ポンペオが平壌に行った目的

人形遣いと操り人形を一つにまとめたマイク・ポンペオ
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Leah Millis / Reuters

 ドナルド・トランプと金正恩の会談はナポレオン三世も顔負けするほど騒がしかった。私たちが一体何を目撃したのか、これから正確に探ってみることにしよう。「米朝首脳会談」というイベントは、まるでボクシングのヘビー級タイトルマッチのように大々的に宣伝された。トランプは、絶えず戦争をほのめかしてきたハリー・ハリス在韓米国大使指名者や、マイク・マレン前統合参謀本部議長等の強硬派の助けを借りて、自分の思い通りに事が運ばない場合には残酷な結果がもたらされるだろうと仄めかしてきた。モハメド・アリが対戦前に何度もジョー・フレジャーを挑発したのと、さほど変わりはなかった。また、トランプにとっては責任が伴う退屈な実務的な立法や政策立案の行為よりは、このプロセスの方がよっぽど面白くて楽な選択であったのだろう。

 核拡散防止の専門家ではないデニス・ロッドマンまでもが付録でついてきたこのリアリティーショーの場所に、シンガポールが選定されたのは単なる偶然ではない。シンガポールはありふれた国家ではない。アジア、中東、東南アジア等、世界中の資本が集まり、今回の会談が開催されるカペラホテルのようなデラックスなホテルが建ち並ぶ超現実的な空間なのである。シンガポールの五つ星ホテルは貧困人口が少ないシンガポールでさえ、普通の庶民が利用できるような施設ではない。シンガポールは、用心深く国外の紛争に巻き込まれないように自らを遮断してきたおかげで、「死刑があるディズニーランド」と揶揄されたりもする。

 今回のイベントは、その意味もわからない者が「CVID」のような絢爛な言葉を呪文のように何度も繰り返す声で塗り尽くされた。真実や正義への関心はどこにも見当たらなかった。全てのプロセスは非常に反知性的であった。アメリカはトランプが中間選挙まで持ちこたえられる程度の混乱を助長するために、理性的な議論はせず感性に訴える作戦に出た。

 ところで、我々はマスコミや会談では全く言及されない次の事項に注目する必要がある。

1)日本、中国、韓国、ロシア、アメリカが東アジアで繰り広げている軍備競争

2)核拡散防止条約を露骨的に違反しているアメリカの次世代核兵器の増強

3)韓国・北朝鮮両国内の乾燥地帯拡散等、朝鮮半島や東北アジア地域に気候変動がもたらす影響

4)韓国・北朝鮮両国内で増加する富の偏重とそれによる社会・政治の歪曲

5)有意義なニュースを見出し難くなってしまったマスコミの衰退

 トランプはノーベル平和賞を受賞するかもしれないというニュースを聞いて安堵しているかもしれない。そして、トランプの大胆な行動は、ロナルド・レーガン大統領がミハイル・ゴルバチョフに接近した時にとても類似しているが、冷戦の終息もさように類似するだろうか。

 それよりも、ドイツ、ポーランド、ソ連が条約を結んだ奇異な歴史の一ページを思い出すべきであろう。ドイツは1938年チェコスロバキアを解体した際、ポーランドがボフミーン市を要求すると、これを支持した。これに対して、ソ連はソ連・ポーランド不可侵条約を破棄すると迫ったが、ドイツとポーランドの支配勢力の間に協力関係が形成された。ところが、1939年8月23日、ソ連とドイツが不可侵条約を結ぶと、その直後の9月1日にドイツがポーランドに侵攻し、同月17日にはソ連がポーランドのその他の地域に侵攻した。当事者同士の信頼もなく、市民の意見聴取もなく、少数の者だけが意思決定権を独占していたせいで、協力のための協約は何の意味を持たなくなってしまった。結局、それから2年後の1941年6月22日にドイツはソ連に侵攻し、自分たちが結んだ条約を破って、人類の歴史上、最も残酷な軍事行動を取った。

 今のアメリカの意思決定プロセスを見ると、専門家はおろか、議会の意見さえも反映されず、市民に認められていない極少数の者だけの間で行われている。こういった悲喜劇はトランプの政治的天才性のせいではなく、アメリカ国内で有意義な政治論議が行なわれないことにより生じたものである。知識人は自分たちだけの世界に閉じこもってしまい、ありきたりの教育やマスコミに露出されているほとんどの市民は、自分たちの力だけで社会問題に立ち向かっていかなければならないのである。

 チャイルディッシュ・ ガンビーノ(Childish Gambino)の「This is America」(これはアメリカだ)のミュージックビデオでは、9.11やチャールストン教会での銃乱射事件のような惨い暴力が「新たな娯楽」のようにすぐに忘れられてしまう、アメリカの物神崇拝的な消費文化を完璧に表現している。アメリカ市民は新たな興奮を求める消費者に没落してしまった。

人形遣いと操り人形を一つにまとめたマイクポンペオ

 マイク・ポンペオ(Mike Pompeo)米国務長官が対北朝鮮交渉の中心人物として浮上した背景には正にこのような文化的な環境がある。ポンペオはアメリカ歴代の国務長官とは全く違うタイプの人物だと言っても過言ではない。彼は百億ドル以上の大富豪であるチャールズ・コーク、ディヴビット・コーク(Charlesと David Koch)兄弟の支援を受けて権力を握ることになり、一握りの富裕後援者以外の他の人たちの意見には耳を傾けない。公式発表では彼は今年に入ってからCIAの局長として一度、最近では国務長官として二度目の北朝鮮訪問を果たしたのだが、政府官僚を随行させて金正恩国務委員長や金英哲副委員長と直接会談し、北朝鮮と具体的な非核化について協議したことになっている。

トランプ政権下のホワイトハウスにおける大量の虚偽情報や国家機密の乱用等を考慮すると、ポンペオが果たして二度ばかり北朝鮮を訪問したのか、政府官僚だけを随行していったかどうかは疑わしい。

 アナリストたちは何の根拠や論理もなく、北朝鮮が韓国やアメリカに先制核攻撃を仕掛けてくると、とんでもない想像のシナリオを書くのに躊躇がない。それならば、今度は私も想像の翼を広げてみることにしよう。 

 平壌行きの飛行機にはおそらく北朝鮮での天然資源開発の独占契約を狙うコーク・インダストリーズ(Koch Industries)の代表たちも搭乗していたであろう。北朝鮮には石炭、ウラニウム、鉄、金、マグネサイト、亜鉛、銅、石灰石や電気産業に不可欠なレアメタルが大量に埋蔵されている。韓国鉱物資源公社によると、その価値は約6兆ドルにものぼるといわれている。

 また、北朝鮮での社会基盤施設建設の独占契約を望む企業やアメリカ産輸入農産物の独占販売権を獲得しようとする企業も搭乗していたかもしれない。

 一つだけ確かなことがある。ポンペオは平壌で金正恩に会っても、核拡散防止についてはいかなる具体的な対話も交わしていない。ポンペオは核拡散防止条約を施行して外交交渉に持ち込める技術的に難しいプロセスについては無知に近い。彼は議会でも何年もの間、とんでもない理由でイラン核合意離脱を推進してきた。その上、彼の前任者であるレックス・ティラーソン(Rex Tillerson)が国務省のほとんどの高官を解任、降格、辞職させたために、現在の国務省にはポンペオと気心の知れたシニカルな官僚主義者しか残っていない。従って、ポンペオにはいかなる具体的な協議に臨める能力はないのである。 

 アメリカのイラン核合意離脱の決定はポンペオの熱烈な後押しがあったのだが、これによりアメリカ外交の正当性は大きな打撃を受けた。この難しいプロセスには不拡散に関する専門知識や透明で文書化された協議が必要であり、他の国家との協力も当然必要であった。

今日のアメリカは、国際法や外交儀礼を歴史上例を見ないほど無視している。

 アメリカは、一度も体験したことがない危険な海域に足を踏み入れている。

 ポンペオのビジネスキャリアやカンザスでの政治経歴を見れば、彼が平壌でどんな話をしてきたのかを予想するのはさほど難しくない。北朝鮮の天然資源開発はアメリカ企業と手を組むことや、北朝鮮の安い労働力をアメリカ企業が利用できるようすることについても言及したはずである。

 ポンペオは2003年のイラク戦争以降、多国籍企業主導の下で行なわれたイラク開発をモデルにしている。当時の開発コンセプトはイラクの化石燃料資源を分配して、イラクが一度も要求したことのない社会基盤施設の建設をベクテルとハリバートンに請け負わせたことである。

 このモデルは現在、ポンペオの顧客がワシントンで構想中のイラン経済開発モデルと変わりはない。彼らは既に政権交代や戦争後の化石燃料の分配についても計画中である。

ポンペオは北朝鮮で何を協議したのか

対北協議の内容を探るために、5月14日に平壌から帰国したポンペオが記者会見で何を語ったのかについて考えてみることにしよう。

「アメリカ人が入れるようになります。それは市民の税金とは関係なく企業が北朝鮮に出向き、エネルギー・電力系統の建設をサポートするようになります。北朝鮮は大量の電気を必要としています。」(Voice of America)

 「民間部門のアメリカ人」が北朝鮮に押し寄せて、エネルギー・電気系統の建設ができるというポンペオの提案は、一般納税者の負担ではない肯定的な何かで賄われる。しかし、北朝鮮が望もうが望むまいが、短期間で利益を企む民間企業がいい加減なエネルギー・電気系統の建設をしてしまうというのがポントなのである。そして、そのエネルギー・電気系統はポンペオのVIP顧客であるコーク兄弟が採掘した安価な石炭で稼動することになるはずである。

 北朝鮮に必要なのは大量のエネルギーではない。専門知識を持つNGOや有識者のサポートが必要なのであり、また、一致協力して問題解決に尽力を尽くす世界人とのコミュニケーションが必要である。北朝鮮住民を教育して、採掘が及ぼす環境破壊について理解させなければならないのである。

 北朝鮮住民が幸せに暮らすためには「大量の電気」の消費が必要だと仮定しており、これがアメリカのマスコミの一般的な論調になっているが、こういった仮定にはいかなる根拠もない。北朝鮮は大量のエネルギーを消費せず、金儲けに目がくらんで目先の利益にとらわれている企業の政治介入を要しなくても発展する方法はいくらでもある。

 北朝鮮住民はそれほど多くのエネルギーを必要としていない可能性が大きい。アメリカ企業にとって北朝鮮はどうでもいいのである。ただ過酷な労働力搾取によって富が築ける新たなビジネスチャンスの方が大事なのである。

 ポンペオは石炭使用による大気汚染や気候変動の破壊力など眼中にない。彼は気候変動はデマカセだと思っており、また、化石燃料は経済発展には不可欠であるという論理を助長するために、コーク兄弟が設立したいい加減な研究機関が発行している偽の研究報告書を堂々と宣伝した記録もある。また、彼は下院議員時代から一貫して、市民の健康を害する工場からの汚染物質排出規制に反対の立場を取ってきた。

 ポンペオは記者会見で次のような発言もしている。

 「社会基盤施設や北朝鮮住民が必要とする全てのものを開発するために、北朝鮮と一緒になって取り組んでいくつもりであり、アメリカの農業業界は北朝鮮住民が牛肉を食べて健康に暮らしていけるようサポートすることでしょう。」

 ポンペオの想像する社会基盤施設にはおそらく高速道路、発電所、浄水場、超高層ビル、富裕層のための豪華なショッピングモール等も含まれているであろう。一般住民の血と汗、そして指導層の無分別な放蕩で作られる社会基盤施設である。

 北朝鮮の開放は無謀な消費や廃棄物の増加を意味している。北朝鮮がスタート段階から専門知識を開発できないようにして、外部の専門家に多く依存するようにする意図が見られる。その上、アメリカ国内の行政機関を破壊して、アメリカ全域を私有化しようとするトランプ政権の動きを考えてみれば、北朝鮮の全ての社会基盤施設もやはり利益を得ようとする多国籍企業が建設するであろうし、そうして得られた利潤は北朝鮮の一般住民にはほとんど還元されないのは目に見えている。

 ポンペオのあきれた発言の中でアメリカ産の牛肉を食べるという部分が個人的には最も気に障った。いくつかの研究でアメリカ産の牛が一般的に口にする合成ホルモンや抗生剤は健康に深刻な害を及ぼすという結果が発表されているのに、アメリカ産の牛肉を食べると健康になるであろうという発言をするとは。私なら何がなんでもアメリカ産の牛肉は避けたい。

 たんぱく質摂取を増やすことが健康増進に役立つといっても、北朝鮮住民にとっては環境をひどく破壊するアメリカの工場式畜産農場ではなく、他の方法で自分たちが所有する小規模な土地で鶏や豚を育てる方がよっぽどましなはずである。アメリカの農場では牛に干し草の代わりにトウモロコシ肥料を与えているので、牛は大気に炭素を排出することになり、その結果、環境を限りなく汚染させている。輸入牛肉は北朝鮮にとってもよいはずがない。

 現在、北朝鮮が必要としているのは、農業政策のツケによって過去数十年間も荒廃してしまった土壌や森林を再建するための取り組みである。マクドナルドのような基礎栄養素が不足しているファーストフードの形態でアメリカ産農産物の中毒になってしまうことなど北朝鮮住民は望んでいないのである。

 トランプがいくらツイッターで騒いでも、離散家族の再会や社会・医療分野にNGOが参加するという話は出てこない。北朝鮮住民の本当の関心事は何なのかについて有識者が具体的に話し合っているという話も聞かない。その代わりに、マスコミがああだこうだと重要な会議が開かれるだろうと言うだけなので、我々は気が揉まれるだけである。米議会は完全な非核化という不可能な課題の解決をトランプ政権が確認できるまでは対北制裁を続けるべきだと宣言した。ところで、トランプ政権はそうする能力や意志も持ち合わせていない。

アメリカの表側と裏側の格差

 米国国務省の本館であるハリー・トールマンビルの正面玄関はインターシップでワシントンを訪れる世界中の大学生たちが記念撮影をする人気スポットである。1941年に建てられた大理石の正面玄関はWPA(米公共事業促進局)の建設様式を精細な様式で絶妙に削った優雅さを備えている。長い歳月の間、ファシズムに立ち向かってきた外交官や国連の成立に尽くしたジョージ・マーシャル(George Marshall) 国務長官と夜遅くまで苦労を共にした公務員たちに似た気品高い美しさが滲み出ている。

 しかし、このような甘い想像は、今日、その裏側で起こっていることとは何ら関係がない。レックス・ティラーソン前国務長官は倫理的で能力のある専門外交官をこの建物から追い出すのに多くの時間を注いだ。彼は高位外交官を露骨的に解雇したり、自らの足で立ち去らざるを得ない居心地の悪い環境を作った。

 国務省終焉の最終段階は多少急ではあったが、長い間続いた膠着状態が頂点に達しただけにすぎない。

 国務省の終焉は連邦政府の終焉というさらに大きな事件の一部であり、その始まりは1970年代であった。ロナルド・レーガンと彼の富豪の側近たちが権力の座に座った1981年、彼らは連邦公務員が今まで享受していた保護処置を剥奪して、連邦公務員の労働組合を崩壊させるために迅速に動いた。専門公務員は権威の基盤を失いはじめたため、もはや政治家を牽制できなくなった。政府機関はもはや知識人には魅力的な職業ではなくなり、知識人は弁護士になったり銀行に就職したりした。

 レーガン政権は政策民営化の第一歩を踏み出し、利益を追求する私設シンクタンクやコンサルティング会社、その他の政府に寄生する機関に納税者の税金を割り当てはじめた。それ以降、政府は独自の長期政策を決定できない状態になってしまった。政府は内部の専門性を育つための資金が断絶され、仕方なくコンサルタントに依存するようになった。これは企業と政府の権力関係が永久的に変わってしまったことを意味している。

  ジョージ・ブッシュ(George W. Bush) はチャンスさえあればいつでも世界大戦を始める用意ができている右翼の過激派をホワイトハウスに連れ込み、その政権が極端な民営化を急速に進めることになった。しかし、政府内の反発も半端ではなかった。何よりもクリントン前大統領が任命したジョージ・テネット(George Tenet)がCIAに居座っており、穏健派 のコリン・パウエル(Colin Powell)将軍が国務長官になった。彼らは英雄ではなかったが、それぞれのポストに長く居座ってくれたおかげで、ディック・チェイニー(Dick Cheney)やドナルド・ラムズフェルド(Donald Rumsfeld) のように自分に歯向かう者をことごとく排除してしまう人物の活動を部分的ではあるが阻止することができた。連邦政府には外交・安保問題について真剣に取り組み、優秀で意欲溢れる者が多少まだ残っており、彼らはチェイニ―副大統領の任期の真っ只中でもブッシュ政権の政策に反する報告書を公式的に発表した。

 こういったパッシングによってチェイニーや彼の側近が試みたイランとの戦争が二度(またはそれ以上)も挫折すると、右派陣営は公務員体制全体を崩壊させて、その機能を企業に委託することに決めてしまった。民間部門は利益を追求するので、命令には逆らわないであろうというのが理由であった。

政府に残っていた人たちも変わってしまった。平凡な公務員の待遇はひどくなっていく一方で、高位官僚は特典を得られるようになり、退職後、コンサルタントとして働いて巨額の金を手にするようになった。本来、アメリカでの政策決定は政府の役目だったが、これが利益追求団体の手に渡ってしまったので、現在の政策立案制度が危機に瀕していることは公然の秘密である。

国務省が専門性を喪失して、意思決定のプロセスで国務省の意見が反映されないとしても、実際にはポンペオが権力を握っており、政策決定を下せる権利があるのは明らかである。何よりも彼は議会を完全に無視しており、法律上の手続きは蹂躙できるので、歴代の国務長官の中では最強のポジションにいるのは否定できない事実である。

 彼のパワーはどこから来るのかについて答えるには、まず過去30年間、連邦政府や州政府全体を取り巻く変化のプロセスについて考えてみる必要がある。政府だけが萎縮して企業を牽制する能力を失い、政策立案を利益を求める法曹界やロビストやコンサルタントに転嫁してしまったのではない。もはやアメリカ市民は政策立案という参与的なプロセスにはこれ以上介入しなくなってしまった。

 こういった状況についてシーダ・スコッチポル(Theda Skocpol)は、『失われた民主主義:メンバーシップからマネージメントへ』(Diminished Democracy: From Membership to Management in American Civic Life)という本の中で、全階層のアメリカ人が日常的に民主主義プロセスに参加していた慣行がどのようにして消えていったのかについて説明している。一昔前のアメリカ人は子どもの保護者会、ライオンズクラブ、町内の行事等でさまざまなバックグランドを持つ人たちが定期的に集まったり、退役軍人団体、女性団体、YMCA、ボーイスカウト等の会合を通して一堂に会していたのだが、今日のアメリカ市民は一人で過ごしたり、少数の友人だけでスターバックスに集まり大衆文化の話に花を咲かせることを好む傾向がある。

 一昔前の世代ではそういった団体の中でも選挙をしており、多くの市民たちが地域団体を管理することにも参加した。1980年代以降、その中でもとりわけ過去15年間はほとんどの市民がソーシャルメディアで意見交換をするだけで、参加や献身が要求される活発な団体活動には手を貸さなくなった。

 その結果、どんなことが起こっただろうか。選挙運動や政策立案は未だに行なわれているが、共和党や民主党が独占する選挙には市民生活に密着している民間団体が足を踏み入れる隙がなくなり、それゆえに次第に背を向けるようになってしまった。政府は不透明で参加を促進しない「経営」スタイルをモデルにして、民主的なプロセスはすっかり廃れてしまった。

 一般市民が民主主義のプロセスに参加できなかった間、富裕層や企業は莫大な投資をして自分たちに利益をもたらすNGOを設立し、また自分たちの声を反映する新聞や雑誌を広告予算という手段で乗っ取り、各ニュースに北朝鮮の脅威や自由貿易のメリットという虚偽を説く「専門家」をバックアップしてきた。それを横目にポンペオは一息ついていることだろう。

 トランプの政策を支持するいわゆる「保守主義者」は、極少数の右派企業が所有する商業メディアが組織的に流す虚偽情報に惑わされて、おかしくなっていく世の中を必死になって理解しようとする無実な市民なのであって、政治的な信念によって出来上がった集団ではない。残念なことに、富裕な家庭で育ち高等教育を受けた運の良い人たちはこういったトランプの支持者たちが経ている状況には何の関心もなく、単なる「愚かな」有権者として片付けてしまう。

 莫大な額の金を投入して専門家やジャーナリストを買収し、観客のいないイベントを開催したり、あたかも企業の金融支援をする運動を展開しているかのようなイメージを作り出すためにロビストを雇用するという手段で人の心を掴むというプロセスは、アメリカを支持するNGO(People for the American Way)が1996年に発行した報告書「Buying a Movement」に詳しく記載されている。この報告書はダークマネーがアメリカ政界を乗っ取りはじめた頃に作成され、その後20年間の状況はさらに悪化した。

 企業の影響力拡大はアメリカの政策プロセス歪曲の第一段階に過ぎない。長期に渡って少数の個人だけが莫大な富を手にして、アメリカでは大富豪の富の蓄積が幾何学的に増加して、企業ではなく個人の大富豪が皇帝のように責任は取らないが、政策は決定できる段階に入った。

 ところが、過去5年間続いた減税や企業に有利な規制緩和が完全に新たな政治の世界を作り出した。ウェルスーXレポートやこれらが発刊した「2018年富豪人口調査」によると、富豪の財産は2017年には24%増加しており、世界GDPの12%である9兆2千億ドルが彼らの手元にある。

 20年前の企業の代表は政策に大きな影響を及ぼしたが、民間部門を管理する役割を担い、ソフトで寛大な能力中心主義に対するある程度の責任を負った。しかし、今や彼らは、ビル・ゲイツ(Bill Gates)、ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)、ウォーレン・バフェット(Warren Buffet)等、あたかも現代の預言者にでもなったかのように一言でマスコミを牛耳る億万長者に、その座を譲り退いてしまった。

 ところで、謎の裏金やマスコミ統制でトランプをホワイトハウスに送り込んだ陰の億万長者たちがいる。それは強硬派イスラエルの後援者であるシェルドン・アデルソン(Sheldon Adelson)、バーナード・マーカス(Bernard Marcus)、ロバート・マーサー(Robert Mercer)と、そして最も重要な石炭・石油業界最大手のチャールズ、デイヴィット・コーク兄弟である。この富豪たちは政治に十分な資金提供をすることで社会全体をいとも簡単に手中に収めて、自分たちの要求を真っ先に対応してくれる大統領を選出させようと博打に出た。矛盾だらけのツイートやでたらめな報道で世の中の人々を混乱に陥れ、またそれを利用できるという計算だった。これまでは彼らの思惑通りであった。

 5年前まではこのようなシナリオは不可能だった。最近行なわれた「税制改正」以降、目立って増加した富の相続はこういう大富豪たちや彼らの側近が権力を略奪して、これからはさらに果敢に動いていくことを暗示している。

 総財産価値が一千億ドル以上にものぼるコーク兄弟がまさにマイク・ポンペオを支えるパワーの源であり、ポンペオはアメリカ人や国際社会の要求には耳を傾けず、連邦政府の官僚としての義務を果たさずコーク兄弟の要求だけに応じている。

 もちろん、ポンペオは米陸軍士官学校であるウェストポイントを首席で卒業した優秀な人物である。しかし、彼は他の誰でもなくコーク兄弟に揺るぎのない忠誠を誓い、今のポストまで登りつめた。どれほど優秀な人物なのかを見せ付ける一面でもある。彼は一点に富が集中する社会で強いて力のない者のために時間を費やす必要はないことをいち早く察知したのであろう。

 全くその通りである。現在、実際にポンペオは無視できない権力を握っており、ハリー・ハリス駐韓米国大使指名者や他の官僚たちとは北朝鮮問題をめぐって綱引きをしている。しかし、ポンペオの権力の源は米国務省の公務員やCIA・国防省ではない。彼の権力の源はコーク兄弟が持つ幅広いネットワークやポンペオが世話になっている他の利益団体なのである。

 ポンペオはチャールズ、ディヴビット・コーク兄弟や彼らと関係がある石炭・石油採掘利益団体から米議員の中の誰よりも一番多く金を受け取っている。

 Documented Investigationsの理事を歴任しているリサ・グレイブス(Lisa Graves)はあるインタビューで、ポンペオは政界に登場した当初からコーク兄弟と密接した関係にあったと語っている。ポンペオは反射的にコーク兄弟が提案した立法を支持して、カンザスの有権者の問題には目もくれなかった。彼はまた、企業を規制して環境を保護しながら市民が自ら意思決定が下されるようにするための教育を提供する政府の取り組みを阻止しようとするコーク兄弟の運動に率先して協力した。

 このように政府の無力化を図るために見せかけのシンクタンクを作り、政府の権力乱用問題は解決できないまま、企業の犯罪行為に立ち向かう能力を制限する「制限された政府」の主張を擁護しなければならなかった。

 フード・アンド・ウォーター・ウォッチを率いるウェノナ・ハーター(Wenona Hauter)は、「ポンペオは最も高額を提示する入札者にいくらでも自分を売り得る機会主義者」であり、「彼はGMO食品表記を要求できる州政府の権限を妨害した時点ですでにカンザスの有権者を無視した。彼の忠誠心は有権者ではなく、モンサントや危険な農化学物質、そして農民すべてがこの物質を非正常的に依存するようにすることに向いていた」と語った。

 ポンペオは議会では 気候変動を否認して、コーク兄弟が出資している団体が発表した偽の研究結果を配布して、あたかも環境汚染の影響やコーク兄弟のずうずうしい犯罪行為が存在しないかのように憚りなく主張した。

 また、ハーターは次のようにも語っている。「コーク兄弟が数千万ドルも費やして気候変動への共感帯を否定するためにデタラメな科学を宣伝したことを知っています。」

 コーク兄弟の策略はこれだけではない。コーク反対団体である「アンコーク・マイ・キャンパス」は、コーク兄弟が推し進める偽善的な「自由市場」政策、すなわち、国家の繁栄には企業の規制緩和が必須であるという論理を擁護してくれる教授を増やすために、大学の教授任用に積極的に介入してきたことを示す文書を発表した。コーク兄弟はいくつかの大学での教授任用や雇用維持の決定時に、秘密裏に自分たちの発言権を主張する形で影響力を行使してきた。

 また、大学生や高校生を対象に法人税や政府の規制は最小限に減らすべきだというメッセージを送るために膨大な金を投資して「青年起業家(Youth Entrepreneurs)」を育成したこともある。

米朝脳会以降の展望

 金正恩とトランプの首脳会談はどう評価すべきか。

 我々は今、ナポレオン三世やバイエルンの「狂王」という異名で知られるルートヴィヒ二世にも引けを取らないくらいの、グローバルリーダーシップを黙祷している。 安保や国際関係の専門家たちも言いたいことは山ほどあるであろうし、Fox Newsや CNNは大きな金を稼げることができるという事で浮かれているのがよく分かるだろう。政策決定が重要であればあるほど、面白いことに熱中する商業メディアは逆に重要でない問題に集中する。トランプは 会談以降Fox Newsを見たり、またはフレンズを見たりしていて、思いつきばったりなことをツイートしただろうが、何が問題になることであろうか。

 カペラ会談はいくつかの深刻な結果をもたらしたであろう。

今回の首脳会談は、FBI捜査の背後にいる勢力と最終決戦を控えて権力を維持しようとするトランプ政権が選択した政治的三角測量の手段である。     

 民主党は共和党に勝つために共和党の戦術を真似て、今回は自分たちが強硬派であることを訴えつつ相当な部分を右派論理に転じた。民主党は北朝鮮が五つの条件をのまなければ、対北制裁の緩和に反対すると宣言した。

 こういった民主党の右傾化は(ロシアに対する至大な関心とともに)あたかもトランプが貪欲で民主党(そして共和党)の主流に反する開放的リベラル派の人物にみえるようにする。アメリカ史上、最も腐敗した大統領としては大した成果であることは間違いない。しかし、民主党の変革はそれに留まらなかった。下院議員に挑戦する民主党候補の過半数は軍や情報機関で働いたことのある経歴の持ち主で、多数が深刻な利害関係にあって、ロシア、イラン、中国、北朝鮮に対して強硬な立場を崩すのは難しい状況にある。わかりやすく言えば、今日の民主党は一時、民主党の名でデニス・クシニッチ(Dennis Kucinich)やポール・ウィルストン(Paul Wellstone)のような思慮深い政治家を支持した団体とはごく最小限の関係ばかりを維持している。

 次に、今回の会談は米軍内の強力な分派がイラン、ロシア、中国(または、三ヶ国とも)に対して直接的軍事行動を要求している時点に開かれるということである。その目的地がシリアになるのか、南シナ海、または北朝鮮になるのかはわからないが、全面的な軍事対立に向かう動きは早く進行している。

 トランプが北朝鮮との和平についてツイートしたという話は聞いたことがあるだろう。しかし、新たに駐韓米国大使に任命されたハリー・ハリスは5月30日に「北朝鮮は今も変わらない目の前に迫る脅威である。アメリカまで飛ばせれる核兵器やミサイルを持っている北朝鮮を決して許すことはできない」と発言した。最近、トランプもこれに似た調子の発言をし始めた。

 皆さんは聞かなかったかも知れないが、中国や北朝鮮はこの発言を見逃さなかったでだろう。

 先月、アメリカの対中国圧力は極端にエスカレートした。中国人への訪問ビザ発給の制限、産業スパイ活動をする中国企業の告発、法や国際条約の束縛に縛られず、大規模な報復関税を実施するように求める声が大きくなった。 アメリカはマレーシア、フィリピン、オーストラリア、韓国には中国に対して敵対的な姿勢を取ることや、北朝鮮問題の協議から中国を完全に疎外させるように圧力をかけている。世界経済の中心であり世界人口の六分の一を占める中国に対して無理やり対立を煽るのが適策のはずがない。

 中国は、アメリカが成しえない気候変動の問題解決や再生エネルギーの発展に真剣に取り組んでいることは言うまでもない。

 ところで、日本、韓国や他の同盟国との協議をみると、アメリカとの同盟に熱意が低下していることがわかるであろう。むしろ、これらの沈黙から相反する感情が見え隠れするのが感じられる。

 我々は現在アメリカ外交から「赤色巨星」現象を見ている。赤色巨星とは、星が消滅する直前の段階で核にある水素を焼き尽くさせて、核反応が止まる時点のことである。星の中心部は重力によって収縮、水素を吸収して、力を失った中心部の付近でゆっくりとした融合反応が始まる。その結果、この核融合はさらに広い表面部分まで進んでいくが、その強度は随分減少する。結果、この赤色巨星はエネルギーを使い果たし、終いには白色矮星を形成する。

 これに似ているのが東アジアで拡散中であるアメリカの莫大な軍事力なのである。アジア専門家の育成失敗や、大使館・シンクタンクの専門性損失や、アメリカとアジアをつなぐ文化・学術的交流の失態等、かみ合わない姿が、新たなアイデアや政策を生み出す中心部の力を失ったアメリカが統制不可能な手段で膨張はするものの、それほど長くは続かないことを示唆している。この膨張は必然的に収縮するしかない。

 我々は、アメリカが北朝鮮と真剣な対話を推し進めていくのと同時に世界大戦に向かっていく、矛盾的ではあるが不可能だとも言い切れないシナリオを念頭に置かなければならない。中国との戦争に始動をかけるアメリカ国内の声に沈黙する主要マスコミは卑怯にも我々の耳を塞いでいる。この間の首脳会談は経済の軍事化というアメリカの恥部を覆うイチジクの葉の役割も果たした。

 我々には根本的な方向の転換が必要であるが、トランプと金正恩の初期推進力が助けになるかもしれない。

 我々は政治的意味での合気道を修練すべきである。言い換えれば、トランプと金正恩が自分たちのために始めたこのアクションが新たにポジティブな方向へと向かうようにすべきである。 これは不可能ではない。ただ、グローバル市民として根気よく関心を傾け続けることが大事である。

 我々はこの会談を十分に活用して、関心を持ち続け、慎重に正しい方向へ向かうようにしなければならない。今回の会談以降、ブレトン・ウッズ協定や国連会談(1945)で確立されたグローバルガバナンスに活気を吹き込むべきである。自己陶酔に陥ってしまった政治家たちに決してボールを渡してはならない。