「あの人、逮捕されたらしいよ。」痴漢撲滅の警察ポスターに弁護士が「誤解を与え偏見を助長する」と批判【UPDATE】

「逮捕の段階で、すでに裁判で有罪が確定したかのような反応をする表現が、あちこちで使われている」

愛知県警鉄道警察隊が6月1日から始めた2018年度の「痴漢撲滅 キャンペーン」のポスターに載ったキャッチコピー「あの人、逮捕されたらしいよ。」が物議を醸している。

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痴漢撲滅キャンペーンのポスター
愛知県警のホームページから

愛知県警はホームページで、「夏を前に軽装が増えるこの時期、列車での痴漢や盗撮などの悪質な犯罪を防ぐ」と狙いを説明しているが、「誤解を招き、偏見を助長する」という批判も出ている。どんな内容なのだろうか。

ポスターで目を引くのが、「あの人、逮捕されたらしいよ。」という見出し。横にLINEのような形式で、女性2人のトークが続く。

A「聞いた? あの人、痴漢で捕まったらしいよ。」

B「えwwwwwwwww」

A「本当本当!さっきネットニュースで見た!!そんな人に見えなかったわ」

B「気持ち悪 軽蔑だわ 性犯罪者じゃん」

A「仕事もクビになるよねー。家族も悲しむだろうなあ」

B「そりゃそうだわ 私は一生関わりたくない」

A「この先どうなっちゃうんだろう...」

B「そういえば......私先月あの人と電車で偶然会ったよ」

A「そうなんだ?! 変なことされなかった?」

B「あの時は何もなかったけど」

「なんかもう、あの人のこと思い出したくもない」

A「女性の私たちも被害に遭わないよう気をつけなきゃね」

このポスターの内容について、亀石倫子弁護士が Twitterでこう指摘した。

これはひどい。

推定無罪(裁判で有罪が確定するまでは無罪と推定される)が原則なのに、誤解を与え偏見を助長する。 https://t.co/fKZLhKc44m

— 弁護士 亀石倫子 (@MichikoKameishi) 2018年6月3日

亀石弁護士に、ポスターの問題点を詳しく解説してもらった。

亀石弁護士:このポスターの一番の問題点は、逮捕の段階で、すでに裁判で有罪が確定したかのような反応をする表現が、あちこちで使われていることです。

説明すると、刑事裁判で有罪が確定するまでは、たとえ逮捕されても「罪を犯していない人」として扱わなければならないのです。これは「無罪推定の原則」と呼ばれ、世界の刑事裁判の大原則です。

「無罪推定の原則」があるので、被告人は証拠によって有罪であると認定され、その判断が確定するまでは「罪を犯していない」と見なされます。

有罪が確定すれば、自由や財産、場合によっては生命をも奪う刑を受けなければなりません。刑罰というのは、それだけ個人の人権を制限することなので、「無罪推定」をくつがえすだけの十分な証拠がそろったと、裁判官が判断することが不可欠なのです。

さらに、最初の裁判(一審)で「有罪」でも、被告人には、控訴、上告と計3回の裁判を受けることが保障されています。十分な証拠がなく、有罪であるとの確信が持てない場合は、「無罪推定の原則」に基づいた「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用され、無罪としなければなりません。そのくらい、「有罪」は厳しい審査を経ているのです。

ですが、愛知県警のポスターでは、まだ裁判すら受けていない「逮捕」されただけの段階で、あたかもやったに違いないという、有罪前提のやりとりが書かれ、「性犯罪者じゃん」とすら言われています。

こんなポスターが、県警の痴漢撲滅キャンペーンで使われていれば、多くの人が「逮捕=有罪」だと誤解するし、偏見が強まることを危惧しています。県警は、当然「無罪推定の原則」を知っているでしょうが、あえて無視しているのだろうかと、逆に勘ぐりたくなります。日本広告審査機構(JARO)に苦情を申し出ようかと思っているくらいです。

「逮捕」に対する誤解とは別に、このポスターでもう一つ、危惧している表現があります。それは、トークの最後にある、「女性の私たちも被害に遭わないよう気をつけなきゃね」という部分です。

痴漢に遭わないように気をつけなきゃ、と言いますが、何をどう気をつければいいのでしょうか。

性犯罪でしばしば「気をつけていなかった被害者にも落ち度がある」などという批判が被害者に向けられますが、それは「二次加害」に当たります。二次加害につながるような視点も、人権侵害を助長しかねないと思っています。

【UPDATE】ハフポスト日本版は6月4日、愛知県警広報課にポスター制作の経緯などの質問書をファクスで送付した。