「ごちそうさん」最終回。なぜ豚がジャンプしたのだろう?

「ごちそうさん」の最終回はほぼ思った通りだった。最後の最後に悠太郎が戻ってきて、「ごちそうさんでした」を言ってハッピーエンド。想像通りに進行したのだが、ただひとつ、私には分からないシーンがあった。
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「ごちそうさん」の最終回はほぼ思った通りだった。

最後の最後に悠太郎が戻ってきて、「ごちそうさんでした」を言ってハッピーエンド。

想像通りに進行したのだが、ただひとつ、私には分からないシーンがあった。

豚だ。

豚がジャンプした。

リヤカーを引いて家の前に戻っため以子が夫が帰ってこない将来を想像して腰を落としたその瞬間。め以子の目の前をジャンプした子豚が横切った。

けっきょく、その子豚は悠太郎が連れて帰ってきたもので、満州で味わった子豚の丸焼きをめ以子のために料理してごちそうしようとしたものだったと後で明かされる。

スローモーションで子豚がジャンプした時に、ぬか床のナレーションが、め以子に夫がずっと帰らないことも想定しなければと言い聞かせるようにつぶやく。

疲れたような、め以子の顔に対して

「そうだねえ、。覚悟しないといけないのかもしれないね。長期戦になること。ひょっとしたら、"とん"でもなく長い・・・、"とん"・・・

とつぶやいた瞬間。

およそ1メートル半の高さから子豚が空中に跳んでスローモーションで着地した。

ナレーションが「"とん"だあ」と叫ぶ。

この後は家族や友人たちも喜び、再会を果たした夫婦が2人で旧敵国アメリカの象徴であるチョコレートを食べて、「ごちそうさんです」となる。

大事な人と一緒に食べられる幸福を噛みしめ、「おいしい」とつぶやくめ以子の声で番組は終わる。

でも、なぜ、豚が突然出てきて。ジャンプしなければならなかったのだろう?

おそらく読んでいる人たちのほとんどはお分かりだったのだろうが、ニブい私は分からなかった。

主題歌が流れ、番組最後の「きょうの食いしん坊」のテロップに「半年間 おおきに!! 大坂市天満 西門め以子さん・悠太郎さん」と表示されてさわやかに終わる。

豚が出てきたわけは、その後の生放送の報道番組、『週刊 ニュース深読み』で明かされる。

平日の「あさイチ」のイノッチと有働由美子アナのような感じで、スタジオのキャスターたちがドラマの受けトークをしていた。

高井正智アナ

「いやあ、悠太郎さん、帰ってきましたね」

小野文惠アナ

「ええ、良かったですねえ(笑)。それにしても豚にはびっくりしました」

南利幸・気象予報士

"ぶった"まげた感じ」

小野

「今週、タイトルが!"とんだごちそう"って書いてあったの。やっと意味が分かりました。」

「なるほど、なるほど」

高井

「その意味ですね。"とん"と豚がかかっている」

小野

「それにしても、ですけど、悠太郎さんの口には入らなかったものの、やっぱり悠太郎さんは牛スジカレーのにおいに誘われて帰ってきたんでしょうかね」

"華麗"なる展開ということでしょうね」

(・・・中略)

小野

「あの牛スジカレーもう一回みたいな」

ギュウっと詰まった感じのね」

気象予報士・南さんのオヤジギャグ3連発。

そうか...「豚のジャンプ」もオヤジギャグだったのだ。

最終週のタイトルが「とんだごちそう」だったことを思い出した。

「とんだ」は、元の「びっくりした」という意味に加えて「豚」と「ジャンプ」の掛け言葉だったとは...。

多くの視聴者の方々は、知っていたのかもしれないが、『週刊 ニュース深読み』の「解説」がなければ気がつかなかった。

小野文惠さん、ありがとう。

オヤジギャグのために、わざわざ子豚が1メートル以上ジャンプするシーンを撮影するとは、なんと、くっだらないことを考える人たちだろうか。

でも、テレビ制作はそうしたちょっとしたサービス精神を全うするためにも命がけになるバカバカしい仕事でもある。

くっだらないは、テレビの現場では褒め言葉でもある。

そんなギャグに後で気がついて、一人でもくすりと笑う人がいたならば、制作陣はきっと本望なのだろうと想像する。

確かにいました。

そういう、ちょっとニブいオヤジがここにも。

さて、豚という動物は、実際にはジャンプするのだろうか?

今度はそれが気になってきた。

少なくとも自分はこれまで豚がジャンプする場面を見たことがない。

本当はジャンプすることもあるのだろうか。

インターネットで検索してみる。

「豚」と「ジャンプ」。

「豚」と「跳ぶ」あるいは「飛ぶ」で。

すると、ゲームの世界では「豚が飛ぶ」というコンセプトが結構あることが分かった。

オンラインゲ-ムなどにも、豚がジャンプするというものがいくつかある。

実はそれだけではない。

「空飛ぶ豚」という言葉の使い方が外国語にはあるという。

Wkipediaなので詳しく知りたい人はもっと違う資料も参照してほしいが、以下のような記述をみつけた。

空飛ぶ豚(そらとぶぶた)は英語では、現実にはまったくありえないことを示す修辞技法(アデュナトン)の慣用句である。 「飛べる豚」"pigs fly"、「豚が飛ぶ時には」"when pigs fly" 、「豚に翼がある時には」 "when pigs have wings" 、などと使われ、ある事柄が不可能であることを意味するのに使われる。 同様な意味をもつ慣用句には「地獄か凍ったときに」"when hell freezes over"とか「古ローマ暦のついたちまでに」"to the Greek calends,"とか「樽から猿が出てきたら」"and monkeys might fly out of my butt"などがある。 古いスコットランドの話から来ているといわれているが、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の中にも現れている。 "Thinking again?" the Duchess asked, with another dig of her sharp little chin. "I've a right to think," said Alice sharply, for she was beginning to feel a little worried. "Just about as much right," said the Duchess, "as pigs have to fly...." (第9章) 1909年11月4日にイギリスのパイロット、ジョン・ムーア=ブラバゾンが「豚も飛べる」ことを証明するために、飛行機にくくりつけたバスケットに子豚をいれて飛行した。 宮崎駿の紅の豚に出てきているポルコの名言「飛ばない豚は、ただの豚だ。」は、上記をもとに作られたと言われている要出典

出典:Wikipedia

現実はありえないファンタジーが「空飛ぶ豚」。

「ごちそうさん」の物語は、食べ物をテーマにした一種のファンタジー。

あるべき理想を示そうとしたものだとも言えるのだろうか。

「ごちそうさん」の制作スタッフがその意味もこめて、最終回で豚をジャンプさせたのだとしたら、ただのオヤジギャグにとどまらず、奥は深い。

国籍や立場を超えて、いろいろな人たちが「ごちそうさん」の一言でつながれる世界。

番組のメッセージは「空飛ぶ豚」にもこめられていた。 

出演者やスタッフのみなさん、半年間、ごちそうさんでした!

(2014年3月29日「yahoo!個人」より転載)