大沢樹生と喜多嶋舞の間で、息子は実の親子かどうかの醜い争いが続いている。異なる遺伝子検査結果が報道され、真実は闇の中である。昨年5月には、遺伝子検査の結果に基づいて乳がんのリスクを減らすために乳房切除手術を受けたと、アンジェリーナ・ジョリーが告白し話題になった。このように、遺伝子検査は親子関係の鑑定や遺伝的にリスクの高い病気の診断・予防に用いられる。
今までは、病気になると、基本的には画一的な治療が施されていた。これに対して、遺伝子検査などの情報を元に、患者個々人に最適な治療を実施しようというのがオーダーメイド医療である。このオーダーメイド医療を実現するには、多数の人々からDNA・血清などの試料、問診票・診療情報を集め、個人差を詳細に分析し、病気の原因を解明し、治療法・治療薬を開発する必要がある。これは医学研究であると同時に情報科学の研究であり、ビッグデータ解析の有力な応用分野である。わが国では、文部科学省の資金が投入され、オーダーメイド医療実現化プロジェクトが推進されている。この下に組織されたバイオバンク・ジャパンは、すでに20万人以上の患者から提供された試料を保管・管理し、研究に利用しているそうだ。
諸外国にも同様のプロジェクトがある。たとえば、英国では、英国バイオバンク(UK Biobank)が英国保健省、医療研究審議会等によって組織された。当初の資金は約86億円で、50%を政府が提供したという。2007年から本格的に推進され、40歳から69歳までの50万人をリクルートし、生活習慣病歴などの健康情報や血液・尿、唾など生体試料を、毎年繰り返して収集しているという。(備考:英国バイオバンクへの訪問調査結果を含む報告書が国際社会経済研究所のサイトで公開されている。)
米国では、病気の診断・予防がすでにビジネスになっている。「23andMe」という会社はわずか99ドルで約250の病気を検査するとしてビジネスを拡大していたが、米食品医薬品局(FDA)から利用者が不適切な治療を受けかねないと警告され、昨年11月にサービスを停止した。
遺伝子検査やそれを利用するオーダーメイド医療には、検体を集めるほど診断と治療の精度が上がり、診断と治療の精度が上がるとより多くの依頼が集まるという正のフィードバックがかかる性質がある。わが国のバイオバンク・ジャパンも早急な規模の拡大が求められるはずだ。一方で、FDAが警告したのは検査結果の信頼性が低かったからだが、たとえば「DNA美容」をうたうディーナという日本企業の場合には、サイトに「利用者の疾病・各種症状に対する一切の責任を負わないのものとし、疾患・各種症状の発症および進展、生活習慣改善方法を確定させるものではありません」等の免責事項が表示されている。免責事項があれば、FDA(わが国の場合は厚生労働省)からの警告を回避できるのだろうか。
芸能人の実子騒動からいろいろと考えさせられたのだが、僕が理事長をしている情報通信政策フォーラム(ICPF)では、「オーダーメイド医療とバイオバンク・ジャパン」と題するセミナーを1月17日に、「インターネットビジネスと約款」という特別セミナーを1月23日にそれぞれ開催する。この記事に関わる講演と議論が行われるので、ぜひ、ご参加ください。