「プラティッシャー」の頓挫:〝バーベルの中間〟はデッドゾーン

プラットフォームとパブリッシャーの両立は、どこに問題があったのだろうか。キーワードは〝バーベルの中間〟だという。
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「プラティッシャー」という言葉を随分と久しぶりに見た。

テックニュースサイトの「ディジデイ」がこんな記事を載せていた。「プラティッシャー、ご用心:セイメディアがパブリッシャー事業を断念

プラットホームとパブリッシャーで〝プラティッシャー〟。

この造語自体はあまりにセンスが悪いと、評判は散々で、今でもグーグルで検索すると、「言葉のテロ」という「ゴーカー」の記事がトップに表示される。

ただ、そのモデル自体は、注目を集めてきたのは確かだ。プラットフォームとパブリッシャーの両立は、どこに問題があったのだろうか。

キーワードは〝バーベルの中間〟だという。

Photo by [ Greg ]Under Creative Commons License (CC BY-NC-ND 2.0)

●「両立は難しい」

セイメディア」は、動画広告の「ビデオエッグ」が2010年に「シックスアパート」を買収した際に、社名変更した(※シックスアパートは翌年、日本のインフォコムに売却している)。

テックニュースサイト「リードライト」や女性のライフスタイルサイト「xoジェーン」などのメディア事業(パブリッシャー)と、コンテンツ管理システム(CMS)「テンペスト」の開発・サービス提供事業(プラットフォーム)が柱。

だが、CEOのマット・サンチェスさんがディジデイに語っているところによると、こういうことになったようだ。

現代的なメディア企業を作り上げようというビジョンのもと、自らメディア企業を立ち上げ、メディア企業と提携、さらに買収し、その基盤となる技術も構築、メディアの階層全体を捉えるという構想だった。だが、その両方を手がけるのは極めて難しいという結論に達したところだ。

結局、「リードライト」「xoジェーン」といったメディア事業を売りに出すことにし、今後はプラットフォームに集中するのだという。

ネイティブ広告のさきがけだったようだが、メディア事業としては規模が取れなかったようだ。

米国のユニークユーザーは3500万人だという。

ユニークユーザー1億8600万人のバズフィードなどがひしめく市場の中では、確かに厳しい闘いを強いられる。

広告の面でも、グーグルやフェイスブックなどの自動化されたターゲティング技術によって、ニッチを狙うブログメディアの存在感が低下している、ともディジデイは指摘している。

ちなみにこのニュースを受けて、「xoジェーン」の編集長、ジェーン・プラットさんは、さっそく「私、売り出し中」との記事をアップしているのは、さすがだ。

●バーベルの中間

テックブログ「ギガオム」のマシュー・イングラムさんは、この動きを、以前からとりあげている〝バーベル効果〟に当てはめている。

〝バーベル効果〟とは、経済の分野で使われてきた言葉のようだ。まさに、バーベルの形のように、両端にはボリュームがあるが、それらに挟まれた中間層はぐっと落ち込む、という例えのようだ。

イングラムさんが昨年、この〝バーベル効果〟を取り上げた時には、新聞社の課金サイトをめぐるこんな文脈だった。

ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルのような大手と、ハイパーローカルなタウン紙といった、両極端のメディアにはネット課金も有効かもしれない。だが、そのいずれでもない、中間サイズのマイアミ・ヘラルドやサンフランシスコ・クロニクル、ボストン・グローブなどの状況はかなり厳しい――。

広告からみた今回の〝バーベル効果〟の両端は、一方はグーグル、フェイスブックの自動化ターゲティング、もう一方はヴァイスヴォックスメディアが取り組むクリエイティブに注力したカスタム広告。

セイメディアは、その中間の〝デッドゾーン〟にはまり込んでいる、との指摘だ。

●「プラティッシャー」のポテンシャル

「プラティッシャー」という造語を言い出したのは、ソーシャルメディア「Sulia」CEOのジョナサン・グリックさんだ。

バズフィードゴーカー、さらにはイーベイ創業者、ピエール・オミディアさんのファースト・ルック・メディアなど、テクノロジー側からのメディア事業へのアプローチが台頭してきた動きを表現したものだった。

セイメディアのほかにも、オミディアさんも出資者に名を連ね、『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』の著者としても知られるジョン・バッテルさんが立ち上げたコンテンツマーケティングサイト「フェデレイティッド・メディア」が、かつての評価額2億ドルの10分の1の価格で今年2月に売却されている。

ただ〝バーベル〟の中間がデッドゾーンになるというのは、この分野に限ったことではないだろう。

呼び名はどうあれ、メディアとプラットフォームの融合のモデルがどうなっていくのかは、もう少し見ていきたい。

【追記】16日10:30am

もう少しで〝プラティッシャー〟という言葉を公には使わないで2014年を乗り切れるところだったのに」という書き出しで始まる、コンテンツプロバイダーの業界団体「デジタル・コンテント・ネクスト」のCEO、ジェイソン・キントさんの寄稿だ。

やはり「プラティッシャー」という言葉は、「アヒルにビーバーの尾っぽをつけるか、ビーバーにアヒルのくちばしをつけるようなもの」と酷評しているが、ポイントは、セイメディアのケースを一般化するべきではない、との指摘だ。

セイメディアは外部提供も行うプラットフォームとコンテンツづくりという、方向性の違う業務を一緒にやることの難しさを示したとし、こう述べる。

セイメディア自身が認めているテクノロジー企業とコンテンツ企業を両立させる難しさを考えるのであれば、むしろAOL/タイムワーナーの分裂と比較する方がよりわかりやすいのではないか。

「プラティッシャー」の枠組みで語られるヴォックスやビジネスインサイダーは、良質なコンテンツづくりのために、テクノロジーを一から構築しているという点で、セイメディアとは別物と考えるべき、との論だ。

なるほど。

これとは別に、オミディアさんのファースト・ルック・メディアもごたついている。

新たなオンラインマガジン「ラケット」の準備をしていたジャーナリストのマット・タイビさんは、マネージメントへの不満から決別。古巣のローリングストーンに戻った。

それに続き、スノーデン事件のスクープで知られるグレン・グリーンワルドさんらが執筆陣に名を連ねるオンラインマガジン「インターセプト」の編集長、ジョン・クックさんまでがやはり古巣のゴーカーに戻ってしまった。

特ダネ記者をマネージメントするのは、そう簡単なことではない、というのは、まあ、そうかもしれないが。

(2014年11月15日「新聞紙学的」より転載)