おかしいのは公選法だけではない

諸外国の議会と日本の国会のもっとも違うところは、日本の国会では議論が行われない。メディアが「国会の議論を通じて」などと報道するが、国会で行われているのは、政府や議員立法の提出者への「質問」であって「議論」ではない。質問は、質問者に対して答弁者側からの逆質問はできないので、言わば、安全地帯にいるものが相手を一方的にぶん殴るだけである。
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新しい国会の枠組が決まった。

強い与党のリーダーシップのもと、国会改革もやるべきだ。

もちろん野党の意見も取り入れながらだが。

以前に、ここで公職選挙法の問題をとりあげたが、公職選挙法だけがおかしいのではない。

例えば、国会の本会議の採決で議長が「賛成の諸君の起立を求めます」と声をかけ、賛成の議員がどっと立つ起立採決。

衆議院本会議の起立採決で、誰が立って(賛成して)、誰が座っていて(反対して)、誰が棄権したか、実は記録されていない。

本会議が始まる前の議院運営委員会で、各党の理事がその日の議題ごとの(各党の)賛否をそこで報告していく。

「自民党は賛成」というその報告が記録に残る。だから、議員一人一人の賛否は記録されない。(「自民党は賛成」というならば「自民党の議員はみんな賛成」という建前だから。)

東日本大震災の後、菅内閣が通常国会の会期を延長しようとしたのに対し、谷垣総裁、石原幹事長率いる自民党は、会期延長の動議に反対することを決めた。

岩屋毅代議士と私は、こんな非常時に国会を閉じるなんて馬鹿なことがあってはいけないと、自民党執行部の決定に逆らい、会期延長の採決に賛成した。

それを執行部に咎められて、党紀委員会にかけられ、役職停止一年という処分を食らった。

しかし、もし、我々が党紀委員会で、我々が造反した証拠を示せと突っ張ったら、執行部はとても困っただろう。国会の公式な記録には、岩屋、河野の造反の記録はないからだ。

もちろん谷垣・石原執行部は誤った対応をしたのであり、我々二人が正しい対応をしたのだから、我々は胸を張って処分を受けたが。

本会議では、異議なし採決というものもある。

議長が本会議で「ご異議ありませんか」と諮って、異議がなければ満場一致ということで可決される。

本会議前の議院運営委員会で反対する政党がないことがわかった議題についてはこの異議なし採決が行われる。

かつて綿貫民輔衆議院議長時代に、「鈴木宗男君の議員辞職勧告決議案を議題としてとりあげることにご異議ありませんか」と議長が諮ったことがあった。

鈴木宗男代議士の評価は別として、「議員辞職勧告決議案というもの」に反対する立場として、私は自席で起立して右手を挙げて大声で、「異議あり」と叫んだ。

綿貫議長は間髪入れず、「ご異議なしと認めます」。

議院運営委員会で「反対がない」ことになれば、本会議で「異議あり」と叫ぶ者がいても、その者は存在しないことになってしまう。

衆議院では、「呼び出し」という役職があって、本会議での動議はすべて、この呼び出しが出す。(呼び出しの席には、マイクがあらかじめ設置されている。)

「ギッチョーーーーーーーーーッ」「XX君」「緊急動議を提出いたします。XXをXXし、XXすることを望みまーーーーす」「XX君の動議にご異議ございませんか。」(「異議なし」と叫ぶ者あり)「ご異議なしと認めます。よって動議の通り....」

この動議もすべて事前に議院運営委員会で了承された当日の本会議の流れに沿って出される。

その昔、岸田文雄外務大臣も当選二回当時に、この呼び出しをやっていた。

ある日、岸田代議士、動議を出すタイミングを間違えて「ぎっちょーー」とやってしまった。しかし、議長はこれを完全に無視。何事もなかったように本会議が続いた。

つまり、本会議は事前の筋書き通りに進むのだ。

諸外国の議会と日本の国会のもっとも違うところは、日本の国会では議論が行われない。

メディアが「国会の議論を通じて」などと報道するが、国会で行われているのは、政府や議員立法の提出者への「質問」であって「議論」ではない。

質問は、質問者に対して答弁者側からの逆質問はできないので、言わば、安全地帯にいるものが相手を一方的にぶん殴るだけである。

委員会や本会議で「討論」が行われることがたまにあるが、法案の採決の前に、なぜ(わが党は)その法案に賛成あるいは反対するのかという理由を一方的にしゃべるだけだ。

採決の対象について、一人々々の議員の個人的な意見が述べられることはない。

だいたい本会議での発言の機会というものは、めったに回ってこない。十年間、本会議で発言する機会がなかったという自民党の議員もそう珍しくない。

私自身、小泉総理の環境サミットの報告に対する質問が一回と外務委員長として委員会で可決した条約に関する委員長報告が数回。

年に数本の重要な法案については、委員会審議の前に本会議での趣旨説明と質疑が行われる。

しかし、大多数の法案については、いきなり委員会で審議(これも「質問」だけというケースが多い。)が始まり、委員会で採決されると、本会議では委員長が委員会審議の様子を報告する委員長報告というものを数分やり、そのまま採決が行われる。

自民党の場合、委員会での質問に立てるのは、ほんの数人だけだから、ほとんどの議員は、ある案件について、国会で意見を言うこともできない。

これで国会で審議しているとは言えないのではないか。

与党の場合、そんなことで文句を言うならば、その法案や条約が事前審査される党本部の部会に来て、そこで意見を言えということになる。

問題は、党本部の部会は、公開されていないということ。

さらに、その場で役人から説明された法案について、その場で意見を言わないといけないということ。

何センチもある法案を、お役所はだいたいA4一枚にまとめたもので説明する。関係者や専門家の意見を聞く機会もない。事前に内容の説明を受けているのは、族議員と政調審議会、総務会のメンバーだけでは、事前審査も形式的になってしまう。

民主的な統制をしっかり行うためには、今の政府・与党の在り方も変えねばならないし、国会の運営も変えなければならないのだ。

(※この記事は2013年07月23日の「河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり」より転載しました)