"人権社会"実現に向けた「成長戦略」を!
6月18日、東京都議会で「子育て支援」に関する一般質問を行っていた塩村文夏議員が、「セクハラやじ」を浴びたことが、新聞・テレビ等で大きく報道された。『早く結婚すればいい』や『産めないのか』といった趣旨の不規則発言がなされた。
このような"やじ"に対して、都議会が発表した『各会派は品位を持って臨むべき』とのコメントを聞いて、正直、私は驚き、呆れた。なぜなら、この事態は、品位の問題ではなく、明らかに「人権侵害」であり、「人権意識の欠如」の問題だと考えるからだ。
塩村議員は「発言者の特定と処分」を議長に申し入れたが、「発言者不明」との理由で不受理となった。国会議員や閣僚の間からは、『発言者は速やかに名乗り出て謝罪せよ!』との声も上がり、ようやく23日に発言議員のひとりが特定された。
しかし、このニュースは世界中を駆け巡り、一都議の問題に止まらず、日本社会の男女差別の現状や人権意識の低さを世界中に露呈することになった。
セクハラやパワハラが大問題になると考える企業は、その防止のために職員等に対する人権研修を行っている。特に人権意識の高い国で経済活動を展開するグローバル企業にとっては、セクハラなどの重大な人権侵害が企業の存亡に関わることもあるからだ。
万一、人権問題が発覚した場合、企業は一刻を争って事態の収拾に当たるが、今回の都議会の対応はあまりに鈍かった。それは「セクハラやじ」発言が、重大かつ深刻な人権侵害であるとの認識と危機感が足りなかったからではないだろうか。
東京都は2020年五輪開催都市でもある。世界中から大勢のアスリートや観光客が東京を訪れるのだ。今年2月のソチ冬季オリンピックでは、ロシアの同性愛を規制する人権政策のため、欧米諸国の多くの首脳が開会式を欠席したことは記憶に新しい。
2020年の東京オリンピックを成功させるためにも、様々な異文化を理解・尊重するとともに、今回のような"やじ"発言にみる人権意識の欠如があってはならない。"やじ"発言の議員はもとより、都議会全体の一層の人権意識の涵養が強く求められる。
労働力人口の確保や日本経済の持続的成長という課題の解決策である少子化対策が期待される今日、政府の成長戦略の柱として「女性の活躍」は不可欠である。しかし、それは女性に対する「人格の尊重」が前提であることは言うまでもない。
64年の東京オリンピックは、戦後日本の高度経済成長を世界に誇示したが、2020年は日本が確かな成熟社会へ成長した姿を世界に示す重要なステージでもあるのだ。
今、求められる成熟社会に向けた「成長戦略」とは、単に経済を成長させるだけではなく、経済大国にふさわしい人権意識が定着した"人権社会"の実現を促すべきものであることを忘れてはならない。
(参考)
※ 研究員の眼 『「観光立国」目指す"おもてなし"~異文化理解から始めよう!』(2014年6月23日)
※ 研究員の眼 『"レリゴー社会"つくれるか~「少子化」めぐる社会意識の寛容性』(2014年6月16日)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員
(2014年6月30日「研究員の眼」より転載)