やや時期を失した感があるものの、渦中の鈴木章浩議員が正式に謝罪会見を開き、更には、その後塩村議員に面談し謝罪した。世の中を随分と賑わした、東京都議会を舞台としたセクハラ野次騒動もこれにて収束に向かうに違いない。私は、この件については当初から大した問題ではなく騒ぎ過ぎと感じていた。
しかしながら、海外メディアが大きく取り上げたとあっては話は別である。日本は反日プロパガンダ・ウォーのど真ん中にいて、絶えざる中国、韓国からの理不尽な誹謗中傷に晒せれている。欧米メディアの配信する記事はきっと彼らを元気付けるに違いない。
一方、日本の多くの識者、論者擬きもセクハラ野次騒ぎを見て良いネタが見つかったとばかりに、次から次へとこれをテーマにエントリーを書き飛ばした。そして、労せず膨大なアクセスを得る事に成功し、今やお腹一杯といった所であろう。このままでは、騒ぐだけ騒いで、多分誰もセクハラ野次騒ぎを検証する事なく世間は忘れて行く展開になると危惧する。欧米メディアがこの件をどの様に配信し、その背後には何があるのか? 一方、国内問題として、何故政治の世界でセクハラ野次騒ぎが起こるのか?、くらいは検証すべきであろう。これが、今回「セクハラ野次騒ぎを検証する」のテーマで論考を進めようと考えた経緯である。
■ 欧米メディアの論調
幸いな事にハフィントンポストが、セクハラやじ、海外メディアも報道 「日本では職場の性差別が当たり前」と纏めてくれている。欧米メディアの特徴は彼らの国の宗教、つまりは一神教であるキリスト教の価値観をスタンダードにして物事を評価する事である。従って、女性の自由が抑圧され、権利が制限されたとすると「遅れた国」という評価、扱いになってしまう。話はやや脱線するが、イスラムの国が欧米に反発する原因はここに起因する。今回の、セクハラ野次騒ぎへの論調も何時もの、アジア、異教徒に対する偏見に起因するステレオタイプな批判というのが私の見立てである。残念なのは、国内マスコミ、ネットともに欧米メディアの批判を精査する事無く、これを利用してセクハラ野次騒ぎを批判している事である。
■ BBC Newsの論調
流石にBBC Newsはこの件についてはずっと沈黙を保っていた。ニュースバリューがないというのがその理由であろう。今朝漸く、Japan lawmaker admits to sexist remarkを発表した。本件では、最初で最後のニュースとなる事はほぼ確実である。私の様に普段習慣的にBBC Newsを閲覧している人間は日本の事を好意的に扱っていると感じるのではないか? 一方、そうでない人が読めば、随分と厳しく日本を批判している、或いは、日本に対しある種の偏見があるのでは?と感じるであろう。客観的に見れば多分後者の意見の方が正しいのではと思う。私も含め日常的にBBC Newsを読んでいる人間は、ある意味、BBC Newsに飼い慣らされ、そのバイアスに無頓着になってしまっている。こういった認識をベースにBBC News記事を精査してみる。
記事の中身は実にシンプルである。先ず、今回のセクハラ野次騒ぎの経緯を説明している。特筆すべきは、今回のセクハラ野次に国民世論が激しく反発し、その結果鈴木議員は塩村議員に陳謝したというものである。百聞は一見に如かずというが、中年男性議員が深々とお辞儀をし女性議員に詫びている姿が世界に配信された訳である。「宗教」、「民族」そして「性」に起因しての「偏見」と「差別」は人類の歴史そのものである。そして、日本もその例外では有り得ない。しかしながら、日本人は仮に過ちを犯せば日本社会から厳しくそれを指摘され、自らの誤りを陳謝し、正しい方向に舵を切り直す事の出来る柔軟で健全な国家である事実を世界の知識層に向けてアピール出来たのではないのか?
とはいえ、「皮肉」はイギリス文化の特徴である。幾つかの「皮肉」が巧妙に、或いは露骨に記事に含まれているのも事実である。「"I recognise that there are women who want to get married and can't, and those who want to have children and can't. My comments were lacking in concern towards people like that.」。これは、少し意訳すれば、「世の中には残念な容貌で生まれて来たために結婚したくても出来ない女性がいるが、こういった女性への配慮に欠けた」という意味である。相変わらずのオヤジ的発想、理解で陳謝になっていない気がする。
更に、この箇所は直接的で辛辣である。「But some high-profile members of Japanese society, including politicians, diplomats and academics, have said publicly that she deserved such remarks because she is still single. 」。この部分は直訳で良いだろう。「日本社会の上層部に位置する、政治家、外交官、上級教育者達が公共の場で"彼女は未だに独身なのでこのような野次は当然だ」。35才という年齢を紹介した上で、「Still=未だに」という単語を使へば、日本に限らず世界の女性の胸にぐさりと刺さる。
最後は御馴染みの「日本女性の社会進出が遅れている事」に対するステレオタイプな批判である。「The government is set to unveil plans later this year to boost the number of working women. Japan has one of the lowest rates of female workforce participation among developed countries.」。この辺りは読者サービスもあると思う。日本もそれなりに頑張ってはいるがまだまだだよ!といったところか?欧米の読者は納得し、満足するに違いない。誤解して貰っては困るが、私は決してBBC Newsのこの記事を否定や批判したい訳ではない。日本人がどう考えようがBBC Newsは自らの価値観を世界に配信し、全世界のリーダーに大きな影響を与える。従って、日本人がやらねばならない事は、BBC News記事が世界に与える影響を自分の頭で考え切り、対応を想定する事である。
■ 何故政治の世界でセクハラ野次騒ぎが起こるのか?
以前の記事、野党消滅の背景とは?で説明した通り、議会が形骸化してしまい下らない芝居小屋、学芸会の舞台に堕してしまった事に起因すると思う。東京都議会は東京都民の幸せのために予算を決め、必要な条例を制定するのが本来業務である。しかしながら、こういった仕事をは都庁に丸投げし、手柄をちゃっかり横取りしているのではないのか? 騒動の発端は「出産」、「妊娠」、「不妊」、関連の塩村議員の質問に対する不適切なセクハラ野次と聞いている。少子高齢化は東京都に取っても喫緊課題である。従って、自民党議員もまたこの問題、課題を我事と捉え真剣に考え、野党とも協議し、条例を通し、予算を付けねばならない。そういった議会としての本来業務を都庁に丸投げし、お気楽な精神状態だから今回の様なセクハラ野次がつい口から出てしまうのである。セクハラ野次は議会の在り方に起因しているという事である。
これは何も東京都議会に限った話ではない。国権の最高機関たる国会も実態はお寒い限りである。参照するのは最近知って驚いた、派遣期間の上限撤廃先送り 条文ミスで廃案である。日経新聞によれば、「条文にミスが見つかったから審議拒否」との事だが、条文を実務的に審査し、必要に応じ修正するのが本来立法府たる国会の仕事のはずである。図らずも、国会が質の低い芝居小屋である事を露呈してしまった。
さて、何故政治の世界でセクハラ野次騒ぎが起こるのか?の結論を言わねばならない。私は、国会、地方議会を問わず、議会の機能不全と議員の実質脳死状態がその主たる原因であると考えている。