「崖の上のポニョ」舞台は残った。「鞆の浦」埋め立て計画を正式撤回

住民や映画ファンを巻き込んだ論争になっていた計画が、正式に断念された。
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宮崎駿監督のアニメ映画「崖の上のポニョ」の舞台のモデルといわれる広島県福山市の「鞆の浦」(とものうら)。

豊かな景観で知られる湾を埋め立て、橋を建設する計画が持ち上がったのは23年前。住民や映画ファンを巻き込んだ論争になっていた計画が、正式に断念された。

広島県は2月15日、計画の差し止めを巡って係争中の広島高裁に、国への埋め立て免許申請を取り下げる方針を伝え、住民側は訴えを取り下げた。朝日新聞デジタルが伝えた。

広島県は1983年、道路混雑の解消を目的に、約55億円をかけて、湾内を一部埋め立て、湾を横断する形で橋を架けるなどの計画を策定した。しかし、ユネスコの諮問機関・NGO国際記念物遺跡会議(イコモス)が、景観の保全と計画の撤回を繰り返し勧告。住民側は「景観が大きく損なわれる」として、計画の差し止めを求め、2007年に提訴した。

2009年10月1日の広島地裁は、以下のように指摘し、住民の訴えを全面的に認めた。

鞆の景観は、美しい景観であるだけでなく、歴史的、文化的価値を有するものであり、このような鞆の景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者の景観利益は、法律上保護に値するものである。(出典:朝日新聞2009年10月2日付朝刊=大阪本社版=)

2008年の「崖の上のポニョ」公開後、鞆の浦は観光地としても人気を呼び、景観論争が国際的に注目された。判決後に就任した広島県の湯崎英彦知事は2012年6月、山側にトンネルを通すなどの変更案を提示し、事実上、計画の撤回を表明した。しかし、計画を推進してきた住民や地元・福山市が「今までの議論は何だったのか」として反対したため、広島高裁で訴訟終結に向けた調整が進んでいた。

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映画「崖の上のポニョ」には、鞆の浦によく似た風景が登場する。宮崎監督は2004年11月に「スタジオジブリ」の社員旅行で初めて鞆の浦を訪れた。2005年に再訪して約2カ月滞在し、江戸時代の風情が残る町並みを見て回りながら、映画の構想を練った。

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2009年10月1日、広島地裁判決を受け記者会見する宮崎駿監督。

2009年に広島地裁が計画の差し止めを命じた際には記者会見し、「今後の日本をどうしていくかという時に、大きな、良い一歩を踏み出した。文化財を破壊するのに、準備も計画もずさんであるとの判決は非常に的を射ていると思う」と評価していた。

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