていた(注:移転等のイメージはPDFファイル32ページの資料4を参照)。この約1.6兆円の収入は単発であり、約40兆円にも及ぶ直近の財政赤字や対GDP比で200%にも達する政府債務と比較する場合、微々たる改善効果しかもたないことは明らかであるが、国の予算を管理する財務省庁舎の高層集約化の推進などは、その打ち出し方によっては、「財政の限界が近づいている」という強い政治的メッセージをもつ可能性が高い。
「国有財産の有効活用に関する報告書」が公表された時と同様、現在の政治を担うのは安倍政権である。同報告書で提言された、財務省庁舎の高層集約化や、大手町に位置する気象庁・東京国税局の移転などの動きを加速させ、それを起爆剤に痛みを伴う財政・社会保障抜本改革を推進することが期待される。