ヨットのことはよくわからないのですが、今回のブラインド・セーリングは、ちょっと危なっかしい試みではないかと感じていたら、その直感があたってしまいました。岩本光弘さん、辛坊治郎さんともに無事救助されよかったですが、ちょっと解せなかったのが、16日に小名浜港を出港し、はや19日の夜に時化に襲われ、21日朝には浸水がとまらず救助を要請したということです。ヨットに関しては知識がありませんが、それはヨットそのものに問題があったことを疑わせます。
それを裏付けるように、今は閉鎖されていてキャッシュでしか残っていない辛坊さんのブログに大阪から福島までの回航で問題が見つかっていたことが書かれています。
それにしても今回の大阪〜福島回航は、とても実りの多いものでした。まさに「荒天」に恵まれたために、完璧に整備したと皆が思い込んでいたエオラス号にいくつかの問題点が見つかったんです。まず一つは、船の舳先に突き出ている大きな棒、これをバウスプリットって言うんですが、この根元から少量の漏水が発見されました。エオラス号には既に太平洋横断用の資材をすべて積み込んでいたために相当喫水が下がっていて、台風の余波のうねりに舳先から突っ込んで派手に海水をすくい上げる局面が何回かあったんですが、この時バウスプリットの止水に不具合があって、水が漏れることが分かったんです。
試験の航行ですでに浸水の問題はでていたのです。
当初、この2日間で舳先をすべて解体して、充填剤を入れなおすことも計画されたんですが、様々なリスクを計算した結果、内側からの充填で対処することになりました。余程荒れた海でない限り漏水しませんし、エオラスの設備で簡単に排水できる程度のものですから、これで、まず大丈夫でしょう。
ほんとうに対処として正しかったのかという点です。
浸水だけでなく、「オートパイロットという舵を電気的に操作するシステムの軸受けにガタつき」が見つかったというのです。その修理が適切だったのかはよくわかりませんが、辛坊さんはこう書かれています。
なんて書くと、なんだかとても深刻な話みたいですが、実はそうでもないんです。楽観はしてませんが、そんなに悲観もしていません。
どうだったのでしょうか。頭の片隅に24時間テレビの番組があったために判断を誤ったのではないかという疑問も湧いてきます。
1994年に史上最年少ヨット単独無寄港世界一周を達成し、また単独世界一周を三度経験している海洋冒険家白石康次郎さんのお話を航行中の映像をまじえて二度聞かせていただいたことがあるのですが、ヨットで航行していると、さまざまなトラブルが起こるもので、そのヨットそのものを熟知していて、それを修理できなければ遠洋への航海はできないという白石さんの言葉が記憶にあったからです。
白石康次郎さんは、水産高校を卒業してヨットづくりの師匠多田雄幸さんに弟子入りをされます。師匠の多田雄幸さんは、史上初の世界一周単独ヨットレースに、手作りのヨットで出場し、数々のトラブルがあっても、自力で修理しながら走りつづけ、見事優勝を果たした方です。
白石さんの航行中の映像のなかには、嵐のなかで、ヨットが転覆し、ひっくり返ってまた元に戻るといったシーンもありました。いわゆるノックダウン(横転)でしょうか。座礁したり、マストが折れてしまうこともあるそうです。
冒険家の白石さんと比べると、甘かったのではないか、無謀だったのではないかと感じてしまうのです。無謀でも、運が良ければ成功することもあるのでしょうが、無謀にリスクにチャレンジして失敗するとそのつけは大きく、自己責任で対処できるレベルを超えてしまうことがあることを今回の遭難は物語っているように思います。
辛坊さんが、白石康次郎さんも含めたヨットの専門家の人たちとお会いになって、なにが問題だったのかを明らかにされていくことが、きっとヨットへの理解を生み出し、ブラインド・セーリングの普及や発展への貢献もできるのではないかと感じます。またきっと辛坊さんの社会に対する見方が変わった出来事になったのではないかと感じます。一皮むけた辛坊さんに期待したいと思います。
それにしても海上自衛隊の能力の高さを印象づけた救出劇でした。
(※この記事は、2013年6月23日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載しました)