「ポップサーカス」が宇都宮で“足止め”  新型コロナによる存続危機を乗り越えるために

2月末から全公演を休止しており、クラウドファンディングで支援を呼びかけている。リターンには、生涯使えるペア・パスポートなどを用意している。

世界14カ国・約70名のトップ・アーティストが集結した「ポップサーカス」。
能力の限界に挑戦する人間技と趣向をこらした演出で、アクロバット・サーカスを披露し続けている、日本では数少ない本格派のサーカス団だ。

旗揚げは1996年。以来24年間、約1200名を収容する仮設劇場である大型テントとともに移動しながら日本各地で公演を行い、年間約60万人を動員するほど多くの人を魅了し続けている。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2月末から全公演を休止。それから半年以上もの間、栃木県宇都宮市の「道の駅うつのみや ろまんちっく村」で“足止め”され、公演再開のめどが立っていない。

長期間に渡り収入が途絶え、苦境に立たされている中、存続のためにクラウドファンディングで支援を呼びかけている

 

自粛要請を受け、2月末から全公演を休止

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特設テント前に集まる「ポップサーカス」のアーティストやスタッフら(ポップサーカス提供)
A-port

ポップサーカスは2月15日から4月12日までは「道の駅うつのみや ろまんちっく村」で、その後は神奈川県横須賀市で公演を行う予定だった。

ところが宇都宮公演真っ只中の2月26日、日本政府が新型コロナウイルス感染拡大防止のため大規模イベントの自粛を要請。ポップサーカスは翌日以降の公演をすべて休止することを決めた。

営業部長の水谷武明さんは、こう話す。

「会場となるテントは直径46メートル、高さ20メートル、客席の最大収容人数は1200名とたくさんのお客様が来場されます。宇都宮も横須賀もすでにチケットを販売していましたが、感染リスクを考慮して休演を決めました」

「状況が日々変化するため今後の見通しが立てられず、公演再開のめどは立っていません。今もアーティストやスタッフは宇都宮公演の会場だった『道の駅うつのみや ろまんちっく村』に滞在しています」

緊急事態宣言が解除されて以降、イベント再開を決めたところもあれば、休業を続けているところもある。その判断はサーカス業界の中でも二分されているという。

「どちらが正解か、今は分かりません。ポップサーカスとしては、お客様の安全・安心に重きを置いて現在も休演の判断をしています」

 

休演中も、厳しい練習を続けている

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休演となってから、アーティストたちは不定期の自主公演や宇都宮市内のホテルでパフォーマンスを披露し、収入を得ている。小規模なため、テントの維持にかかる費用をまかなうには到底足りないという=朝日新聞社撮影
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1996年の旗揚げ以来、長期間の休演に踏み切ったのは今回が2度目。1度目は2011年、東日本大震災の時で4ヶ月ほど休演した。今回はそれを超える長期となり、ポップサーカスの経営に大きな打撃を与えている。

休演中もアーティストたちは再開に向けて毎日厳しい練習を続けている。トレーニングで使用する施設や設備の維持・管理に関わる費用が必要なのは、平時と同じだ。今後は、新型コロナウイルス感染防止策の設備も整えなくてはならない。

「例えば、検温するための非接触型体温計やアルコール消毒、換気設備などを備え、客席の配置も変更しなくてはならないでしょう。アイデアを出し合いながら考えているのですが、いつ再開できるのか分からないので、具体的にどういうものを用意すればいいのか決められない。この先、大規模イベントのガイドラインも変わるかもしれないので、何を指針にすればいいのか…」と水谷さん。

7ヶ月以上も公演をしていない上に、公演再開後は通常時の半分程度の定員に抑えなければならないことが予想される。それでは自助努力にも限界がやってくるだろう。

 

世界から集まったアーティストたちの思い

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ポップサーカスのアーティストたち。動物保護を意識して猛獣や大型動物は使わず、人間の能力の限界に挑戦するパフォーマンスが多くのファンを魅了している(ポップサーカス提供)
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ポップサーカスは、約70人のアーティストやスタッフらが、大型テント会場に併設された30棟ほどのコンテナハウスで、大家族のように集団生活をしている。

北米・ヨーロッパ・中南米・アフリカ・オセアニアなどから国籍を超えて集まったアーティストたちはいま、舞台に立つことも、故国に戻ることもできない。

再びショーが披露できる日を信じて練習を続けているアーティストたちはコロナ禍で、どのような思いを抱えているのだろうか。

 

「私にとってポップサーカスは家族のような存在です」

習得に長い年月を要し、高い表現力、バランス感覚、筋力が必要な“神業”と評される「ティーターボウル」を披露する中国出身のヤンさん。2人の子供の父親でもある。

(動画は、ヤンさんのパフォーマンス)

ポップサーカスに加入したのは2017年。休演が続く今でも毎日のトレーニングを欠かさないという。

「私にとってポップサーカスは家族のような存在です。アーティストみんなで食事をしたり、毎日練習をしたり、日々楽しく過ごしています。でも休演して舞台に立てないことはとても残念です。再開したら、ぜひパフォーマンスを見に来ていただきたいです。それまで皆さんも体調に気をつけてください」

 

「ポップサーカスは夢が詰まった場所」

愛知県岡崎市出身の丹原順菜さんは2013年にポップサーカスに加入。ダンサーとしてステージに出演したり、スタッフ業務にあたったりとマルチに活躍中だ。

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丹原順菜さん(ポップサーカス提供)
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「ポップサーカスは夢が詰まった場所」と話す丹原さんは、朝1時間、午後1時間半のトレーニングを欠かさずに再開の日に備えている。

「今は公演がない分、トレーニングする時間が伸びています。また、共同生活をしていてウイルスを持ち込むことができないので、今もできるだけ外出しない生活を心がけています。夢を叶えるために、今、新しい演目の練習をしています。再開後にお披露目できるようトレーニングを続けていますので、楽しみに待っていただけたら嬉しいです」

 

リターン、生涯使えるペア・パスポートなどを用意

スロバキア出身のパトリシアさんは2004年にポップサーカスに加入した。

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パトリシアさん(中央、ポップサーカス提供)
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クラウン(道化師)のルイスさんと結婚し、3人の子供たちに恵まれたのち、昨年、舞台から引退。現在は通訳兼マネージャーに転身した。その場を明るく照らす、ポップサーカスにとってなくてはならない存在だ。

「私はこの状況を大変だと思わずに、“生活スタイルが変わった”、“チャレンジができる”と思うようにしています。公演がない分、アーティストたちは練習する時間がたくさんあるので、再開の日に向けてみんな一生懸命トレーニングしています」

「何事もプラスとマイナスがありますが、プラスを見て新型コロナウイルスは全部いつか終わると信じて頑張りましょう。コロナが落ち着いて皆さんに会えることを楽しみにしています!」

ポップサーカスは1000万円の目標を掲げ、クラウドファンディングに取り組んでいる。リターンには、スタッフTシャツや、生涯使えるペア・パスポートなどを用意している。

10月30日まで。詳細はこちら

(岡本英子)

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休演前のポップサーカスのステージ。横断幕には「またお会いしましょう」と書かれている(ポップサーカス提供)
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