中央アフリカ共和国:宗派間対立による虐殺が激化

中央アフリカ共和国北部では、ムスリム武装勢力により犯された多くの人権侵害の報復として、キリスト教徒民兵がムスリム住民の虐殺を行っている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。
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© 2013 Marcus Bleasdale/VII for Human Rights Watch

中央アフリカ共和国で起きている残虐な殺害事件の結果、殺人と報復のサイクルが生じ、停止不能な状態に陥っている。国連安全保障理事会は、この悲惨な悪循環を止めるよう直ちに行動する必要がある。

(ピーター・ブッカー、緊急対応部門ディレクターで本報告書執筆者)

(ナイロビ)-中央アフリカ共和国北部では、ムスリム武装勢力により犯された多くの人権侵害の報復として、キリスト教徒民兵がムスリム住民の虐殺を行っている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。関係国は、アフリカ連合の平和維持部隊を直ちに増派するとともに、フランス政府が行っている民間人保護措置を支援すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

本報告書『やつらは殺しに来た:中央アフリカ共和国の深刻化する虐殺』(全34頁)は、ウハム州での数週間の現地調査に基づき、2013年9月以降のキリスト教徒民兵組織「アンチバラカ」による暴力行為の増加を記録した。アンチバラカは、ムスリム住民数百人を殺害し、民家に火をつけ、家畜を略奪している。3月に政権を奪ったムスリム主体の反政府武装勢力「セレカ」はいったん解散したが、「元セレカ」と呼ばれる勢力が、司令官の黙認のもとアンチバラカ側に反撃している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ緊急対応部門ディレクターで、本報告書執筆者のピーター・ブッカーは「中央アフリカ共和国で起きている残虐な殺害事件の結果、殺人と報復のサイクルが生じ、停止不能な状態に陥っている」と指摘。「国連安全保障理事会は、この悲惨な悪循環を止めるよう直ちに行動する必要がある。」

アンチバラカは地元の自警団と前政権派の兵士から構成され、9月にはウハム州の州都ボッサンゴアで、ムスリム住民と元セレカの駐屯地に一斉攻撃を行った。アンチバラカは、村落を守る「自警団」を称するが、その行動や主張は多くの場合、ムスリムに激しく敵対的だ。

アンチバラカによる攻撃の多くは、目を覆いたくなるような残虐なものだ。あるムスリム遊牧民の女性はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、アンチバラカの兵士が自分の息子(3)のほか、少年2人(10歳と14歳)、親戚の男性1人ののどを切り裂くところを目撃したと述べた。4人とも遊牧民キャンプに住んでいたムスリム男性だ。ある男性は、アンチバラカの攻撃から逃れたときのことを涙ながらに語った。捕らえられた妻2人と子ども10人、孫1人のほか、ムスリム住民たちがのどを切り裂かれる場面を、身を隠した場所からただ見ているしかなかったのだ。

あるムスリム女性はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、午前5時頃に屋外で料理をしていると、アンチバラカに自宅を襲撃されたと話す。「兵士たちは大型ナイフで夫の脇と背中を切りつけ、のどを切り裂いたんです。夫を殺した兵士たちは家に放火し、夫と息子の遺体を投げ込んだんです。兵士は息子(13)に家から出てくるように命じ、うつぶせにさせてからナイフで二回切りつけて殺しました。」

アンチバラカの攻撃により、ウハム州の元セレカはボッサンゴアに撤退したが、そこでキリスト教住民に報復を行い、多数を殺害し、家に放火した。畑で農作業中のキリスト教住民も殺害している。

「元セレカ」の報復攻撃は、ボッサンゴアの司令官の了解に基づくものとみられる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。11月18日、ボッサンゴア副司令官サレフ・ザバディ大佐は、上官と下士官十数名同席のもと、アンチバラカの民兵と誤認された農民7人を溺れさせるよう命じた。7人は縛られた状態でウハム川に投げ込まれた。生還したのは3人だけだった。

深刻な人権侵害が、北部や首都バンギでも発生していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。12月5日、アンチバラカはボッサンゴア市ボロ区を一時制圧した際、少なくともムスリムの民間人11人を射殺、またはのどを切り裂いて殺害した。アンチバラカのバンギへの攻撃により、ムスリムとキリスト教徒が400 ~500人死亡した。しかしこうした最近の殺害事件は、セレカが3月に権力を奪取してから起きている深刻な人権侵害のごく一部に過ぎない。

中央アフリカに派遣されたフランスの平和維持部隊はバンギとボッサンゴアで作戦行動を展開し、両軍の武装解除など、殺害停止に向けて取り組んでいる。

北部で最近起きた暴力事件により人道危機が生じている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。両軍はウハム州で大々的に民家を焼き払っている。キリスト教徒住民約4万人が土地を追われ、ボッサンゴアのカトリック教会に避難している。一方、街の反対側にはムスリム住民4,000人が残っている。人道援助団体職員筋によれば、援助要員自体が攻撃対象となっているため、援助実施は難しい。

国連安保理は、国連憲章第7章に基づき、国連平和維持ミッションをただちに設置すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。これには強力なマンデートとともに、民間人保護と人権促進を行い、また人道援助物資配布可能な環境を作る手段が与えられるべきだ。

前出のブッカー緊急対応部門ディレクターは「中央アフリカ共和国でのPKO活動をすぐ支持することが必要だ。PKOは、緊張状態を沈静化させ、住民を人権侵害から保護し、深刻なリスクを抱える人びとに人道援助が届くためにきわめて重要だ」と指摘。「このままでは、さらに大規模な暴力事件が発生する可能性がきわめて高い。」