ポンペオ訪朝の真実・・・三度目もまたダマされるのか!?

だました方も悪いが、だまされた方はもっと悪い。
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NEW YORK, NY - JULY 20: US Secretary of State Mike Pompeo speaks to members of the media at the U.N. headquarters on July 20, 2018 in New York City. Pompeo met with the UN Security Council for a briefing on the North Korea Summit. (Photo by Kena Betancur/Getty Images)
Kena Betancur via Getty Images

 米朝首脳会談(6/12)以降、肝心の「非核化」がまったく進んでいない。先般のポンペオ国務長官訪朝も、事前の予想通りとなった。

 先のポンペオ訪朝(7/6~7)は、首脳会談後、三週間経っても全く進まない「非核化」について、業を煮やしてポンペオ氏が押しかけたというのが実情だ。その証拠に、ポンペオ氏が北朝鮮に着いた時には、その宿泊場所も決まっていなかったそうだ。結局、金正恩氏の別荘らしき所に決まったが、その後、北朝鮮はポンペオ氏への接待攻勢。あまりにゴージャスな昼食会、夕食会等々で、北朝鮮側は実質的な議論に入らせなかったようだ。

 翌日も同様の状況だったので、ポンペオ氏が切れて、一方的に「非核化」のロードマップをはじめ米国側の要求を突き付けて終わったというのが真実だ。これに対し、北朝鮮が外務省談話で「強盗まがいの要求」と批判したのはご承知のとおりだろう。

 この背景には、先の首脳会談で、北朝鮮には、とるものは全てとったという認識がある。何よりも米国大統領と対等の立場で会談をし、それを世界に発信できたこと。おまけに「体制保証」まで得た。これ以上、北朝鮮から何かをする必要はないということだろう。

 張成沢処刑以来、冷え切っていた中国との関係も、三度にわたる金正恩氏の訪中で完全に修復されたことも大きい。その後ろ盾を得た北朝鮮にとって、米国の軍事オプションの脅しは「もはや恐くない」という認識なのだ。確かに、数か月前の軍事攻撃の現実的可能性は、中国との連携強化で極小化した。何よりも、トランプ大統領自身が、「米韓軍事演習の中止」だけでなく、「在韓米軍の撤退の可能性」に言及している。

 北朝鮮の戦略は明らかだろう。表向きは「非核化」のための「偽装」を「小出し」で行いながら、「非核化」は断じて避け、事実上の核保有国を目指す。その徴表は既に続々出ている。

 「北朝鮮が核兵器数や秘密生産施設を隠蔽」(米ワシントンポスト)。「北朝鮮が核兵器の原料となる高濃縮ウランの生産を強化」(米NBC)。「寧辺(ヨンビョン)にある核関連施設の改修作業を実施」(米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」)「北朝鮮が北東部にあるミサイル製造施設の拡張工事」(米ウォール・ストリート・ジャーナル)等々。

 これらは全て、米政府当局者、情報機関からの情報だ。偵察衛星の写真からの情報もある。この背景には、中間選挙や大統領選に向けた、北朝鮮との「政治ショー」にうつつを抜かすトランプ大統領に対する米政府内の不満、いらだちがあるというのが、米国内の分析だ。

 こうした状況を受けて、中朝国境の制裁・取締りも緩んできている。近隣の遼寧省の市場では、北朝鮮産の「なまこ」や「朝鮮人参」等々の品物があふれているそうだ。石油精製品の密輸も頻繁に行われている。こうした事実は。ポンペオ氏ですら把握しているようだ。

 米朝首脳会談後、中国はロシアとともに、制裁緩和に向けた「報道声明案」を国連安保理理事国に配布した。金氏が6月に習近平氏と会談した際も、経済制裁の早期解除を要請、習氏も「最大限の努力」を約束したという。

 ポンペオ氏も事態の深刻さに、やっと、国連で安保理理事国大使に制裁継続を要請したようだ、拉致問題も抱えるわが国としては、ぶれずに、厳しい経済制裁の続行、必要があればその強化を、国際社会に働きかけていく必要があるだろう。

 一縷の望みは、先の首脳会談での、トランプ、金両氏の差しの会談(38分間)だという見方もある。この内容がごく一部の人間にしか共有されておらず、ここで何が話し合われたかがわからないのだ。その中身如何によっては、状況は変化し得るかもしれないというのだ。

 ただ、そこに何か公表されていない秘密でもあるのであれば、それは、いずれ中間選挙までにはその一端が明らかになるだろう、というのが私の見立てだ。

 金氏もさすがに、トランプ氏にとって中間選挙がいかに重要かはわかっているので、それまでに今のままの「成果のない状況」を続けることはできないからだ。例えば、それまでに「全ての核関連施設の申告」でもあれば、私も北朝鮮の「本気度」をある程度信じたいという気持ちも生まれるが、残念ながら、そうはならないだろう。

 いずれにせよ、北朝鮮は、中間選挙や大統領選に合わせて、大したことのない「見せかけの譲歩」を小出しにし、トランプ政権の強硬路線封じつつ、実際上の核保有国としての地位を確立していくことだろう。

 私は、先週お招きした、あまりに「非核化」に楽観的な見通しを述べる駐日韓国大使に、以上のことを申し上げながら、こう付け加えた。「せいぜい、9月の国連総会の機会に金正恩氏が訪米し、そこでまたトランプ大統領と中身のない会談をし、また『やった』『やった』と互いに政治ショーをプレイアップするだけでしょう。」

 国際社会は過去、大きく二度、北朝鮮にだまされてきた。1994年の「米朝枠組み合意」(核開発凍結の見返りに軽水炉と重油50万トン供与)と、2005年の六者協議の共同声明(すべての核兵器と現存する核計画の放棄)のケースだ。二度だまされたのに、その経験を糧にせず三度目もだまされれば、だました方も悪いが、だまされた方はもっと悪い。

(2018年7月22日今週の直言より転載)