BBCが報じる所では、アメリカ国務省はアルカイダによるテロのリスクを理由に、北アフリカ、中近東地域で14の大使館を含む24の在外公館の一時閉鎖、並びに、アメリカ人渡航者に対し注意勧告を行ったとの話である。最近、ニューヨークの全く普通の主婦がネットで圧力鍋を調べたら、直ぐに警察が捜査にやって来た話が随分と話題になったが、アメリカの当局はテロに神経を尖らせている。アルカイダの活動が捜査の網に引っ掛かったに違いない。
この報に接し、私同様、昨年9月のリビア、ベンガジのアメリカ大使館襲撃事件や、多数の日本人犠牲者を出した、アルジェリア人質事件を思い起こされる読者の方も多いと思う。
日本人は熱しやすく冷め易いと良く言われる。こういう悲劇の記憶も既に実はかなり風化していて、過去のものになりつつあるのかも知れない。問題は日本人が北アフリカや中近東の問題を忘れたからといって、問題が解決する事は決してないという事実である。現実は寧ろ日に日に悪くなっている。訝しいのは、アメリカの断固とした対応に比べ日本政府のスタンスが全くといって良い程見えて来ない事である。BBCの記事を読んだ後で幾つかの国内メディアを閲覧したが、このテーマを取り扱った記事を見つける事は出来なかった。
日本人は安全なのか?
北アフリカ、中近東地域には商社、メーカーなどの社員が現地に駐在すると共に、その家族が一緒に暮らしている。アメリカ国務省の説明は、現地公共交通や旅行者用設備を対象としたテロという事であるから、当然日本人も運が悪ければ犠牲者になってしまう。従って、日本政府は少なくとも現地在住の日本人に対し注意勧告位はすべきではないだろうか? それから、勿論訪問先にもよるが、この時期の出張も如何なものかと思う。何れにしても、日本政府の手持ちの情報など極めて限定的である可能性が高い。各企業は独自に情報を収集し対応を検討すべきである。アルジェリア人質事件から数か月で再び犠牲者を出す様な事があれば、これはもう企業の怠慢、人災としか言い様がない。
中東、湾岸諸国に石油の8割を依存する日本
問題の根幹は何処まで行っても、経済の大動脈ともいえる石油をこの不安定な中東、湾岸諸国に依存し続ける日本の現状である。中東に一旦事あれば日本経済がショック死する不安を日本は抱え続けている。ついては、今回のアメリカ国務省の報道をきっかけに、日本政府はエネルギーソースの分散に大胆に舵を切ってはどうだろうか?
即効性が期待出来るのは原発再稼働
国内の原発は関西電力大飯原発3,4号機以外全て停止している。燃料となるウランの備蓄も充分であり、原発が再稼働出来れば中東依存軽減効果は極めて大きい。「新規制施行前から稼働中のプラント」として、事業者が「新規制基準をどの程度満たしているのか把握するための確認作業を、新規制基準の内容が固まった段階で速やかに開始することとし」(原子力規制委員会年次報告)、問題がないと判断されたことから特例的に運転継続が認められている、大飯原発3、4号機を参考例として再稼働に向けた手続きを急ぐべきである。
同時に、財務省貿易統計によれば1~6月期の貿易収支は4兆8438億円の巨額赤字を計上している。更に、この赤字額は前年同期(2兆9168億円)を大幅に上回り、日本が貿易赤字拡大のトレンドに陥ってしまった事を示している。基本的には日本企業が海外投資を更に活発に行い、配当金収入を増やす事で経常収支段階での黒字化を目指すしか手段はないと思う。しかしながら、原発を停止さす事で、一日当たり100億円の化石燃料を無駄に燃やしている現状の早期是正は必要と考える。
望まれるオイルシェールへの早期転換
アメリカのオイルシェールブームは日本に取って朗報である。アメリカがエネルギー輸出国となり、財政と貿易収支を改善する。一方、日本はエネルギーソースを中東という地政学的リスクの高い地域からアメリカに転換する事で、将来のリスクを大きく軽減する。アメリカからオイルシェールを大量に輸入する一方、自動車や日本が得意とする精密機器などの対米輸出に注力するというのは理想的な展開と思う。今後、中国経済がシャドーバンクや地方政府の不良債権問題などで視界不良になると思われるので、日本としては通商のこれまで以上の対米シフトが必要となる。
米国産シェールガスについては、中部電力、大阪ガス向け事業のほか、住友商事と東京ガスがメリーランド州で、三菱商事と三井物産がルイジアナ州で、それぞれLNG基地の建設と対日輸出計画を進めている。現在、政府、自民党での投資減税検討が佳境と聞いているが、オイルシェール関連には最優先で取り組むべきと思う。
再生可能エネルギーへの過度の期待は禁物
3.11直後に原発停止を表明した事や、従来から太陽光発電や風力発電に注力している実績よりドイツを日本が追いかけるべきモデルと誤解している日本人が驚く程多い。しかしながら、ドイツの再生可能エネルギーへの取り組みは余り巧く行っていない。もっと解り易くいえば失敗している。ドイツで最も権威ある雑誌はSpiegelであるが、この記事で再生可能得エネルギーは使い物にならないとまで酷評している。太陽光発電が何故駄目なのか?この記事が解り易く説明してくれている。端的に言えば、日本でも同様だが固定価格での買い取りが実現されねば事業化が出来ず、結果、従来の発電方法に比べて極めて割高な電力料金が需要家負担になってしまうという事実である。一方、風力発電についてはこのブログを参照する。何分風任せで発電するので、送電線網の負荷が過剰になってしまうという話である。
日本のマスコミは何故かこういう不都合な事実は公にしない。従って、多くの日本人は基本的にドイツやドイツ人の事を信用し、評価しているので、何となくドイツ人のやる事だから間違っていないだろうとか、日本もお手本にすべきと錯覚しているのである。ちなみに、私は30年以上も前になるが25才の時にドイツに留学し、私の自宅のある横浜市都筑区にはドイツ人学校のある関係でドイツ人が多数住んでいる。従って、彼らと直接話をする機会もあり、この件実態について直接聞いた上で理解している積りである。