「ポケモンGO」&「シン・ゴジラ」-仮想現実(VR)から拡張現実(AR)へ:研究員の眼

『ポケモンGO』と『シン・ゴジラ』に共通する点は、拡張現実の技術が、「虚構」と「現実」を融合するところに新たな魅力があるのだろう。
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最近、スマホ向けゲーム『ポケモンGO』と日本映画『シン・ゴジラ』が大きな話題になっている。

『ポケモンGO』の人気の秘密のひとつは、ポケモンが現実空間に出現することだろう。

CGで精密に描かれたポケモンが、仮想現実(VR:Virtual Reality)ではなくリアルな日常空間に現れ、非日常の出来事を日常世界に引き込むからだ。拡張現実(AR:Augmented Reality)の技術が、「虚構」と「現実」を融合するところに新たな魅力があるのだろう。

『ポケモンGO』では、ポケストップで「ルアーモジュール」という道具を使うと30分間ポケモンを引き寄せられる。ルアーモジュールが有効な間、ポケストップには花びらが舞い、ポケモンを求めて多くのプレイヤーが集まってくる。

ルアーモジュールが引き寄せるのが、仮想現実のポケモンだけでなく、現実世界の人間であるところが興味深い。

もうひとつの大きな話題が、7月末に公開された映画の『シン・ゴジラ』だ。

東京湾に突如出現した巨大不明生物(のちにゴジラと命名)が、首都・東京に上陸するのだ。特撮が駆使され、リアリティあるゴジラの動きや破壊されてゆく巨大都市・東京の姿が精緻に描かれている。

映画のキャッチコピーは『現実対虚構』で、「現実」には「ニッポン」、「虚構」には「ゴジラ」とルビがふられている。

かつてゴジラをテーマにした映画は、仮想現実の世界だった。しかし、『シン・ゴジラ』は日常生活を営む街にゴジラが侵入する拡張現実に思えた。そこに展開される光景が、2011年3月11日に発生した東日本大震災の映像と重なるからだ。

大津波の映像をテレビで見たとき、どうしても仮想現実にしか見えなかった。その後、実際に被災地を訪れ、ようやく現実世界と一致したことを覚えている。

今回、『シン・ゴジラ』を観た多くの人は、映画で展開する光景が仮想現実ではなく、拡張現実ではないかと思っただろう。

もし東京に直下型大地震が発生したら、ゴジラが破壊し尽くした街の光景は、決して仮想世界ではなくなるからだ。

映画の主人公はゴジラではなく、想像を絶する未曽有の出来事に直面した日本社会のなかに生きるわれわれ自身や懸命に対応する社会そのものではないか。

東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故の映像も、最初は仮想現実としか受け止められなかった。未だに避難生活が続く被災地を見れば紛れもない「現実」なのだ。

ときに「現実」は人間の想像力の限界を明らかにする。

新宿歌舞伎町のビルの上から咆哮するゴジラ(*1)は、人知を超えたカタストロフィーが「虚構」ではなく「現実」であることを思い起こさせるリアルなモニュメントであるように思う。

(*1) 2015年4月に新宿歌舞伎町の旧コマ劇場跡地に建つ超高層ホテル8階テラスに誕生したほぼ原寸大の「ゴジラヘッド」のオブジェ。

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(2016年8月16日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員