少子化でもなかなか保育需要は減らないだろう。なぜなら0~3歳のところでは、ますます働きに出る人はふえていくだろうから。もし減ったら、それを幸いに、基準面積などを引き上げて保育条件をよくすればいい。戦後からずっとかわらない基準を引き上げるべきだ。
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(この記事は「紙屋研究所」に掲載された4月4日の記事の転載です)

■ぼくの娘はなぜ「待機児童」になれなかったか

きょう(2013年4月3日付)の朝日新聞に「待機児童 数え方変だよね」という記事があった。

保育園の待機児童というのは、保育園に入れない子どものことだろう、という人がいると思うが、そんなに単純な話ではないのだ。いや、単純にしてほしいんだけどさ。

たとえば、ぼくは子どもが生まれて3カ月たって、近くの認可保育園(カンタンにいうと国の基準に合ったと認められた保育園)に入れないか探したのだが、どこにも空きがなかった。それで育児休暇を8カ月もとるハメになったのだが、そのときぼくの娘は「待機児童」だったのか。え? 待機児童だったに決まってるって?

ブッブー。答えは「待機児童ではなかった」。

なぜなら、「空いたら入れてほしい」というふうに申し込んでいなかったから。

「申し込まなかったから、当たり前じゃん」と思うかもしれないが、行く園行く園、「いっぱいです。4月からなら空くかもしれないけど、それまでは無理ですね」と言われたら、あきらめてしまうのである。「あきらめられるってことは、そんなに切実じゃないってことだよね」とお前らは食い下がるだろうけど、そりゃ、「何とかしてください!」って悲鳴をあげた人よりは切実さは低いけど、それだけのことだ。「待機」していないってことは全然なかった。

この記事では、厚労省の課長補佐がぼくと似たケースをこう説明している。

「認可保育所に入れるのは同居する家族も児童を保育できない場合です。育休中だと保育ができないとは言えないので、待機児童ではないですね」

つまり、ぼくはたとえ申し込んでも、待機児童にはなれなかったというわけである。

では、国の基準を満たさない「認可外保育所」にやむを得ず子どもをあずけた場合はどうなるのか。認可外保育所の中には、国の基準ではなく、自治体が独自のユルい参考基準をもうけているところがある。

「自治体の基準を満たし、運営費の補助金が出ている施設ならば、待機児童になりません」

しかし、記事によれば、待機児童かどうかは、自治体の判断に委ねられている場合が多く、たとえば認可外のベビーホテルにあずけると一般には「待機児童」としてカウントされるけども、杉並区の場合は、ベビーホテルに補助(保育料の一部)が出ているので、待機児童にはカウントされないそうである。

完全失業者の定義がかなり厳しく、1時間でもアルバイトをすると定義から外れてしまうので、よく「失業者になるのは難しい」と揶揄されたりすることがあるが、待機児童になるのも、やはりきわめて難しいのである。

■福岡市の特養老人ホームの待機者計算の奇妙さ

特別養護老人ホームの待機者のカウントも奇妙である。

「申し込んでも入れない人だろ」と誰もが思う。

さにあらず。

厚労省に方針があるのかどうか知らないのだが、福岡市のやり方をみてびっくりしたので、書いておこう。

福岡市の特養ホームへの利用申し込み数は1万1398人(1)だ。このうち、複数の施設に申し込んでいる重複の人がいる。それが3828人(2)である。普通なら(1)-(2)=7570人(3)、と待機者数をカウントすると思う。

ところがである。

福岡市は、この申し込み者たちにその後「調査」をかけている

調査票を送る前の段階でその後死んでいることがわかったり、調査は「イヤ」といった人が1622人(4)、調査票を送ったけど返送されてきたのが626人(5)、だから(3)-(4)-(5)=5322人を調査する、と言いだした。

5322人のうち、調査票が返ってこないもの(未回収)、返ってきたけど無効な回答になっているものがあり、こういうものをのぞくと3858人になる。そのうち調査で「引き続き特養ホームの利用を希望しますか」ときいて「希望する」と答えたのは、3858人の62.3%、すなわち2402人(6)であった。残りの人は、特養に入れたとか、病院に行ったとか、グループホームに行ったとか、老健施設に入ったとか、やっぱ家でいいとか、調査票を送って初めて死んだことがわかったとか、そういう理由で「希望しない」になっている。

というわけで、特養の待機者は2402人......とやるのは、あまりにあまりだと思ったのだろう。「調査に同意しなかった人」「未回収の人」「無効回答の人」という3種類の「不明」者の合計1690人をとりだして、さっきの「引き続き特養ホームの利用を希望しますか」という質問のデータで出た「希望する 62.3%」という数字を無理矢理あてはめている

すなわち、1690人×62.3%=1052.87人(7)

よって(6)+(7)=3454.87人

むろん0.87人などというのは存在しないので「3500人」と福岡市は言っている。

そうなのだ。

福岡市の特養ホーム待機者数は、ひとケタがカウントできない。「約3500人」という気持ちの悪い概数になっているのである。

以下は共産党市議の質問とその当局答弁である(2011年12月15日本会議)。

●綿貫英彦 本市の特別養護老人ホームの待機者は平成22年の4月1日では7,517人となっていたのであります。ところが、平成23年の1月には待機者数は約3,500人となり、待機者数が急激に減少したとされていたのであります。そこでお尋ねしますが、特別養護老人ホームの待機者数がなぜ急激に減少したのか、その理由について答弁を求めます。

●保健福祉局長  特別養護老人ホームの利用申込者につきましては、平成24年度から平成26年度を計画期間とする次期福岡市高齢者保健福祉計画の策定に当たり、福岡市内の特別養護老人ホームに利用申し込みをしている方全員を対象に、平成22年度にアンケート形式による実態調査を行ったところでございます。調査の状況といたしましては、各特別養護老人ホームに提出されている入所申込書の延べ数1万1,398件から複数箇所へ申し込まれている方の重複調整や既に亡くなられた方などを除いた5,948人の方に対して調査票を送付し、そのうち3,858人の方から御回答をいただいております。その中で特別養護老人ホームに入所した、介護療養型医療施設に入所したなどの理由により、特別養護老人ホームの利用を希望しないと1,456人の方が回答しておられます。その方々を除きますと、全体の62.3%に当たる2,402人の方が特別養護老人ホームの利用を引き続き希望したいと回答しておられます。その回答の結果に、調査票の未回収などで本人の意思を確認できなかった方の割合を考慮いたしまして、特別養護老人ホームの利用を引き続き希望している実数は、全体で約3,500人と推計いたしたところでございます。

7517人から3500人へ半減......。すごいですね!

それにしても、市のロジックはひどい。

市の言い分は「だって、本当に必要な人がどれくらいなのか、利用申し込みだけじゃわかんないんだもん...」ということなのだろう。いや、それなら、厚労省がやっているみたいに要介護度とかをみて「本当に必要な人は何人か」「真に優先すべき人は何人か」というはじき出し方ならまだわかるよ。実際、福岡市はこれまでそれに近いことやってきたんだし。

でも「待機者」のカウントでは、それはまずいだろ。

利用申し込みがあるけど、入れなかった人の数じゃないのか。

それを「はい、もう一回精査しまーす」とかいって、モタモタ調査してたら、そら、死んだり、「もうええわ」となったり、調査票が返ってこなかったり、「もうガマンできんから他の施設行った」とかいう人が出るのは当然だろう。モタモタすればするほど、待機者数は減る。そういうのを狙っているとしか思えない。

さらにびっくりなのは、不明部分にたいして、判明部分の統計を勝手に当てはめて推計していることである。そんなことしていいのかよ。

■「真に必要な人対策」が「必要な人対策」を見失わせる

保育園の待機児童数は、2001年に定義を変えた。これで劇的に「減った」。

特養も同じようなことをしようとしているわけだ。

しかしそうやって「真に必要な人」をカウントするといえば聞こえはいいが、そういうことをやると、保育所に典型的に見られるように、全体が不鮮明になるので、後から後から「見えない」需要が出てくる。福岡市など毎年のように「保育需要の予測が甘かった」といって、待機児童の過去最悪を更新しているのである。毎年その言い訳、聞き飽きた。

結局「真に必要な人への対策」という名で、「必要な人への対策」は打たれないのである。

■待機児童をなくすには

待機児童が一向に減らないのは、ずばり「これから子どもの数がどんどん減っていくから」というのが行政のホンネだからだろう。だから、認可園を思い切ってつくらない。「思い切ってつくって少子化になったら困るもん」、と思っているフシがある。

東京なんかでは「土地がない」が理由。福岡市では「需要予測が甘かった」というのが定番の言い訳である。

たとえば土地は、本当にないのか。

ホンキでやらないからどうなっているかというと、認可園以下の基準のものを一定ふやしてそれでシノいで少子化を待つ。行政のホンネはそういうことだ。認証保育(認可園ほどではなく、東京都独自の基準による保育園)とか保育ママとかこども園とかそういうのを増やすっていうことである。「保育コンシェルジュ」が横浜市にならって福岡市でも導入されたけど、それは要は、「認可園でなくても、他にいけば?」と「振り分け説得」をするということである。まあ、緊急な保護者にとってはそういう相談役も必要だから全否定はしないけど、もともとはそういうねらいをもった配置である。

少子化でもなかなか保育需要は減らないだろう。なぜなら0~3歳のところでは、ますます働きに出る人はふえていくだろうから。もし減ったら、それを幸いに、基準面積などを引き上げて保育条件をよくすればいい。戦後からずっとかわらない基準を引き上げるべきだ。

いま公立園をつくるなど「もってのほか」という流れになっているので、空いている公有地を使って緊急に保育園をつくるなど考えられもしないという感じであるが、公立園なら本当に不要になったら閉鎖すればいい。しかし、行政はそんなことはやろうともしないのである。

(この記事は「紙屋研究所」に掲載された4月4日の記事の転載です)