30年前に放置された北極の測候所で生活していたのは、シロクマたちだった――。
北極で暮らすシロクマたちの驚きの姿を、ロシアの写真家ドミトリー・コッホ氏が捉えた。
コッホ氏は2021年、チュクチ自治管区にあるウランゲリ島でシロクマの姿を捉える撮影の旅に出た。ウランゲリはユネスコ世界自然遺産に登録されている島で、シロクマの繁殖地として知られている。
しかし悪天候から避難するために立ち寄ったコリューチン島で、コッホ氏の一行は思いもよらない光景に遭遇した。
コリューチン島は小さな島で、ソビエト連邦時代に建てられた北極の測候所がある。ソ連崩壊後の1992年に閉鎖されたが、人がいなくなった後も建物は残っている。
コッホ氏は「嵐を避けようとボートで島に近づいた時、放置された建物の窓で何かが動くのに気づいた」とガーディアンへの寄稿でつづっている。
1人が双眼鏡で確認すると、シロクマが窓から顔をのぞかせていた。さらに建物の周辺に、20頭ほどがいた。
写真にはシロクマの仕草や表情がはっきり写っているが、コッホ氏ら直接シロクマに近づいたわけではなく、低騒音のプロペラをつけたドローンを使い、相手を怖がらせない特別な方法で撮影したという。
さらに、カメラは自然の美しさや現実離れした世界だけでなく、北極圏のゴミ問題も捉えている。
コッホ氏はドラム缶の周りを歩くシロクマの写真について、次のようにつづっている。
「ゴミ問題はよく知られています。例えば、約1200万個の燃料用ドラム缶が海岸沿いに散乱していますが、これはソビエト時代に持ち込まれたものです。燃料を使用した後に、あちこちに捨てられたのです。さらに、放置された村や建設ゴミなどもあります。今、全てを取り除くにはとてもお金がかかります。政府は清掃計画に着手しているようですが、解決方法が見つかってほしい」
なぜシロクマたちは、人間が放置した建物で生活するようになったのか。興味を抱いたコッホ氏は、生物学者のアナトリー・コチネフ氏に理由を尋ねた。
するとコチネフ氏は、シロクマの好奇心旺盛な性格や、人間から身を守るためという理由に加えて、興味深い話を教えてくれた。
コネチフ氏によると、理由はわかっていないものの、9年に1度の割合で、浮氷が夏の間海岸の近くにとどまる年がある。その結果シロクマたちは北に移動できず、コリューチン島に残って測候所で生活するのではないかという考えだ。
コネチフ氏の言葉を裏付けるように、コッホ氏はその後に移動したコリューチン島より北のウランゲリ島で、ほとんどシロクマに遭遇しなかったと説明している。
北極のシンボルであるシロクマは、気候変動の影響で存続が危ぶまれている。
シロクマは海氷に乗って獲物を取ったり移動したりするが、その海氷が早いペースで薄くなっているのだ。
2021年の研究で、コロンビア大学研究者らは「二酸化炭素排出が現在のペースで続くようであれば、2100年までに夏の海氷がなくなり、ホッキョクグマは絶滅するだろう」と警告している。
生き物たちの未来は不安定だが、コッホ氏は、倒壊しそうな建物から顔をのぞかせるシロクマを見て、人工物が壊れた後も生命は続くと感じたという。
「生命は永遠に存在し続けます。私たちが大切にすればですが」とライブサイエンスに語っている。